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見習うべきは

 しかし、良二としてはそれをすんなり受け入れるには引っ掛りがあり過ぎる。

 やっぱりその設定は無理くり過ぎではなかろうか?

 いくらあと半年ちょっとで日本に帰ると言っても、沢田くんと俺たちが人間界の天辺に据えられてもいいものか?

 俺、無名の大学生だよ?

 二人は現役女子高生だよ?

 四天王っつーても筆頭は鉄工職人だよ?

 この面子で世界の頂点付近の存在って、人間界の皆様の立場は? 6か国の王族、皇族の皆さまのメンツは? 伝統は? プライドは?

「そうは言っても、俺たちはシランさまみたいに、地上に太陽を作り出すなんて、そんな力はないし」

 加えて、聞こえてくる8魔王方との力の差は歴然とし過ぎている。

 生徒会長が大統領から「同じプレジデントじゃ無いか」とか言われても……てなもんだ。

「あれは、もう二度と使えないようにしたよ……」

「メーテオールさま、余計に悲しませちゃったしね~」

「ああ、そうか。あれってメーテオール猊下が悲しんだから」

 良二は例の神話、言い伝えの詳細を思い出した。

「『私のためでも、もうこんなことしないで』って言われて……それで猊下と陛下に頼んで封印してもらったんだ」

 シランが思いっきり沈んだ顔で言った。言い伝えが正しければ数千年~1万年くらい前の出来事のはずだが、猊下の機嫌を損ねた事がよほど堪えたように見える。思い出したくない過去なのだろう。

 いずれにせよ核軍縮が進んだことは喜ばしい?

「そう言えば、お兄ちゃん……猊下のこと、嵌めたそうだねぇ?」

 不意に、良二をジト目で睨むシラン。ホーラに続いての叱責第二ラウンド?

「う……いや、あれには自分も困惑した次第で……まさか、あんな当てずっぽうが命中とは……」

「まあ、猊下も最後は笑っておられたって、陛下も言ってたからいいけどさぁ。もしも猊下を泣かせるような事したら……」

 シランのジト目が更に細くなる。訓練前にポリペイアンから聞いた話が、脳裏を過ぎる。

「も、もちろん! 大体、俺は黒さんと違って、狙って嵌めるなんて気は全っ然、無かったですし!」

「おいおい。また、俺に振るのかぁ?」

 ブー垂れる誠一。しかし、ホーラも話に乗って来た。

「こいつにも言ってやれ、シラン。全く貴公は、自重と言う言葉をもっと思い知るべきだ」

「なら皆様方は、意に沿わぬ召喚でアデスに無理やり連れて来られた者の心情にも、理解を深めて頂きたいものですな?」

 ここぞとばかりに皮肉めいて鬱憤晴らしの誠一。

「それは重々承知しておるつもりだ。しかし、貴公の手管はアデスであろうとチキュウであろうと、問題が有り過ぎるとは思わんか!?」

 こちらも同じく、ここぞとばかりと誠一の普段の言動を諫めるホーラ。うんうんと頷く、ラー、シーナ、メアら誠一大奥衆。おまけにライラも力強く、うんうん。

「おじさんの心の内には、本当にお気の毒に思っているよ。でも、猊下のことは別。僕は猊下が悲しむ姿は見たくないんだ」

「そこは自分と意見が一致してますよシランさま? あの見目麗しい、絶世の美しさを誇るご尊顔に影を落とすなど、許される事ではありません」

「……信じていいんだね?」

「もちろん! 初めて猊下のお顔を拝見した時の衝撃は、正 に 筆舌に尽くし難い。あの御方の美しさに(あやか)れば、ホーラさまの眉間のしわも、もう少し緩くなるのでは無かろうかと?」

「そう言う一言多いところも自重しろ!」

 ホーラは眉間に溝を作りながら、誠一に、こめかみグリグリを食らわせた。

「と、まあ、そんなこんなで最強魔法は封印されたけど、それでも雷と火の属性を融合した戦闘魔法はすごいよ~? だから、シランくんは魔王府軍の総司令官なんだしね!」

「て、事はやっぱり大将軍とか大元帥とか?」

「ん~、魔王府軍は人間界で言えば近衛軍みたいなものかな? 防衛軍の長は覇王のブレーダーおじさんだし」

「魔界って魔王府が統治しているから、基本は一国なんじゃ? 防衛軍って、どこと闘うの? 反政府勢力とかいるのかな?」

「まあ、ミツキお姉ちゃんの言う様に、魔王府のやり方に反対する連中は、居るのは居るけどね。でも、陛下に喧嘩売る命知らずなんか、そうそう居るもんじゃ無いしぃ~。防衛軍の仕事としては、たまに地方都市同士の小競り合いを制圧するとかもあるけど、基本的には魔獣の討伐が主だね。魔獣の数も質も人間界より魔界の方が多いし、凶暴だし」

 それを聞き、ホーラのグリグリから逃れた誠一が意見具申。

「一度、魔界にも訪れてみたいもんですね。人間界の魔獣にも手強いのが増えてきそうな感じですし、ここらで我々も更に経験を積んでおかないと」

 どうやら誠一は訓練も兼ねて魔界視察? を目論んでいそうだ。魔界ならではの技術や工業製品にも興味津々であろうし。

「ええ、是非ともいらしてくださいな。私が魔界の名所をご案内致しますわよ?」

 ラーが、ガイド役に立候補。

「まてまて、ならば天界に来ぬか? サワダ卿も、もうすぐ天界での修行に入られる事であるし、我が家に招待しようぞ」

 続いてホーラが誘致? してきた。そのホーラを押しのける様に、ラーが魔界行きを重ねて勧めてくる。

「いえ、まずは魔界においで下さいましな。以前、アイラオとシランさまがイタズラして山をふっ飛ばした時の副反応で作られたカルデラ湖や、青樹王ウドラさまと星龍王ギャランドラさまの決闘の折り、魔力の激突で大地が裂けて出来上がった、深さ1377mの大峡谷とか絶景でございますわよ?」

