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奇怪なことを持て余す

 はらほろと涙をこぼす少女の姿にオレは同情もするけれど、対象とするには幼すぎて食指が動かな、ではなく、いや、それでいい。

 言葉の意味が伝わらなそうもない幼女相手では、オレはあまり役に立たない自信があった。期待は薄いがミヨちゃんを見ると、むしろ楽しそうににやついている。母性を求めても無駄そうだ。


「帰る方法とかないの? 元居た場所とやらに」

「こ、ここがどこだかもわかんないのに、あたしそんなの一人じゃ、あ! みんなは? みんなも一緒かもっ。ナーディア、アーシア、スーズ~」


 さっき空を目指したときのようなスピードで、小娘は再び飛んでいった。塔の壁を一周めぐり、崩れた石の上を行きつ戻りつ。


 忙しない動きは窄んで止まった。呆然自失、類いの表情で空気に漂う。見れば内情、空しくも想像がついてしまう。あぁ、友よ。キミらはどこへと消えたのか。


「落ちてるのか。もう」

「お気の毒ね」

「うわぁんっ。どぉしてこんなことになっちゃってるのよぉっ、あたしは寝てただけなのにぃっ」

 いやだからそれが。


「ミヨさん、この塔、移築される前はどこにあったとかってわかるわけ?」

「調べればそりゃね」

「どこ行くの?」

 踵を返したミヨちゃんに、思わず声を上げていた。歩幅は大きく、すでに出口に片足を載せている。


「帰るのよ、当然」


 振り向きもせず平板な声が言った。足を止めたことも忌々しいらしく、右手の指がいらいらと壁を叩いている。


「この屋敷ったら却下。他にもこんなんが飛び出してくるかもしれない。びっくりハウスはごめんだわ。早く来ないと置いていくわよ」

「あれどーすんだよ、このままってのはちょっと問題残るんじゃない? 人道的な観点からしましてちょっと冷たすぎなんじゃ」



「人か? あれは」

 あー。そでしたね。


 すっかり動転していたらしいことなら恥じ入る。問題など成立しようものではないのだった。

オレは早足のミヨちゃんに追いつき並び、あえて茶化して言ってみた。


「あれっくらいなら共存できるんじゃない? 害は絶対なさげだし」

「きっぱり嫌。キミ、私がこういうの我慢できるタイプに見える?」

「見えません。きっぱりと」


「そうでしょ、無理よ。メルヘンに染まれるタイプであったことなんて生まれてこの方一瞬もないわ。って! ついて来るんじゃないわよっ。何してるのよ、チビガキ!」


 肩に乗っかった小娘を、ミヨちゃんまるで虫相手にするようにはたき除けた。そして小娘も、やはり虫のように素早く飛んで避けていた。


「だってひとりになっちゃうモン。さみしいモン」

「汐崎、これ! 追い払っちゃってよ。さみしいじゃないわよ、アンタも。また寝てろっつの石ん中で」

「一度起きたらしばらく眠れないんだモン。そういう決まり、知らないのー?」

「知るわけないでしょ、私がなんで。ほら、汐崎やっちゃってよ」


 いやぁ……。


「ミヨさん、今度からさ、センターとはきっちんと話をした方がいいと思うわ、オレ」

「なによそれ。意味わかんないんだけど」

「オレってそんな力はないのよ。飛んできたもの吹っ飛ばすだけで、それ以上でもそれ以下でもなし」


「なにぃっ? だってキミんとこのお偉いさんはなんでもござれって言ってたぞ。違うのか? おいっ」


 怖いですって、ミヨちゃん。

 本当のところ、ミヨちゃんが求めていた能力者ってのは、恵子さんのような恐怖技の持ち主なのだと思われし。


 生霊怨霊謎生物、宇宙人にだけは当たったことはないけれど、超ファンタジー系ならたいていのものに対抗すべく働いているセンターの登録人材は、種類も技量も様々にして分類不可の多様さなのだ。


 例えて説明したらわかりやすい。阿呆相方であれど恵子さんなら、この屋敷の前に降りたその場で、塔の中の石に異質を感じ取るだろう。手をかざせば石の中から出さないままに、精霊ちゃんとの対話を行い、さらにはその場で元居た場所にと送り返すことも可能。


 実際そんな風に展開していたとしたら、本人、チャンスとばかりに一緒にイギリスに飛んで行くに決まっている。四次元自在の無鉄砲娘。それが鳴海恵子の正体だ!


――展開間違えた。


 そうではなく、うちんとこのお偉いさんの言なんかを信じちゃうところが、ミヨちゃんたら青い青い。


 それこそ百鬼夜行を舌先で転がすよーな奴らなんスよ、あやつらは。ミヨちゃんがつっこんでこないことをいいことに、しらっとオレ何ぞを寄こしたのだ。そういう奴らなのだ。まず敵を知れ(笑)


 立ち向かうならね。



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