第5章ー⑦
「えっ?! お、俺が?!」
思わず敬語も忘れて驚いてしまっている。自分がリーフさんの理想に近い? そんな馬鹿な。そりゃあ魔力量なら他の人達にも負けてないし、実力もあの時の経験がありそれなりについてきている気はする。だが、運が強いかと言われると微妙な気がする。今回の試験然り、今までの事を考えるとあまり運が良い方だとは思えない。強運というよりかは凶運の持ち主だと思うんですけど。
「試験の時、途中まで君の行動を拝見させて貰ってね、あれだけの受験者がいたにも関わらず、君は一人でサクサクと進んでいた。あの中で自由に行動していたのは君ぐらいなものだよ」
「…」
リーフさんの話を聞きながらあの時の事を思い出す。が、自分的には誰とも出会えない事に寂しさすら覚え、とても運が良かったとは言い難いように感じたのだが。傍から見た自分って、結構余裕そうに見えたのだろうか。もし勘違いさせているのだとしたら恥ずかしいな。
「その後、君は他の受験者二人と接敵。後で判明した事だが、彼等は私が用意した監視カメラをハッキングし、偽の映像を載せていたようだ。殺人を目的とした隠蔽工作によるハッキングだった為、彼等には試験の受験資格を永久剝奪にし事を済ませておいたよ。前例を作った事で二度とこういう行為を起こそうとする者は居なくなるだろう。少なくとも、私が隠居するまでは起きて欲しくないものだが」
話は少し逸れ、パットとロンドの二人の処遇について語り出すリーフさん。当然といえば当然だが、永久剥奪とは中々に厳しい判決を下したものだ。これでいよいよ奴等が落ちぶれる様が容易に想像出来てしまう。ざまあと思う気持ちはあるのと同時に、奴等が今後どうなっていくのかが正直不安に思う所もある。あいつ等の性格からして、本格的に犯罪に手を染めてもおかしくない。そうならなければよいのだが。
「話が少々逸れてしまったが、最後の方で君が二人を倒して脱出している所は見たよ。ちゃんと実力が見れなかったのは残念だが、二対一で勝利するなんて普通の受験生ではまず出来まい、それだけでも充分君の実力は大体計れるよ」
それはともかく、話は変わり、自分の実力に関しては認めてくれているようだ。名門の理事を務めているだけあり、鑑識眼には自信があると目で言っている。
「…けど、自分からしてみれば、運が良かったのはあいつ等の方です。馬鹿な真似しなければ余裕で向こうが受かってたでしょうし、脱出出来たのもギリギリ。運が良いとはとても思えないんですけど」
しかし、リーフさんの言っている事にやはり矛盾を感じる。やはりどう考えても自分が運の良い方だとは思わない。
「…それに…」
父や母、ラエルやドレーカ村の人達が死んだのは運が悪かったから、なんて口が裂けても言える訳がないだろう。それは、皆への冒涜になってしまう。
「…くっ!?」
「…」
「…サダメ…」
無意識に爪が食い込むぐらい拳を握りしめ、口の中で出血してしまうぐらい唇を噛んでいた。気が付かないうちに怒りの感情が込み上げていたようだ。しかし、この怒りは誰に対してへのものなのかはわからない。リーフさんでもあの時の魔物達に対してでもない。多分、自分自身に対してへの怒りなのかもしれない。あの地獄から生き残った事を運が良かったの一言で片づけてはいけない。あれは、自分に対してへの罰だ。魔法の才能を認めらていたにも関わらず、呑気に生きようとしていた自分の怠惰への罰。きっと、神がそれを見兼ねて罰という名の試練を与えたのだろう。参ったな。教会で世話になった立場でありながら、神に対してマイナスな事を考えてしてしまうとは。この話を聞いたら二人に叱られるだろうな。
「俺は偶々生き残ったんじゃない。だから、運が良かったなんて思いたくないです」
「…」
半ば吐き捨てるように自分の気持ちを吐露していた。なんだかリーフさんに対して怒っているようにも見えていそうだが、感情が少々昂りすぎて抑えきれなかった。この人は何も悪いことは言っていないというのに。
「…失言だったようだね。気を悪くさせてしまったようなら申し訳ない」
「…いえ…」
結果として、学園の実質的トップに謝罪させてしまった。酷い奴だ。勝手にキレて雰囲気を悪くしてしまったのだから。そのせいで、まともにリーフさんの顔を見る事が出来ず、馬車は気まずい雰囲気に包まれたまま、学園へと向かって行った。
―転生勇者が死ぬまで、残り4105日




