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第七話 玉砕少女の拳

「ふむふむなるほど。白崎さんの怪奇症は嘘をついたらそれが現実になっちゃうのね」


「ああ、そうだ」


「なるなる。で、私は白崎さんが嘘をしないように見張る感じってことだね」


「理解が早くて助かる」


俺達は歩きながら話し合いを進めていた。

茅野の頭の回転速度は部活一筋少女と思えないほど早い。だが一つ欠点を上げるとするならば……


「もし嘘をついちゃったら私が叫べばいいんだね」


「うん、全然違うぞ」


早すぎて空回りすることもしばしばある。そして容赦のない発言もときどきするのだ。


「嘘をついたらこっちも嘘をつくんだ」


「嘘の嘘は嘘であり嘘に嘘を重ねることで嘘たらしめるってこと?」


「日本語を喋れ」


「アイアムジャパニーズ」


「ドントビーフーリッシュ」


「えーと……白崎さん」


茅野は白崎の方に視線を移すとため息をついて口を開いた。


「バカを言うな、よ。foolishだからバカの度合いは中間あたりね」


「さすが成績上位者だな」


「こんなの知ってて当然だと思うけど」


「だそうだぞ。赤点女」


「赤点は取ってない! 赤点ギリギリなのは認めるけど!」


茅野はふんすっと鼻息を荒らげる。

なぜ自信ありげにドヤ顔するんだ? 前に勉強会を開いて散々泣きわめいて俺の彼女に慈愛を求めて抱きついていたのに。


「それよりも白崎さんの怪奇症を何とかするって話」


「茅野が話を逸らすからだ。とりあえず白崎と仲良くするところから始めろ」


「りょーかい。じゃあ白崎さん、男ならどんなタイプがいい? あとスリーサイズ教えて」


「しれっとセクハラ発言するな」


俺は茅野の頭上を軽くチョップする。茅野はわざとらしく頭を撫でてにしっと笑った。


「ごめごめ。今度は真面目に白崎さんはどんなものが好き? たとえば動物とか」


白崎は少し考え込んで口を開いた。


「……そうね。可愛い動物の動画を見るのが好きね」


「犬? 猫? それとも別の?」


「犬だと思うわ。特に尻尾を振りながらボールを取ってくるところが可愛い」


「あ、それならこの動画とかおすすめだよ」


茅野は白崎に向かってスマホを差し出す。すると白崎は目を見開いて戸惑いをみせる。


「白崎さん?」


「いえ、なんでもないわ茅野さん」


白崎は茅野からスマホを受け取り、何か操作したあとじっーと見つめて口元を緩めた。


「あら可愛い」


「でしょ。それにこれも中々いいよ」


「あ、本当ね。でも私は…………」


二人の女子の会話に俺は自然と空気になっていた。まぁそれは仕方ない。何せ五ヶ月前までまともに女子と会話したことなかったのだ。それから学校に着くまでずっと二人は犬動画で盛り上がった。犬の動画からここまで話題が続くのはどんだけ犬が好きなのやら。

校門が見えると茅野がスマホをしまい、喜色満面に口元を綻ばせて俺の方に顔を向ける。


「つきっち、席替えしよう」


「正直したいが、あの鬼面相の先生に口答えたしたくない」


茅野は口を尖らせて眉をひそめる。


「つきっちのヘタレ」


「誰がヘタレだコラ。一回わからせたろかコラ」


「ふん、軟弱者はすっこんでいな。私があの鬼教官を倒してやる」


「ちゃんと骨は拾っておくぞ」


「私が負ける前提!?」


「道香ちゃん、あの先生に直談判するのは得策じゃないわ」


「しろっちまで!?」


茅野は歯がゆい顔をして大胆に体を動かす。

というかいつの間にしろっち呼びするまで仲良くなったんだよ。やっぱり女性同士なら仲良くなれる秘策とかあるのかねぇ。


「それじゃあ体育は任せるぞ、茅野」


「おうよ。しろっちの貞操は私が守るよ」


「授業中に襲う奴いないだろ」


俺は軽くチョップすると茅野はにしっと笑って俺達の前に立つ。


「しろっち、一緒に走ろうね! つきっち、私を頼ってくれてありがとね! あと昼食奢ってね!」


「最後の余計だぞ」


茅野はそう言って自転車置き場へと走っていく。残された俺達は昇降口に入って上履きへと履き替える。


「嵐のような子ね」


「合わなかったか?」


「いいえ、とっても面白くて話しやすかったわ」


「それはよかった」


白崎はあちこち見渡したあと視線を俺に移す。


「一つ聞きたいんだけど、みち……茅野さんに怪奇症を話しても大丈夫だったの?」


「ああ、それなら大丈夫だぞ。あいつは口が堅いし、前に怪奇症を患っていたからな」


「いたってことはもう治っているの?」


「ああ、完治してるよ。今の茅野を見てほんと完治してよかった思う」


次期バスケ部エース候補美少女。それが学校で彼女を印象付ける一つのあだ名だ。だが、どれほどの苦労と努力でそれを手に入れたのか俺は知っている。

テレビのように表は綺麗な画面でも中は沢山の精密機器とコードが詰まっていて不格好なように、彼女もまた汗と血と涙とたゆまぬ努力で手に入れた不格好で泥臭い青春少女なのだから。


「月欠くん、聞いてる?」


「……ああ、なんだ?」


一瞬、昔の茅野のことを思い出してぼーっとしてしまった。別に茅野が好きとかじゃないぞ。前の茅野と今の茅野の見比べると別人だなと思ってただけだ。


「なんかぼーっとしてたから話しかけただけ」


「おいおい。それは俺の彼女がするシチュエーションだろ?」


「悪かったわね。本物の彼女じゃなくて」


白崎はため息をついて階段を上っていく。

俺も続いて一定の距離をとりながら上っていく。距離を置いている理由は勘違いで彼氏と思われないためにだ。そして渡り廊下を歩いていると道を阻むようにイケメンオーラを放つ男子生徒がそこにいた。


