表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭アリス  作者: 二ノ宮明季
1/9

挿絵(By みてみん)

 彼女が好きだ。何番目に、と問われれば、一番にと答えるだろう。今までもずっとずっと好きだった。

 きっとこれからもずっと好きで、見ていたいと思うだろう。誰よりも愛している。

 本当に、誰よりも……誰よりも……。


   ***


「気分はどうかな?」


 その人は微笑んで、私と視線を合わせた。


「えっと、あの……?」


 私は状況が呑み込めず、ゆっくりと首を傾げる。

 誰だろう、この人は。やけに頭が痛い。


「君は僕に攫われた。分かる?」

「……」


 分からない。

 じっくりと相手を観察しても、絶対に見た事の無い人だった。

 どちらかと言えばイケメンといえる方だろう。人の良さそうな柔和な顔で、ラフな格好をしている彼は、一体何なのだろうか。


「えーっと、ここは君の部屋だよ」


 言われてぐるりとあたりを見回した。

 どこかの家の一つの部屋、といった様子のここは、まるで少女の部屋のように愛らしい。

 基本的にはピンクと花柄を基調としており、ベッドに至っては天蓋までついている。ピンクとフリルをふんだんに使い、ぬいぐるみをちりばめたベッドに、姫系家具というのであったか。そういった形状のチェストの上に、積み木のような卓上カレンダー。

 テーブルや椅子も姫系家具らしく、無駄に細かい装飾のされている物。足元にはピンクの毛足の長いラグが敷かれていた。

 いたる所にぬいぐるみが有り、この中で異質な物と言えば、私と彼を除けば、シャッターのような物で覆われた窓くらいだろう。


「あの、ここ、私の部屋ではないです」

「うん、でも君の部屋になったから」


 全く要領を得ない。


「あの、貴方は誰なんですか?」

「男A、かな」


 私は別に仮名であっても気付かなかっただろう。だが、こうもあからさまなものであれば、さすがにため息も漏れる。


「私は……」

「君はアリス」

「いえ、純日本人ですし、芸名もペンネームも持っていなかった筈です。ハンドルネームくらいはあったかもしれないけど、アリスだったとは到底……」

「君はアリスだ」


 男は有無を言わせずに、にっこりと笑った。

 それにしても、どうしてこうも己の事があやふやなのだろうか。咄嗟に本名すら名乗れもしない。

 こうして思い返してみても、全く持って私自身の情報が頭の中に出てこないのだ。

 名前、年齢、住所、職業。何一つ分からない。分かるのは、ここが家ではない事。目の前の男は知らない人であるという事。それだけ。


「君はアリス。僕だけのアリス」


 ……名前を思い出せない以上、反論も出来ない。私は致し方なく、「アリス」と呼ばれるのを甘受する事にした。


「そして今日から、ここが君の家だ」

「あの、本当の家に帰して頂けませんか?」

「出来ないなぁ」


 一応聞いてみたが、やはり駄目そうだ。


「貴方の家はどこですか?」

「ここだよ」

「ああ、ここは貴方の家だったんですね」

「いや」


 ……違うのか。と、すれば、どこかの倉庫を改造して作っているのかもしれない。倉庫の中のファンシールーム。それならば、窓のシャッターの説明も付く。


「ここがどこかだなんて、どうでもいいじゃないか。今日から君は僕と二人で、この部屋で過ごすんだから」

「この部屋で?」

「この部屋で」


 それはつまり、彼を始末でもしない限りは、どう足掻いても出られないのではないだろうか。


「いつまでですか?」


 せめて期間があればいいのだが。そんな淡い期待は、彼が微笑みながら返した「永遠に」の一言で砕け散った。

 私は誘拐された上に、帰してもらえはしないという事か。

 衝撃的な状況の筈だが、私は取り乱しもせずに、「そうなんですか」と相槌を打っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