第5章ー㊲
「魔法つーのはいわば運動の一種みたいなもんだ。走る、飛ぶ、投げる、蹴る、泳ぐ。魔法を使うのはそれと同様に疲労と共にパフォーマンスが下がるものだ」
「パフォーマンス?」
「あー、口で説明するのも面倒だし、実際にやってみた方がお前らも分かり易いだろう。おい、そこの赤髪のお前、立て」
「俺、ですか?」
「今ここに居る赤髪はオメー以外に誰がいんだよ? 早く立てや。早く立たねーとぶっ殺すぞ」
「は、はいー!?」
先生は説明の途中、自分を指さし半ば脅すように立つよう促してきた。それより、オーヴェン先生といいこの人といい、ここの学園の教師陣はなんで物騒な物言いしか出来ないのだろうか。もうちょっと言い方というものがあるだろ。あと、受け持ってる生徒の名前ぐらい把握しておいて欲しい…と思ったが、自己紹介の時、この人二日酔いでそれどころじゃなかったか。
「お前、今日見た感じそこそこ体力はあるみてーだが、昨日今日の連日走り込みでだいぶ疲労溜まってるだろ?」
「? はい。そりゃあ一応。まあ…」
「はっきりしねーが、よし。じゃあ、あそこに向かって魔法を撃ってみろ」
「ッ?! 撃っていいんですか?」
「ああ。魔法は好きなもん適当に撃っていい。やってみろ。一応、周りの連中に被害出ない程度にやれよ」
「は、はい!」
立たされた自分に先生は魔法を撃つよう言われた。適当に撃てと言われたから火球でも撃つとするか。威力は三、いや四ぐらいいっても大丈夫そうか?
「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し、眼前に移りし標的に猛る一投を撃ちかけん。【火球】!」
自分は言われた通り誰も居ない野原に向かって右手を突き出し、詠唱を唱える。いつも練習していた通りに火球を放った。
「…あ、れ?」
「…」
初速は上々でサイズも野球ボールサイズに抑えて放った火球は野原を一直線に駆ける…かに見えたが、五十メートルも過ぎない地点でいきなり火球が霧散していく。威力を抑えたとはいえ、物体に一切接触せずに消失したのは初めてだ。どういうことだ? 詠唱も魔法のイメージも今まで通りちゃんと出来ていたはずなのに。
「今、なんで消えちまったか分かるか?」
「い、いえ」
先生から何故消失してしまったのか聞かれるが、全く分からず首を横に振った。すると、先生は煙草の煙を吐き出しながらやれやれと言いたげな表情を浮かべる。勿体ぶらずに言って欲しいのですが。
「何故今の火魔法が途中で霧散してしまったのか。答えは単純。それは、肉体の疲労が原因だ」




