再び控えの間
控えの間に戻った遊撃隊一同は、見栄えは良いが堅苦しい礼服から解放されるため、女性陣から先に、こぞって衝立の向こうへ突撃した。
レディーファーストなのは多勢に無勢もあって当然の如くなので、良二は彼女らの着替えが終わるまでソファに座って寛ぐことにする。
脱いだ服が衝立の上やら横やらにポイポイ投げられるのを横目に見ながら、良二はネクタイを緩めシャツのボタンを外し、首だけは窮屈から解放した。
「ふう……」
ひと息ついて目を瞑る。
浮かび上がるのはやはりライラの晴れ姿だ。
今、思い出しても涙腺が緩みそうだ。
アイラオの言っていた威厳とか威圧とかの印象はほとんど無かった。
ただただ、「美しいものを見た」と言う思いだけであった。
……あの得も言われぬ美しさを持った女性が俺と……
そんな女性と恋仲になって昂る思いと、自分はそれに見合う男なのかと言う不安が入り混じり、良二の胸の内は相変わらず妙な心境ではある。
それに加えて容子やカリンに囲まれてのセミ・ハーレム。先を考えると頭が重い。
だがその状況から、手に負えないから逃げ出したい! と言う思いは全く出て来ず、これからどうしよう? とばかり考えている自分に気付くと、今度は首を傾げる。
女三人と平等に触れ合い、彼女らの笑顔を守りたい……そんな自信も無いくせにそれだけは実らせたいと思っている自分。
……これが黒さんの言う、自信なんてねぇよ? 先に覚悟だよ、と言う心境なのか?
「あ~、楽になった~」
着替えを済ませ、いつもの動きやすい制服に着替えた女性陣が次々と衝立から出てきた。
やっと良二の番だ。脳裏に浮かんでいた思いは、いったん頭の隅っこに片付ける。
良二は着替えを持ち、いそいそと衝立の向こうへ行こうとした。が、その時、
「別にそんなとこ行かなくても、ここで着替えりゃいいでしょ、男なんだし」
カリンが意外と無神経なことを言う。
「男だってそれなりに恥ずかしいんだよ!」
「別にあたしら気にしないっすよ? クロさんならともかく」
「そ、そうですね。主様のお着替えなら、ちょっとドキドキと言うか……」
男の前で頬赤らめて言う事かよ! てか男として見てもらえないってのもそれはそれなりにプライドが!
ともかく衝立に隠れていつもの制服――戦闘服に着替える。やはり窮屈にネクタイを締めている礼服よりこちらの方が楽ちんだ。
着替えが終わり衝立から出ると、良二はついと部屋の中に誰かが転移してくる気配を感じた。
索敵能力はまだまだ伸びない良二ではあったが、ライラをはじめ魔族・神族が毎日のように転移魔法でポンポン現れたり消えたりするもんで、誰が現れるかは見抜けないが、気配察知が出来るくらいにはなっていた。
で、現れた人影……それはライラだった。
「ぷっはあ~、終わったぁ~!」
謁見の場で見せた、あの礼装のままで転移して来たライラはいつも通りの口調でのたまうと、持っていた王笏を壁際にポーンと放り投げ、脚も思いっきりおっ広げてソファにどっかりと座ると、履いてたヒールを蹴っ飛ばすように脱ぎ捨てた。
「いや~疲れた疲れた! やっぱ慣れないことはするもんじゃないね~、ホント、クソ重たいのよ、このティアラも服も!」
と言いつつ、ライラはティアラを仮面でも剥ぎ取るように外し、無造作にテーブルの上に転がした。
ケープコートを毟り取り、再び立ち上がるとグレーのドレスを裾からがバーッと捲り上げて脱ぎ取り、コルセットの紐をスルスル~とほどいて外すと、陛下はあっという間に下着のみになってしまわれました。
全員、転移で現れるなり服を脱ぎだしたライラをキョトーンとして見ていたが、あれよあれよと言う間にブラとおぱんつだけになってしまうとさすがに、
「ちょ! 陛下!? リョウジさまもいらっしゃるんですよ!」
