殺戮計画
私たちはあのあと転移で隠れ家まで戻って、一旦体を休めることにした。
「やっと、終わったのね」
私はそう言って肩の力を抜くと、大きく息を吐いた。
「とりあえずはね。けど、僕たちの目標にはちっとも近づいていない……」
「そうね、結局-"能力貿心-"はあの戦いで壊れてしまったし、計画も見直さないといけなくなったわ」
私はそう言って、から笑いする。
「大丈夫さ、まだ時間はある。ゆっくり考えていこう」
そう言った彼の顔には、一切の迷いなど無く、私を不安にさせないためのものだとわかるのには時間はいらなかった。
「それに堕天使が復活している兆候も見えた、それを利用できれば……」
「けど、システムの一環である堕天使にはまだ勝てないわ」
「ああ、だけど、そのシステムを壊せれば話は変わってくる」
そう彼は断言する。でも……。
「どうやって?」
「簡単な話だよ――」
彼の考えをまとめるとこうだ。
〈管理機構破壊者〉というシステムの存在を殺せるようになる特殊なスキルを取得するために、人間を殺してスキルポイントを集める。そして、堕天使を殺し、それらシステムの存在から奪ったスキルポイントで不老を得る。
「確かにそうね……ということは、あの殺戮計画を?」
「ああ、そのスキルを手に入れるためには必要だからね。指輪で不老になってからは停止していたけど、仕方ない」
そう言う彼の顔には迷いは無かった。
「本当に、するのね?」
「そうしないと、崩壊していくシステムや星と共に僕たちも死ぬことになる。僕は誰にも負けない存在にならなきゃいけない、ユリアも付いてきてくれるだろ?」
「……ええ、もちろんよ」
わたしにはもはや正解が何かは分からない。でも、彼の手を離さずにいれば必ず正解にたどり着けると信じて、わたしは彼を愛し信じるしかない。
そうして、わたしたちはこの世界での"人殺し"をすることにした。
*
殺戮計画は、至極簡単なことの繰り返しだった。
まず、破滅之降臨という隕石を発生させる魔法を使い、都市を破壊する。それを数十回も行うと、"〈人殺之勇者〉"を習得した。〈人殺之勇者〉は人間を殺したときに獲得できるスキルポイントが増加するスキルで、スキルポイント回収の効率はもっと良くなった。
そうして2年後――既に100万人近くを殺し終わった頃のこと。
「ユリア、今までありがとう」
「どうして、そんなに悲しそうにするのよ」
「戻ったら、僕のこと嫌うだろ?だからだよ」
〈管理機構破壊者〉を獲得したことで堕天使を殺すことが可能となった彼は愛之指輪を外し、私に掛かっている〈愛牢制限〉を解除した。
「自覚はあったのね」
彼が〈不老之存在〉を得る前に、〈愛牢制限〉を解いてくれたのは、これから始まる堕天使との戦いにわたしを加えたくなかったから……もしくは私の意思で選んでもらいたいからだろう。
「……当たり前だろ、君を騙して、解くのも遅くなった」
「そう……でもそれはお互い様よ」
私はそう言うと、彼の頬にキスをした。
「え?……ユリア、なんで?僕を嫌ってるんじゃ」
「ええ、嫌いだったわよ」
そう、私はたしかに彼のことが好きではなかった、どちらかと言われれば嫌いだったと思う。この世界に来る前も、来て旅をして――騙され指輪を使われたときも、たぶん。
けれど、数ヶ月前に〈無我境地〉というスキルを獲得してから変わった。
〈無我境地〉は感情を無にすることができるスキルで、〈愛牢制限〉によって変更され偏っていた好感度を、全て0にリセットすることができた。
つまりは、その後、数ヶ月過ごして〈愛牢制限〉が解除された今、残っているこの気持ちは、きっとわたしの純粋なもの。きっと、私は知らない間に惹かれていたのだろう。
「でも今は違う。言ったでしょ?お互い様だって」
「……そうだな。なら、一緒にやってくれるか?」
「ええ、協力するわ」
だから、私は選ぶことにした。
そして、その戦いに私が協力すると言った今――
「準備はできてるな?」
「いつでも初めてちょうだい」
――わたしたちは、堕天使之再誕を自発的に発生させることを決めたのだった。
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