引続き猛訓練
「ペイン?」
ポリペイアンの背後に立つ形になっているライラが彼女に呼びかけた。不機嫌そうな含みたっぷりの声色で。
そのオーラを感じたか、ピクッと反応した後、動きが止まるポリペイアン。
「入れるのは息よ? 舌じゃ無いのよ?」
「………………………………ちっ」
ライラさん、ビキッ!
「今、ちって言った? 言ったよね? ちって言ったよね!?」
ビキニを引っ張りペインの顔をこちらに寄せるライラ。
「聞き違いよ陛下~。そんなことぉ~」
あさっての方を見て弁解するペインさま。ライラに引っ張られるも、見えちゃいけないところは必死で防御しているビキニさんであるが、その食い込み方がハンパなく、良二や誠一にとっては逆の意味でエロく感じてしまいそう。
「こっち見て言いなさいよ、あたしの眼を見て言いなさいよ!」
「やだなぁ~陛下、勘繰り過ぎよぉ~」
「リョウくんが気に入って、あたしたち三人が認めてりゃ文句言わないわよ。でも、それをすっ飛ばしての横紙破りは許さないからね!」
「そう言えばさっき、リョウジの事を、活きがいいとか脂がのってるとか申しておったな?」
などと火に油を注ぐホーラ。
「ペイン! あんたねぇ!」
「やあねぇ~、陛下を出し抜こうとか、僕そんな事ぉ~」
「だからあたしの眼ェ見て言えって言ってるでしょー!」
笑ってごまかしながら頑なに顔を背けるペイン。が、ふと真顔になり、
「あれ?」
と、海側を見て、眉間にしわを寄せながら、目を凝らして海を見始めた。
「え? なに?」
ライラも海の方を見た。海の神であるペインがそんな反応するほど何らかの異常が海に?
「…………」
しかしパッと見、異常は見られない。カモメそっくりな鳥が「ぎょ~ ひゃお~」とか、のんきな鳴き声を飛ばしながら海上の魚を狙っているだけ……
と、
「ふん!」
ペインはそのスキをついてライラの腕を振りほどくと、猛ダッシュで逃げ出した。
「あ! 待ちなさい、こらぁ!」
同じくダッシュで追いかけるライラ。
間近で事を見ていて良二もまた、眉間にしわを寄せた。
大魔王陛下ともあろう御方が随分古い手に引っ掛るものだ、と。
それともアデスでは、まだ斬新な手法なのだろうか?
「もう~。訓練だというのに困ったものねぇ。じゃミツキ、指導宜しく!」
留守になった良二の横に、ちゃっかり滑り込んで座るカリン。美月の指導で訓練を続けようと促す。
一応彼女は公認であるから、まあ、キスまがいの訓練でも大丈夫だろう。
美月自身も学校で習った事を思い出しながら、カリンに指導してみた。
「で、ここで鼻をつまんで、唇を密着……」
むちゅ……
カリンの、感じ慣れた唇が良二の唇をゆっくりくすぐる。
「そうそう、目線は救助者の胸をみて、息をちゃんと送り込めてるか確認しながら……」
しかしながら。カリンはここで息を送り込まず、ぬちょっと……
「む! むぐぐ! むぐ!」
モゴモゴモゴ……
案の定、舌を入れよった。カリンの目は「やらないはずないでしょう~」と言いたげに良二の反応を面白がっている。
「カリンさ~ん……」
想像はしていたが、あからさまにやりよった王女殿下に美月は呆れかえった目線をくれた。こっちは(史郎と)月に一度できるかどうかなのに~、てなもんだ。
それでもって、かててくわえて良二は、カリンの鼻を摘まれたままのディープキスに、呼吸を阻害されてしまっていた。当然のことながら、良二の顔はみるみる赤くなっていく。
この顔色が青白くなる前にカリンの唇から逃れなければならない。
「ちょっとぉカリンさ~ん。良さんがホントの要救助者になる前にやめなよ~」
などと美月に言われて渋々ながら体を起こすカリン。ちぇ! と舌打ち。
「ぶはあぁー!」
と、九死に一生を得た良二。そのままぐったり。
一方、誠一は誠一でホーラ、シーナ、メアに三人がかりで抑え込まれ、要救助者役を強要されていた。
「ここだな? ここで顎を引いて、こう!」
ぐ き っ!