「来たね。白崎さん、僕はかい……」


「すみません。横、失礼しますね」


白崎は手馴れた様子で左へズレる。しかし、彼は爽やかな笑顔で白崎の前へ立つ。


「ま、待ってくれ。君には彼氏がいるみたいだけど、そんな彼氏よりも僕の方が君を幸せにできると思うんだ。それに僕は成績も優秀だし、野球部のレギュラーなんだ」


自意識過剰すぎるだろ。普通は彼氏がいるってこと知ったら告白が失敗すると思うはずなのに。だが、無謀な挑戦にワンチャン賭けた彼の勇気と自信は賞賛するべきだろう。まぁ白崎は断ると思うが。


「すみません。通してください」


白崎は困った顔で左右に体を揺らすが、鏡のように彼は追尾する。はたから見たら迷惑そのものだが、白崎が一言いえば済む話だ。

白崎ならフるのに慣れているはずだし、言動も注意しているから大丈夫なはず。

なのになぜ言わない? 俺は後ろから傍観するが、白崎は一向に言わない。

辺りを見回すとイケメンオーラにやられた女子と嫉妬と困惑の入り交じった男子が白崎達を見ていた。

……仕方ない。注目の的になるのは確定だろうが、どの道ここを通らなければ教室にたどり着けないので俺は一歩前へ踏み出す。


「しろざ……」


「しろっち! こんなところで奇遇だね!」


茅野が俺の横を疾風のように通り過ぎて白崎へと飛びつく。白崎は呆気にとられた様子で茅野の方に視線を移した。


「道香ちゃん!?」


「へへ、私があの場でさよならすると思った? 残念だけど私はまだ死なんのだよ」


「でも自転車置き場にいって……」


「お気に入りの場所とられてて別の場所探すのに時間かかっちゃったの」


「自転車置き場ってどこも同じじゃ?」


「全然そんなことない! 出しやすい場所とか、校内の砂が飛んでこない場所とか色々あるんだよ!」


「そ、そうなんだ」


自転車を使っている人間にしか分からない悩みに白崎は困惑の色をみせるも茅野は笑顔をみせる。茅野は男子生徒に視線を移すと暖かな雰囲気を纏いながら彼に近づく。


「女子を困らせたらイケメンでもモテないよ。それに知ってると思うけど、しろっちは彼氏がいるから」


彼はやや戸惑いながらも口を開く。


「き、君には関係ないことだ」


「それならあなたはしろっちとどういう関係? 見た感じ友達でも知り合いでもなさそうだけど」


「そ、それは……」


「それにあなたどこかで見たことあるなと思ったら前に副会長に告白してた人だよね。確かあなただけを愛してますって言ってたよね。一途な思いはどうしたの?」


ズバッと刀で斬られたように彼は胸に手を当てて一歩後ずさる。侍は手負いの相手を逃がさず続けてもう一振り振り下ろした。


「私達はイケメンだからと思って付き合ったりしないよ。それに可愛ければ付き合うなんて下心あるんだったら女の敵だし、仮にそう思ってたらあなたも女の仲間にしてあげるよ」


穏やかな雰囲気を纏いつつもどこか夜叉を連想させる佇まいで握り拳をつくる。彼はその拳を見ると同時に顔を青ざめて一言謝ってから化け物から逃げる小悪党のように遠くに消えていった。


「しろっちは彼氏がいるもんね! もしその甘酸っぱい恋を邪魔する輩がいるなら私がそいつの睾丸潰すから安心してね!」


わざとらしく誰にでも聞こえるように大声を張る茅野。見ていた男子生徒は股に手を当てて膝を内側に向ける。

実は彼女にはもう一つあだ名がある。

玉砕の美少女。茅野は見た目は白崎より少し劣るがかなり美形な方だ。その美形から告白した者は何人かいたらしいが、その何人かは睾丸をやられた者がいたらしく、そこから噂が広まりいつの間にか玉砕の美少女のあだ名が定着した。

不名誉なあだ名極まりないが、本人は寧ろ男が寄ってこなくて助かると前向きに口にしていた。今では彼女が握り拳をつくった途端、男子達は顔を青くしてコツカケという秘術を使用しなければ睾丸を守れないのだ。


「茅野、そろそろ朝礼時間になるから自分のクラスに行ったらどうだ?」


だが一人だけそれに怖気ない男子生徒がいる。


「えー、私まだしろっちとお話したいんだけどー」


茅野は口を尖らせて月欠を見つめる。


「あとで出来るだろ。ほら五ツ矢ソーダやるから早く教室いけ」


キョロキョロと周りを見て俺にしか聞こえない声量で話しかけてくる。


「つきっちの関節キスつきのを私に?」


「新品だから安心しろ。ほらそこどかないと他の奴通れないから」


茅野はにっこりと笑うと俺に一歩近づく。


「今回はこれで手を打つけど次は関節キスつきのをお願いね」


「そういうの間に合ってるわ」


茅野に軽いチョップするとにしっと満足気に笑い、ソーダを受け取って離れていく。


「それじゃあしろっち、体育で会おうね!」


茅野はそう言って階段方向の廊下を走っていった。誰かのために遠回りした彼女は強くて優しい少女であることに俺は口元を緩める。

そして彼女のおかげで昨日の男子の問い詰め地獄を味わうことはなかった。

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