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それ以上特に何かがあるわけでもなく、おそらくお昼はとうに過ぎ、空腹でクークーと胃袋が悲鳴を上げ始めた頃に彼は帰って来た。
「ごめんね、すっかり遅くなっちゃって」
「いえ、気にしないで下さい」
帰って来てくれたのなら、それでよかった。この日までは。
翌日も彼はどこかに出かけ、その翌日もどこかに行ってしまった。
そうして一週間も経った頃、さすがに私の感情は寂しさから苛立ちへと変わっていた。
「何でかなぁ」
一人呟き、チェストを開ける。
「他の女性の所に行ってるんだろうなぁ、きっと」
私とずっとくっついていた時のように、他の女性とひたすらベタベタしているかもしれない。そう考えると、嫉妬で気が狂いそうだ。
「いやー、本当に……何なんだろうなぁ」
一週間、苛立ちを募らせながら少しずつ考えていた事がある。
「本当に、酷い」
引き出しの二番目から、粉薬を取り出して、洗面所で水を汲んでテーブルに出した。
非常に簡単な事だ。彼が居ないのが寂しいのなら、寂しくない状態にすればいい。
私は薬と水を置いたテーブルの近くに置かれているソファーに腰掛けた。おあつらえ向きに、今日は真っ白なワンピースだ。
勿論、愛らしい装飾のされた物。天使のようにふわふわで可愛い姿なのに、足を組むとどことなく背徳感がある。
「早く帰って来ないかなー。愛してるから、早く帰って来て欲しい。早く早く早くー」
膝の上には、何かが仕込まれているクマのぬいぐるみ。
きっと私の声を拾って、聞いてくれているのではないかと思う。ちゃんと聞いて、私が寂しいっていうのを知って、飛んで帰って来て欲しい。
出来れば息を切らして、慌てて部屋に入って来て欲しい。
恋は人を我儘にする。私、「欲しい」ばかりだ。
私は抱いているクマのぬいぐるみに更に力を込め、小さく笑ったのだった。