氷原
私は先生と海岸沿いの道を歩きつつ話した。見渡す限り海岸は流氷で埋め尽くされ、ひびの入った氷原が遥か遠く、水平線まで続いていた。
水平線の向こうまで水面は氷で埋め尽くされているのだろう、と思うと氷原の途切れるところまで行ってみたいように感じられた。
先生の周りにはいつのまにかあたたかそうな恰好をした子供があつまってきていた。先生は子供たちに飴を与え、流氷に乗りなさるな、遠く北極まで連れていかれてしまうよ、と言った。
流氷に乗っても北極までたどり着くことはできないが私は何も言わなかった。子供たちはなにかを叫びながら先生の周りから離れ、私の横をすり抜けて行った。
先生は私に、話の邪魔をしてしまい申し訳なかったと頭を下げた。私は首をふり、
「いいえ、とんでもありません」
と私は首をふりつつ答えた。先生は見た目が堅いわりに物腰は穏やかで、明らかに年下の私に対しても敬語を使った。先生は私のカメラを見せてくれるよう頼んだ。私は快諾し、先生にカメラを渡した。先生はカメラを手に取ってシャッターやレンズ、ファインダーを覗いた。そして私と先生は他愛のない話を続けた。先生は、北海道で生まれ、大学になって上京したことや、東京からこの町に来て細々と法律の仕事をしていることを話した。その話し方はどこか自分のことではないようなものだった。
私も先生の問いかけに答える形で出身や家族のこと、今自分は旅行でこの町に来ていることを話した。その間先生は私の話に相槌を打ちつつも、カメラのいろいろなところを観察していた。私は先生に、
「昔の想い出とはどんなものなのですか、私のカメラと関係があったのですか」
と訪ねた。先生は、
「古い想い出ですよ」
と前置きして語り始めた。