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謁見

 ドンドン!

 上座に構える衛士の一人が、杖で床を打ち鳴らした。そろそろ始まりますよ、と言う合図だ。

 同時に居合わせた全員が即座に私語をやめて、所定の位置に整列を始める。

 良二たちは言われていた通り、一番左、天界組の横に一列縦隊で並んだ。

 両側の壁際には魔界の計画関係者数十名が臨席していた。

 正面にはライラが座るのであろう、玉座がある。その左右両方の壁に扉があり、その扉の向こう側からまた、ドン! という音が聞こえて来た。

 それに応じ、先程の衛士が場内の整列が完了したことを告げるため、もう一度杖を鳴らした。

 その音と同時に両方の扉が開かれ、そこから禍々しくも威厳を持った者たちが、それぞれ4人ずつ入ってきた。

 魔界8大魔王である。

 良二にも馴染みのラーやアイラオにシラン、ローゲンセンの他、今回初めて見る4人も。

 魔界を牛耳るライラの幕閣であり、実質上の行政の長たちである。

 8大魔王は左右に四人ずつ玉座の方を向き、双方から囲む形で整列した。

 当然の事ではあるが、ラーもシランも、そしてさっきまで一緒に居たアイラオも、通常良二に見せている顔とは全くの別物であった。全員の目力が強い、厳しい。

 とても、いつものように気軽に声を掛けられる雰囲気ではない。改めて身が引き締まる思いの良二であった。てか、いつ足が震えだしてもおかしくない空気が充満してきた。

 ――俺たちが、彼らと並ぶ位置に立つ? ……いや、立てるのか? 

(先に言っておこう。8大魔王の名を教えておく)

 気圧される良二の他、遊撃隊の面々にホーラからの念話が届いた。

(右奥から、夜王ラー、冥府王シラン、火王プロマーシュ、星龍王ギャランドラ、左奥から智龍王ローゲンセン、青樹王ウドラ、黒王アイラオ、覇王ブレーダーだ)

 火王プロマーシュ、痩身の男で白い肌の顔に、目から顎にかけて紅い稲妻の様なアザ? タトゥー? と鋭い眼光が特徴的だ。

 星龍王ギャランドラ。その名の通り、龍人である。

 ローゲンセンより深いローブを被り、表情は窺い知れないが、見える口先や手足から真っ青な鱗を持っているようだ。

 青樹王ウドラは女性のようだ。人間でいえば歳の頃は30代半ばから後半あたり、緑の肌に垂れ気味でちょっと伏し目がちの眼を持ち、他の魔王よりは目線が優しそうに見える。

 頭の両側に角、羊のそれに近いモノが生えている様子。

 覇王ブレーダーは天を突くような大男、というと大げさだが、そのはち切れんばかりの筋肉質の体は、テクニア討伐戦で遭遇した牛頭鬼や、先だって戦ったオーク相手ですら素手で格闘戦が出来るのではないかと思えるほどだ。革と鏡面仕上げ程に磨かれた鋼板を併用した鎧に白いマントを羽織っている。

 ドンドンドン!

 今度は音が三つなった。

 謁見の議の始まりである。

「大魔王陛下、御成りでございます!」

 謁見の間の隅々まで響くその声と同時に8大魔王は低頭し、ホーラやフィリアをはじめ、全使節団は膝を附いた。

 良二も倣って膝を附き俯くが、目線はライラが出てくるであろう扉を凝視した。初めて見る大魔王としてのライラの姿を、しっかり見ておきたかったのである。

 やがて、再び左の扉が開いた。ライラの入場である。

 扉からゆっくり、静かに、ライラが歩み出てくる。

 コン……コン……コン……

 ライラが歩く度、彼女の持つ王笏の音が響く。

 後方には彼女の直衛だろうか? 槍を持った女性、身の丈2mはありそうな如何にも側近アマゾネスという呼び方が相応しい衛士が続いた。

 ライラは玉座にたどり着くと、集まった全員を一瞥し、持っていたソフトボールほどもあろうかという紅玉が飾られた王笏を傾けながら、ゆっくりと腰かけた。衛士の一人が玉座の後ろから右に回り、陛下に仇なす不逞の輩の出現に備えて彼女の左右両側に控える。

 ライラ、使節団共に、全ての態勢が整った。

「大魔王陛下におかれましては麗しきご尊顔を拝し、恐悦至極にございます。時空の最上級神ホーラ以下天界50柱、エスエリア王国第2王女フィリア・フローレン以下人間界105名、召喚異世界人4名、陛下の御前に参集の誉を賜り、幸甚の極みに存じます」

 ホーラが全使節団を代表して口上を述べる。さすが天界の最上級神が一柱、全く臆することもなく堂々としたものであった。

 ホーラの言葉を受け、それを噛みしめるように聞いていたライラはその口から一言、言葉をかけた。

「大儀である……」

 ヴォオオォォン!

