塔と言えば不思議
妖怪か、アンタ。
ミヨちゃんこそ廃墟に現れる怪しのものでいいんじゃないだろうかと、この考えを誰かに聞いてもらいたい。
旅行は三人で行けというのは、こういうときに真髄なんだよ。当人以外の誰かでないと、悪口言えないつうことで。
いつか手に入れるミヨちゃんの住む屋敷こそが、天下一品の謎屋敷になったりしてな。妖怪変化自由自在。
ロビーのフランス窓を開けばそこに、外階段のついた丸い建物が空を目指して伸びていた。屋敷の本体よりも高さはあるように見えている。
なんと言うのかこんな場所を。パティオ? だったかもしれない。まぁつまりは中庭だ。
投げやりになった足が、かっつんと何かを蹴り飛ばした。地面に転がるは白い石。塔の構成部品であるそれは、かなりの数が一面に散らかっている。
ミヨちゃんはしゃがみ込み、破片を手に取りじっと見つめる。指一本でノックのように、とんとん叩いてみたりして。
「イギリスはサセックスの石ね。運んできて積み上げたんだわ」
「そんなことわかんの? この石見て」
「ばかねー、調べてあったに決まってんじゃない。建築探偵・鑑定幻想? なに夢見ちゃってんだか、このぼーずくんたら」
殺スかもしれん。
「ボク、登ってもいいですか」
「あぁ、上チェックして来てよ」
「へい」
踏むそばから崩れていきそうな階段を、注意払って上っていく。崩れるところは一通り崩れてしまっているらしく、足元ポロリなんて目には一回も合わずに済んだ。
二階と呼んでいいんだかどうか、そんな場所に無事に着く。お伽噺の挿絵のようなくり貫かれた石窓から、オレは顔を出してみた。
地上、感覚三階程度。ミヨちゃんがちーさく見えている。
「塔があるのも好みなのよね。いいわよね、これ。うん、いい雰囲気。石は多少積みなおさなくちゃならないけど、うぅん、逆に少しこぼしてる方がぽくていいかな」
妄想中なのか目が飛んでいた。オレ、いつまでこの人に付き合わなくちゃいかんのだろうか、とかなり真面目に思えてきていた。
美人は見ているだけがやっぱり平和だ。こんな風に見ているだけならな。
石を避けながら、階段に近づいてくる。いつ上を見上げ、サボっている従者の姿に怒り狂うかもしれないが、スリル大半、オレはそのまま見続けていた。
また襲いかかられたら、次は目にモノ見せてくれてもよろしいぞ。そんなことを遊び半分、考えながら。
思いついた。この屋敷を買って落ち着いてくれたなら、オレはお役目御免になるんじゃないか? もしかして。
ミヨちゃんは笑顔のまま、積まれている石の溝を指でたどり出した。どんな基準で考えているのかはわからんが、おぉ気に入れ、気に入ってくれ。
何か聞かれたら、褒めちぎってその気にさせよう。今のご満悦な気分の維持を目指そうじゃないの。
笑顔は消えない。手は壁を伝い進み、三分の一ほどはみ出した白い石を掴むとそれを、ぐっと引き出し――……
「ミヨさん、ダメだ!」
戻せ戻せと手を振り回してみたが、絶対的に遅かった。石は外され、すでにミヨちゃんの手の中にある。そしてその一角から、濃い白煙が一筋空に昇り始めていた。
「何っ?」
「捨てるな、持ってろ。落とすなよっ」
センターの書類上ではオレの気配読み能力は問題外数値外だというのに、長年の経験だけでも気付けるくらいにそこからは立ち昇るものがあった。温泉近くの谷で白い煙が立ち昇る、あんな風に目に映る。
何かが居る。くっそー、マジかよ。出てくるぞ。
三歩でそこまで跳んだところで、は姿を現し、――て、
「呼んだのはだぁれ? プティット・ローズの魔法にどんなお願い、するのかしら」
しーん。
「お、願いぃ……て」