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深葉と言う名の女


 ある意味運命握られたその女との、二度目の出会いは、思い出したら煮え繰り返る。

 渡された名刺に刻まれたその文字を純粋に素直に読み上げたオレは、次の瞬間拳に襲われていた。


「ライオンか?! あたしは。そんなわけないだろっつの!」


 マジコブシ。


 彼女の名は松井深葉――みよと読むのだそうだ(「ちょっと考えれば間違うわけがないでしょう」)。


 職業はコラムニストなどと騙る(「なによその胡散臭さ前面出しの顔は」)。

 芸術系インテリア系の雑誌に「お屋敷探索」という名のコラムを連載中(「購読の申し込みならすぐ手配できるわよ」)。

 ついでに自分勝手に発行している雑誌に「裏お屋敷探索」なんてページを展開中(「購読の申し込みなら一冊千円で――略」)。

 御年二十七歳のスーパーキャリア系美人にして変なオンナぶっちぎりだと思ってくださって間違いない。


 つまりこのミヨちゃんの動きは、お屋敷の「探索」なのである。「訪問」ではない。主たちに捨てられかけている屋敷を端からめぐり、解析をしてまわっているのだ。

 

 なぜ住人がいないのか。なぜ持ち主は訪れなくなったのか。なぜ売れない期間が長いのか。


 情報源は口コミ、あるいは売り出し情報である。ミヨちゃんはそれをつかめば、日本中どこへでも馳せ参じるのだと言う。いや世界なのだと訂正を入れた。ニューオリンズに行ったことがあるわよ。

 

 それはそれは。その家、ヴァンパイアの棲み処だったんじゃあないの? (真実だったら怖いので、敢えて確認はしていない) いやはや、世界規模のアホでしたのね。


 曰くと胡散をネタに記事を書いている人間が、なにが身の危険。好き好んで領域に分け入っていく以上、伴う危険も喜びたまえよ。それがあってこそ記事も盛り上がるつーものよ。誰かに守ってもらおうなんて、それはムシが良すぎるとゆーもなんじゃないすかね。


 あの日あの時あの場所でキミに逢わなかったら……と、オレがこの身の不運を嘆いて当然。窓の向こうに飛び去る風景に向けて幽愁の息をついたオレの形の良い額を、運転席から伸びた手はいた。


「ちょっとしっかりしてよね。苦労して手に入れたアンタが役立たずだなんてそんなんナシだからね。じょーだんじゃないわ」


 イタイじゃないか。自分の手のひらでさすりさすり、思うことと言えば、そうか、手に入れられていたのか、などと。さしずめオレは略奪された姫君だな。はっはっは。


「返事はどーしたー?」

 そしてアンタは親方か。


「へぇへぇッ。繰り返さずとも理解してございますよ。ミヨさんの希望は骨の髄までしみとりますとも。ご期待に添うよう努力させていただきますんでご心配はいりませんて」

「誠意がちっとも伝わらないわ。キミ、言わば従者であるんですからね、主人に働きを疑われちゃマズいのよ」


「働きますよ、いざともなればね。御供は役割果たさないとね。サルで輪っかで雲の上なんでしょ。ミヨさんの頭の中映像のオレって」


「キミ、似合うよそれものすごく。にーあいすぎーッ。いいよいいよーっ、ゴクウちゃん! わははっ」

「へぇへ、ありがとです。結構でぇーす」

 

 そこではたと思いつく。


「ところでミヨさん。オレの能力って解説受けてる?」

「ふん? なにソレ」


 やはり、あのタコ部長。あとは野となれと思ってやがる。


「ねぇ、なーによ? 解説必要なこ難しさなワケ? 力とかって」

 にや。オレは笑い、運転席を盗むよーな横目で見た。


「そのうちわかるよ」


 もちろんそんな上からの態度がお気に召すはずもない。二度目のコブシなら予想してもよかった。

 うおぉぉッ。運転中だろ、おいっ。


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