 ライラが言葉を発すると同時に謁見の間に居た全員は、彼女から凄まじい気が発せられるのを感じた。中には気を当てられて「う!」と呻き、よろめく者までいた。

 ライラとの接見の機会が多い上位神や、つい最近彼女の怒気に当てられた遊撃隊の面々は堪える事が出来たが、いつもながら凄まじいものである。


 そんな中で良二は……涙を、流していた。


 ――ライ……ラ……


 ライラは黒に近いグレーの、縁飾りを金で装飾されながらも華美ではなく、寧ろ質素さすら威厳としてしまう様なそんなドレスを纏い、ライラのイメージカラーとも言える紅の、ビロード調のケープコートを羽織り、頭を飾るティアラはまるで兜のように耳から顎、口元を守る形となる、独特のモノであった。

 そこから見える彼女の瞳はいつもの朗らかな眼ではなく、深く、温かく、優しく、そしてどこか哀しげに輝き、魔界の、いや三界の生きとし生けるもの全てを見つめ、背負っている、そんな荘厳さを感じる程であった。

 良二はそんなライラの姿に胸が振るえた。

 美しい……全てが美しい……。

 天界も人間界の者も、ライラの威風に圧倒され平身低頭するばかりであったが、少なくとも良二だけは感動していた。

 これほどまでに美しい存在を彼は見たことも、感じたこともなかった。

 メーテオールが醸し出す、異次元の美しさとはまた違う、目の前に確かに存在する、柔らかで暖かい美しさ……とでも言えばいいのか?

 もはや美しい、感動と言った言葉ですら陳腐に感じる、現す言葉が見つからないくらいである。唯一、現すことが出来たのがこの涙だったのかもしれない。

「アデスに安寧と幸甚をもたらす、この計画に関与するすべての者に、妾は全幅の期待と信頼を寄せるものである。その活動の場を提供できるは、妾の慶びとするところである。本会議がアデスの生きとし生けるもの、すべての未来を築く足掛かりになる事を、衷心より求めるものなり。諸侯らの働きの先に、光ある未来が待っている事を、切に願う」

 ライラの眼前に集った全ての者たちを包み込むような心に刺さる、力強くも暖かな声が、言葉が彼らの中に染みわたっていく。

 よろめいていた者もライラの激励を受け、自分らに架せられた責務、それに負けない気力をふり絞る思いになっていく。

 それは、彼女が言葉と気で彼らを奮い立たせているかの様でもあった。

「身に余るお言葉、光栄の極地! 我ら一同、アデス三界の未来のため、粉骨砕身の決意で事を成す所存にございます!」

 ホーラの答辞を受けたライラは微笑み、ゆっくり頷くと王笏を支えに立ち上がった。

 入場した時と同様に歩み始め、静かに、厳かに、右の扉から退場していった。

 続いて8大魔王も入場して来た、それぞれの扉から退出した。


 左右の扉が閉まると、場内から誰ともなく安堵の声が広がった。謁見の儀はこれで終了である。

 次の予定が押している者は早くも退場をはじめ、一部は天界や臨席した魔界の担当者らと打合せ等をし始めていた。

「皆お疲れだった。取り敢えず控えの間に戻って制服に着替えてくれ。俺はフィリア殿下やホーラに……ホーラさまに挨拶してから戻る」

 誠一が遊撃隊みんなに指示をする。

 緊張から解放されて、伸びをしながら強張った身体をほぐす美月やメアらから距離を取って、良二は皆に泣き顔を見られまいと壁際に寄り、ハンカチを取り出して顔を拭きまくった。

 そこに人がいる……それだけで感動したことなど、生まれてこの方初めてであった。

 これは自分だけであろうか? 容子や黒さんはどうだっただろうか?

 自分がライラに惚れているから余計にそう感じてしまったのだろうか?

「目、赤いよ?」

 不意に声を掛けられた。ビクッとしながら振り返る良二。

 声の主は容子だった。他の者ならともかく容子になら見られても気まずさや、恥かしさは大して湧いてこないので、良二はちょっと胸をなでおろした。

「ん、いや、ちょっと……ね」

「感極まったってやつ?」

 彼女には誤魔化しても仕方がない、正直に「ああ、そうだな」と良二は答えた。

「うん、わかるよ。ライラさん、とてもステキだったわ」

「ん? お前も感じたのか?」

 自分ほどでは無いにしろ、容子も自分と同様の印象を受けたのだろうか?

 良二はホッとする反面、意外とも思った。

 自分はライラに惚れているからそのせいかと思いも強かったし……。

「容子、良さん、引き上げようよ」

 美月に誘われ、控えの間に戻るため、遊撃隊一同は謁見の間を後にした。

 退出する時、良二はもう一度玉座を見た。

 未だにライラの残像が残っているような重々しい圧を、良二は感じた気がする。

 とんでもない女性と縁が出来てしまった。

 だがそのことに対する重圧、プレッシャーの類いはほとんど感じなかったのが、良二は自分自身の事ながら不思議だった。

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