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季刊「お屋敷ハンター」  作者: 由良ゆらぎ
6/12

本日の目的がヒドイ

「どう?」


 一歩屋敷の中に踏み込むと、音がないとそう言うよりも吸い込まれていく感じが強い。空間は狭いわけではないのに圧迫感があるのは、白い壁に家具がまるでないためだ。遠近感が測れないために、なんとも非常に落ち着かない。


「どうなのよ」

 あぁ。忘れていた。


「槍も飛ばなきゃ岩も転がってこないスよ。入って来たら? 綺麗な屋敷だよ」

「それは知っているのよ。私は」


 狭いわけではないつーのに、ミヨさんはオレを押しのけた。この屋敷について、何事であれ教えてもらうことはおもしろくなかったらしい。


 教えて欲しくて連れてきたくせになんでしょうね、とオレはヒールな足跡の後につく。もともとが土足の設定なのか、上がりぶちが低い。外の壁画といい、この屋敷は近代風の造りなのかもしれない。欧風古典な建物ではなく、アメリカ風前衛かな。言い方てきとーですが。


「これが個人の持ち物かよ。日本も貧富の差って激しかったんだな……」


 次の間の天井、取り外せなかったのか下がったままのシャンデリアを見て、侘しい気持ちになって言った。

 別荘だけがゴージャスであるわけはないのだから、本宅もこんなでさらにこれということ。そして豪勢なものをこんなして放っておけるという二点において、重ねて侘しい。計り知れない世界よのう、底辺に住む人間にはのう。


「キミからそんなただの人みたいな発言は欲しくないのよ。自分がなんのために来たのか覚えてるでしょ? どぉどぉ? 危険なエネルギーとか感じない?」

 いやだからさ、ミヨちゃん。それ、オレじゃーダメなんだってば。


「別に何も感じられるものはないですねい」

 と、本当のところを言ってあげると、浮かれ度が上がった。そんな笑顔は急に若く、ある意味怖くてオレだって怯む。


「ひょー、アタリかな、今度こそ。ちょっと場所としては不便だけど、タイプとしてはタイプかも」

「アタリってなに。ハズレとかもあるわけ。て言うか、ミヨさん経緯と事件の記事書いてるんだから、なけりゃハズレなんじゃないの?」


「お化け屋敷の探索してるわけじゃないの。記事は建築趣向の研究紹介、ま、個人の方なら事件ネタを追ったりしたらウケるけど、私の究極の目的はもう一つ深いところにあるんだなこれが」

「まだなんかあんの?」


 一石で三つって図々しかない? それは言わない方がいい。初めて見るような機嫌の良さをぶち壊す、そんな勇気は持ち合わせてない。


「住むのよ。買うの」


「買うぅ? この家を?」

「だからぁ、何度も持ち主が変わったり、放置期間が長いと安くなってるわけよ、お屋敷。もちろん妙な噂が立っていてさ。だから、そんな噂が偽物か、ある程度本物でも私にとって害がなかったらいいじゃない? 安くてゴージャスを手に入れる♪」


「ミヨさん、それでセンターに――?」

「不動産関係の友達から話聞いて、これはいける! って思ったわけ。その人はポルターガイストを退治してもらったって言ってたわよ。ちょっと見アホっぽい高校生コンビだったって言ってたけど、もしかして本人?」


「……それはきっとオレじゃないな」


「まだ他にもアホがいるの? キミんとこの組織は」


 オイ……。

 しかしこれでネタの出所が知れた。くっそー、鉄槌下してやる、あの見たままキツネ社長の野郎。秘密厳守と言うとろーが。


「私、実害には強いんだけどさ、つかみどころのないものは投げ飛ばせないし、どうにも太刀打ちできなくて参ってたのよ。噂どおりのヤバい屋敷も多いからね、いよいよな目に合ったら困るじゃない。お屋敷に住むっていうのは子供のときからの夢だから、あきらめるわけにはいかないし」


「子供ね」

「なに」

「あぁいえいえ。なんでもござんせんです。もちろんです」


 勇気を無駄には使わないため、かわいいところもあるんですねなどと言ってみたりは絶対しない。

 そして夢を語る美女は良いものだと思う以上の気持ちで、くだらねぇ私事に巻き込むんじゃねぇよコラ、もっと人生マジメに働けよオイ、と思っていた。とても正統に聞こえるそんな意見は、口に出させていただきます。


「仕事のためかと思ってたんですけどね」


「同じじゃない。もともと趣味の仕事なんだから。なに。私の目的がキミの力にはなんか関係しちゃうわけ?」

「機械じゃないんで、オレたちは。使う側の心情ってとっても大事なんスよね。やる気失せたら働かない。なんてぇの、でりけぇとなもので」


 でっ。間髪入れずにミヨちゃんの手、オレの喉に吸いついた。


「切羽詰まったらやるわよねぇ?」


「待て待て待てって。――あぁっ、あれって、塔? 外外」


 もがけばもがくだけ締まっていくことの予測ができる。これっていったいなんの技?


 酸素の足りなくなっていく脳は慌てて、窓の外に見えるものにすがりついた。逸らせる期待は薄かったにも関わらず、なんとミヨちゃん、力を抜いて下される。


「あぁ。塔よ」

げほ。


「そうだわ。あっちを先に確認しとこ。働くわね? 汐崎」

「もちろんッス」

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