表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭アリス  作者: 二ノ宮明季
6/9

6

 それ以上特に何かがあるわけでもなく、おそらくお昼はとうに過ぎ、空腹でクークーと胃袋が悲鳴を上げ始めた頃に彼は帰って来た。


「ごめんね、すっかり遅くなっちゃって」

「いえ、気にしないで下さい」


 帰って来てくれたのなら、それでよかった。この日までは。

 翌日も彼はどこかに出かけ、その翌日もどこかに行ってしまった。

 そうして一週間も経った頃、さすがに私の感情は寂しさから苛立ちへと変わっていた。


「何でかなぁ」


 一人呟き、チェストを開ける。


「他の女性の所に行ってるんだろうなぁ、きっと」


 私とずっとくっついていた時のように、他の女性とひたすらベタベタしているかもしれない。そう考えると、嫉妬で気が狂いそうだ。


「いやー、本当に……何なんだろうなぁ」


 一週間、苛立ちを募らせながら少しずつ考えていた事がある。


「本当に、酷い」


 引き出しの二番目から、粉薬を取り出して、洗面所で水を汲んでテーブルに出した。

 非常に簡単な事だ。彼が居ないのが寂しいのなら、寂しくない状態にすればいい。

 私は薬と水を置いたテーブルの近くに置かれているソファーに腰掛けた。おあつらえ向きに、今日は真っ白なワンピースだ。

 勿論、愛らしい装飾のされた物。天使のようにふわふわで可愛い姿なのに、足を組むとどことなく背徳感がある。


「早く帰って来ないかなー。愛してるから、早く帰って来て欲しい。早く早く早くー」


 膝の上には、何かが仕込まれているクマのぬいぐるみ。

 きっと私の声を拾って、聞いてくれているのではないかと思う。ちゃんと聞いて、私が寂しいっていうのを知って、飛んで帰って来て欲しい。

 出来れば息を切らして、慌てて部屋に入って来て欲しい。

 恋は人を我儘にする。私、「欲しい」ばかりだ。

 私は抱いているクマのぬいぐるみに更に力を込め、小さく笑ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