正気を取り戻したシーナが諫めるように言った。
「え~? 別にいいじゃん、下着付けてるし、こないだの水着に比べりゃ隠れてる方じゃん。隊長さんがいればアレだけど、男はリョウくんだけだし?」
確かに海辺でのバンドゥビキニに比べればブラは標準だし、おぱんつは長めのズロースパンツ的なペチだし露出度はまあ、低くはあるが……
「そういう問題では!?」
あわててシーナが自分の礼服のワイシャツを持ち出して羽織らせた。
だが、それを見た美月が、
「なんか余計にえっちぃぽくなってない?」
と。うん、ほとんど裸ワイシャツ……
「良くん、ちょっと壁とにらめっこしてて……」
容子が語気を強めた口調で言う。言われて、はい……と素直に壁に顔を付ける良二。今、彼女の言に反意を示せば部屋中の女性陣(要するに自分を除く全員)からジト目攻撃を受けるのは考える余地もない。
と、そこで再び転移の気配。
「陛下、やはりここに! もう、お着替えも持たずに! 何ですか、そのはしたないお姿は! 早くこれをお召しなさいませ!」
転移してきたのはラーだった。ライラの着替えを、いつものあの服を小脇に抱えて持って来てくれたらしい。
「はしたないとかあんたが言うかな?」
「私は人前で下着姿になったりしませんわ!」
「今は隊長さんの前だけだよね~」
「もう、陛下!」
とりあえずライラは持ってきてもらった服を着る事にした。これで良二も壁にらめっこから解放される。
「いやもう、謁見の時の陛下は昔話で聞いたあの陛下まんまだったっすけど……今の陛下と同一人物とは思えないっすね?」
「へへ~、そうでしょう? でもメアちゃん、あたし的にはこっちが地だからね!」
「ギャップあり過ぎでしょう。さっきのライラさん、凄くステキに見えたのに」
美月もあきれ顔。
「そうかなぁ~? あっちの方があたしっぽく無いんだけどぉ~」
「良くんなんかメチャ感動してたよ?」
「そうなの~? 気のせいか、なんか目が凄い事になってたみたいだったんだけど~? マジだったのヨウコちゃん?」
「見えてた? そりゃもう、号泣よ号泣!」
いや、そこまでは!
「やっぱりぃ~? え~? もしかして泣いてんの~? なんで~? みたいな? もう噴き出す寸前だったんですけど! 笑い出すの我慢するのに必死だったりしてたんですけど~!」
「そこまで言ったらかわいそうよぉ。リョウジは素直に感動してたんだから。でも終わった時、壁際に寄ってハンカチわしゃわしゃにしててねぇ! それがなんだかもう!」
カリン、お前もかい!
「でも上から見てるとなんかおかしいのよね、そういうの!」
「そうそう、私そんなキャラじゃないよ~? てねぇ~!」
「それそれ、見てくれに騙されてんじゃねーよって言うかさあ!」
「だよね~! ホンット笑えるよね~!」
ハッハッハ~! ライラとカリンは笑いながらお互いの肩をバンバン叩きあって激しく同意し合っていた。
「二人ともひっどぉ~い」
「なによ~、ヨウコちゃんも面白がってるじゃなぁいぃ~?」
「うん、そりゃまあ、涙にむせぶ良くんとか? なぁんか、かわいいとか思っちゃったりー!」
「「「ねー!」」」
こいつらー! 人の感動をダシにしてここまで盛り上がるかぁー! 返せー! 感動を返せぇ! あの涙を返しやがれぇー!。
とまあ、仲違いするより仲良くしてもらった方がいいのはいいが……あれほどいがみ合っていたライラとカリンも一緒に盛り上がっているのは、まあ喜ぶべきなのか。
――4つの尻に敷かれるって事だぞ――
誠一のあの言葉がまた脳裏をよぎる。そりゃ、そう言う事なんだろうけどさぁ……
「よしよし」
そんな良二の気持ちを察したのか、ラーが頭をなでなでしてくれた。
良二はもう一度泣きたくなった




