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一体いつ夜になり、いつ朝になっているのか。
この場所では全てが曖昧だ。そんな中でも私が曜日感覚を忘れずにいられるのは、彼が毎日カレンダーを変えてくれるからだ。
彼はチェストの上に置かれた積み木のようなカレンダーを、毎日飽きもせずにカタカタと変えてくれるのだ。
それに、目が覚めた時には彼の腕の中で、毎日「おはよう」と微笑んでくれる。
足に執着があるようで、私がうとうととしている間に舐めれていたのは一度や二度ではなかったが、不思議と三日も経てば不快感はなくなっていた。
毎日食事を与えてくれる。毎日服を変えてくれる。毎日抱きしめてくれる。
痛い事も苦しい事も私に強いる事は一度もなく、ただひたすらに大切にされていた。
「僕のアリス。今日も可愛いね」、「この服もとっても似合っている」、「愛しているよ、アリス」。毎日こんな調子で、彼は食事を用意する時以外は外に出る事もなくずっと一緒にいてくれる。
毎日毎日毎日。ずっとずっと愛していると囁かれ、壊れ物のように優しく扱われ、ぬくもりを私に分け与えられる。
そうしている内に、もともと希薄だった外に出たい願望は薄れ、このまま彼と一生一緒にいたいと思い始めた。
私もこの男を愛していると気がついたのは、一週間後の事だった。
「私、あなたを愛しています」
「本当? 嬉しいなぁ!」
彼に素直に伝えると、嬉しそうにぎゅっと抱きしめられた。
「嬉しいな。僕も君が好きなんだ。ずっとずっと好きで、そんな好きな人に愛されるなんて、とっても奇跡的で嬉しい。本当に本当に嬉しくて、全然言葉が出ないや」
うるうると瞳を潤ませた彼は、私の頬を両手で包む。
「ねぇ、いいかな」
この状況で何がいいか、など、聞かなくてもわかる。私はわずかに頷くと、そっと瞳を閉じた。
柔らかで暖かな唇の感触が、私の唇から伝わる。
物を食べる為に、呼吸をする為に、話をする為についている筈の器官が、今は他の用途で使われていた。息が出来なくなった頃に、彼の腕をポンポンと軽く叩けば、ようやっと開放された。
「呼吸は鼻ですればいいんだよ」
クスっと笑った顔の、なんと柔らかな事。私は一瞬見惚れて、それから恥ずかしくなって目をそらした。