 なんか、とんでもねぇ事をサラっと言ってる気がしてならない良二くん、冷や汗タラーリ。だが、二人の煽り合いは止まらず、

「ああん? 一番の見どころは、今までに貴様が喰い散らかした男どもの共同墓地では無いのか?」

なんてホーラの下世話な嫌味に、ラーさま、ムシっとするの図。

「まっ、ホーラさまったら、その様ないけずを。いくら自然しか取り柄の無い、天界のなかでも、さらに肥溜め臭いイナカにお住まいとはいえ?」

 ラーさまの嫌み返しに、こめかみビキッとホーラさま。

「……やはり貴様とは、じっくり、語り合う必要が有りそうだな?」

 などと、立ち上がりながら指をボキボキ鳴らす、鬼の洗濯板。ブルーのワンピース。

「そうですわね、ここはとても開けた地ですし、語るには持って来いですわね……」

 ホーラと同様に立ち上がり、首をコキコキ鳴らす、歩くフェロモン。黒のワンショルダービキニ。

 一体何で語り合う気なのか? 少なくとも言葉で穏便に語り合う訳では絶対に無いくらいは良二にも容易に予測できる。初会談の時の「世界の意思」で決めるわけでも無さそうだし、久しぶりの、時空の最上級神vs夜の魔王のガチバトル?

 誠一と付き合い始めて丸くなったと思われたが、奥ではやはり何か燻っているのか?

「シ、シランく~ん……」

「うん、アイラオ姉ちゃんと一緒なら、何とか防御結界は持つと思うけど……」

 アイラオ・シランも冷や汗である。

 ラーとホーラの闘気であろうか? 付近の砂が舞い上がり始めている気が……

「お兄ちゃん、お姉ちゃんたちも、こっち固まった方がいいよ? イザとなったら転移で……」

 アイラオが避難勧告。

「え~、ここでやらかすの~? まあ、リョウくんはあたしが守るから大丈夫よ!」

 さすが陛下は余裕綽々である。

「ちょっと、止めてよ隊長! 自分の彼女でしょ!」

 と容子ちゃんが誠一に諫言するも、

「う~ん、『猫と女同士のケンカには首突っ込むな』って死んだ婆ちゃんが言ってたしな~」

なんてね。

「主様ぁ、ここはそう言うわけにも……」

「猫のケンカなら、水でもぶっかければ何とかなるっすけどね~」

「いや、猫族(あんた)がそれ言うの?」

 などと手を拱いているうちに、ラーとホーラの闘気は最高潮に達する。

「久しぶりに全力が出せるな」

「望むところですわ」

 絵に描いたような一触即発。だがその時、

 シュッシュッ!

2本の鉄串がラーとホーラをけん制するように、両者の足元に刺さった。二人の闘気が散らされたか、舞い上がった砂塵が一気に浜に吸い込まれる。

「ここは僕の縄張りだよ?」

 皆の眼が、声のした方に向いた。

 その先には、コンロ前でBBQを仕切っていたポリペイアンが、2射目の鉄串を構えながら、不機嫌そうな顔でラー・ホーラ両者を睨んでいた。

「このきれいな海岸を荒らすってんなら、まずは僕が相手だからね?」

 成程、さすが海を司る神さま。例え戯れ事であろうとも海を荒らす行為は許さない、か?

 絶妙の機を見つけ、すかさず誠一が腰を上げた。

「ホーラさま、ラーさま。ここは矛を収め下さい。ポリペイアンさま、お騒がせ致しました。後は私にお任せを」

 猫のケンカ云々とか言いながら、タイミングを逃さず収拾させる誠一の言葉に、微妙な顔を見せながらも機嫌を直すペイン。

「わかったよクロダくん、君に任せるよ。でも二人には、ちゃんと言い聞かせておいてよ? この浜は人間界でも僕のお気に入りなんだ」

と、言いながらウインクする海の神さま。

「セイイチぃ……」

 ぐずるホーラのこめかみ付近に誠一が優しくキス。

「ホーラさま。ホーラさまのお誘い必ずお受けしますので、ここは私に免じて。ラーさまも」

 と、ラーの額にキス。

「セ、セイイチさまが仰るなら……」

で、一件落着。焼きたての海鮮を誠一の手で食べさせてもらい、ホーラやラーの昂った気もほぐされていく。

 そこにメアやシーナも加わっておねだり開始。いつものセイイチ大奥ご一行に戻った。

「黒さん、美味しいとこだけ持ってくなあ……」

 ホッとしながらもボヤく良二。

「今更だけど、あの人だけは」

「相変わらずしたたかな男よねぇ、隊長は。漁夫の利と言うか、トンビに油揚げと言うか?」

 美月も容子も、アデスの者たちを翻弄する誠一のスキルには一目置いてはいるが、自分らがいつ踊らされる側になるか? などと想像すると、素直には喜んでいられそうにはない。実際、いつぞやはサル芝居の大喧嘩にしてやられたワケで。

「リョウくん? 見習う所と見習うべきじゃない所の見極めはしっかりね?」

 ライラが冷ややかな目をしながら良二に釘を刺した。

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