第5章ー㊳
「疲労…ですか?」
「ああ。肉体は疲労が溜まると著しく活動が鈍る。疲労が溜まったまま走ったらいつもより息切れが早くなったり足が重く感じたりするだろ? パフォーマンスが下がるっていうのはそういうことだ。同様に疲れた状態で魔法を撃てば質が落ちる。そんな状態で、通常の魔法学の授業をまともに受けれんのか?」
「…」
「授業は週五日。午前の授業を受けてたら必要以上に体力を消耗することだろう。今のお前らの状態じゃあ今後行かされる派遣任務どころか授業もロクについていけなくなるぞ?」
先生は真顔で煙草を吸いながら本音を語っていた。それに対して自分達は何も言い返せない。今の自分の状態を見せられて余計に返す言葉がないからだ。
思い返せば、ドレーカ村から脱出出来たのも自分達が幼かったから出来た事なのだろうと思った。あの頃は精神面や肉体面で色々キツイ目に遭ったが、割と体力は有り余ってた気がする。それに比べて、今は一日二日の走り込みでかなりしんどい。幼子の体力の底知れなさに今更になって思い知らされた。
「とにかく、今お前らに必要なのは基礎体力の向上。基礎体力の向上にはやはり走り込みが無難。一に体力、二に体力、三四に体力、五・六・七・八・九・十に体力だ。今はそれだけを頭に叩き込んどけ!」
「…はい!」
先生の言葉に感心した自分達は立ち上がって大きく返事をする。この人、色々ヤバそうな面もあるが、ちゃんと生徒の事を考えていたんだと凄く感銘を受けた。やっぱ名門校なだけあって授業は厳しいものだが、厳しいなりに色々考えがあるんだな。
「…とはいえ、優秀な人材を同じ土俵で立たせるのも申し訳が無い。なので、今から軽いテストをする」
「テスト?」
そんなことを思っていると、先生は突然テストをやり出すと言い始めた。急すぎて皆困惑しているが、一体何のテストを始めるつもりだろうか。
「テストの内容は簡単だ。魔法を使って俺が問題なしと思ったら合格。合格した者は走り込み免除だ」
「ッ!?」
テストの内容は生徒達にとって嬉しいものであると同時に、己の力量を見せなければならないという緊迫する内容となっていた。
「合否の判定は俺の判断で決める。どの程度の魔法を使うかは自由だが、あんまりしょうもねー魔法見せたら問答無用で走らせるからな」
なるほど。先生の判断による合否が決まるということは、当然威力の弱い火球じゃさっきの二の舞になってしまう。今度は威力があまり関係しない光球の方でなんとか…
「あと、お前は走り込み確定だ、赤髪ぃー」
「え゛っ?!」
イケるかと意気込もうとしていた矢先に先生から実質不合格の判定が下されてしまった。今からテストを始めるという話ではなかったのか?
「『え゛っ?!』じゃねーよ。あんなもん見せておいて『次はイケるかも』とか思ってねーだろーなー?」
「い、いや、次は頑張ればイケる気がする…」
「テメーは走り込み確定だ! い・い・な゛っ?!」
「…はい…」
こうして、自分の不合格は睨みを利かした先生の判断により確定となってしまった。アレ? ひょっとして三日連続厄日なのでは?




