崩壊の神殿
「どうして、私に何も言わなかったの?どうして教えてくれなかったの?」
指輪も〈愛牢制限〉を使ったのも、彼は全て私に何も言わずに計画して、そして実行した。その理由はなんなのか。
「君を信用できなかったからさ。僕は君が好きだけど君は僕のことは好きじゃなかっただろう?だから本当のことを君に話せば絶対に反対されると思ってね、こんなことまでしたんだ」
「そう……」
私は少し微笑んでそう言った。彼の言うそれは正論だったからだ。きっと今の私じゃなければ反対していただろうから。
*
「――さて、やっと見えてきたな。崩壊の神殿イヴドクス だ」
「あれがイヴドクス」
そうして、私たちは最高峰の山脈に位置する、聖地の中でも強力とされる"聖地"崩壊の神殿イヴドクスに到着した。
崩壊の神殿イヴドクスは、スキルをスキルポイントへと変換できる聖遺物-能之貿心-の位置が示されている聖地である。だが、そんな聖地も、数千年前に発生した堕天使生誕之日によって誕生した堕天使により崩壊している。
視線の先には、かつて聖地だった一つの古びた巨大な教会が建っているだけである。
「イヴドクスを聖地として復活させる。そうすれば、-能力貿心-の手掛かりが見つかるはずだ」
「そうね……」
愛之指輪によって不老を得たといっても、それは不完全なものだった。結局は、〈不老之存在〉を獲得するために聖地を巡り、スキルポイント獲得倍率を上げる必要がある。
そして、私たちはイヴドクスに"最後の巡礼"にやってきたのだ。
崩壊の神殿イヴドクスへ近づくにつれて私の体の表面がボロボロと崩れていくのがわかった。原因は、イヴドクスの崩壊の力に私の再生が間に合わなくなってきているからだろう。
「大丈夫かい?ユリア」
「ええ、この程度なら心配いらないわ。それに、もう着いたから」
私たちは、崩壊の神殿イヴドクスの大きな扉を開けると、中へと足を踏み入れた。
「さてと、じゃあ始めようユリア」
「これで、やっとなのね」
私はそう頷いた後、青い球体――"-能力貿心-"を起動した。その瞬間だった。
「わたしの居に入れる人間が居るなんて、驚いたわ」
神殿の最奥から異空間が開くと、そこから声が響いた。そして、その声の主は私たちの前にゆっくりと歩みながら話し始めた。
「御機嫌よう」
白い髪に赤い瞳を持ち、黒と赤を基調としたドレスを身にまとい、二対四翼の漆黒の翼を持っている堕天使。
「わたしはパラドクス、六之堕天使の一翼を担う崩壊之天使であり、この崩壊の神殿イヴドクスの管理者よ」
「パラドクス……」
私は、その名前を聞いた瞬間、冷や汗をかいた。
「それで?あなたたちはわたしに何を望むのかしら?」
「単刀直入に言おう」
「なにかしら?」
彼はこう続ける。
「僕を老いない身体、不老にしてくれないか?」
「……そう面白い望みね、でも残念。ただ質問しただけで、わたしに叶える義務は無いの。だから、さようなら――"〈崩壊〉"」
その瞬間、神殿全体が崩れ落ち始めた。
「まずいな、ユリア出るぞ」
「ええ」
私たちはすぐに引き返すと、崩れていく神殿の外へと出る。そして、そのまま聖地の"聖域"からも出ようとした。けれど
「逃げられるとは思わないことね、聖域はもう閉じたわ。わたしが許可を出さない限り、出ることは不可能よ」
「それなら、お前を殺すだけだ」
「そう、できるといいわね。無理だろうけど、〈崩壊之波〉」
そうして、戦闘は始まった。崩壊之天使とフェルトが戦っている光景を、わたしはただ見守ることしかできなかった。
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