「ホーラさま! 今、首がぐきっと言った! 言いました!」
例の自衛隊時代の事故が誠一の脳裏をよぎる。幸い、走馬灯は見ずに済んだが。
「要救助者のくせに変に力を入れるからだ。全てを我に委ねよ!」
ホーラの乱暴な気道確保の横で、同時にシーナが誠一の腰下にまたがり心臓マッサージの訓練をしようとしている。
「おいシーナ、そこは横に座るんだ。それじゃ騎乗位だろ!」
もう少し言葉選びましょう、メア先輩……
「ちょっと!」
とても水難救助訓練の様相を呈さない状況に、
「何やってんの、みんな! もっとまじめに訓練しなさいよ!」
と、風紀委員長容子がお説教するも、残念ながら、みな馬の耳に念仏。
容子としても機に恵まれれば良二との訓練もワンチャン……と思わなくもなかったが、
「仕方ありませんねぇ、じゃあ私たちはこちらで?」
代わりに背後から、何か妖しげな声が容子を誘ってきた。
その得も言われぬ声に、背筋をゾッとさせた容子が後ろを振り返ると、口元に妙な笑みを浮かべたラーが立っていた。
「え! あ、あの、あたしたち女同士ですよ!」
「それが何か? 人命救助に性別は無関係でございましょう? ヨウコさんはご存知の様ですから、私共にご指導いただかないと……さあ、こちらで横に」
言い終わるが早いか、ラーはひょいっと容子の足を掬うと、続けてフワッと彼女を浜に寝ころばせた。夜王様の手管に手も足も出ず、されるがままの容子ちゃん。
「これで顎を引いて……」
迫る、どアップのラーさま。実際の話、ラーさまは女の容子の眼から見ても、ドキドキ物の美女である。性別を超えた妖しい魅力、歩くフェロモンの本領発揮。
「あ、あのラーさま? 救命訓練ですよね? ま、まさか百合、みたいなことは」
「うふ、ヨウコさんがお望みなら?」
ラーさまの眼が、更に妖しく光る。んで、その横でアイラオがニコニコしながら解説。
「うん、ウチのお姉ちゃん、女の子もイケるよ~。そっちの経験も豊富だしぃ~。でもねぇ、一度お相手したら……」
「な、なに?」
「男には戻れなくなるよ?」
容子は一目散に逃げだした。
苛烈極まりない水難救助訓練課程を修了した一行は、昼食に移行した。
訓練前にポリペイアンが仕込んでおいてくれた海鮮の材料でのBBQである。
「まったく、油断も隙も無いんだふぁら……」
焼きあがったエビを頬張りながらライラ陛下がブー垂れた。
「ちょっとお茶目しただけじゃな~い。マジになって怒らないでよ陛下ぁ~」
コンロ前で頭にバンダナ、額に汗を浮かせてエビ、カニ、ホタテ、アワビ等、海の幸を焼き上げ、皆に振る舞いながら謝るペイン。
「うん、まあ未遂だし、美味しいエビやカニに免じて許してあげるわ」
と、意外とあっさり不問に付す大魔王陛下。色気も所詮食い気には勝てぬか……
「そうか、あの時に一緒にいたのがシランさまだったんですね?」
食い気に敗北した感のある良二は、振る舞われる海鮮焼きに舌鼓を打ちつつ、シランやアイラオとお喋りをしていた。
「ビックリしたよ。水で剣以上の切れ味出すなんて想像も出来なかったからね。しかも今ではあの時以上に使いこなしてるし、お兄ちゃん凄いや。アレってやっぱり異世界の技なの?」
自分の得意技である水剣について、良二はシランに種明かしをねだられた。
「まあ、技って言うより……そういう機械装置がありましてね。それをイメージしたら首尾よく発動したって感じでして」
「あのヤクザ共、見てられなかったよねぇ。思いっきりパニクっちゃってたし!」
良二たちの初陣、ユズの人買い部門を潰した時に、ひょっこり現れた謎のローブ二人、あれはアイラオとシランだったのだ。
「でも何であの時、あんな所に?」
「陛下がパンジュウお土産に持ってきてくれてね。お兄ちゃんの話をしてくれたんだ~。だから興味持ってシランくんと覗きに行ったんだけどね~」
「脚震ってたのにパンジュウ食べたらシャキッとなっちゃうんだもん、ホントいろいろ驚かされたよ」
「いや、あれはホントに偶然で……って、もしかしてパンジュウ屋のオヤジさんにその事、話したのって……」
王都魔導団御用達……
「えへへ~。あれ美味しかったでしょ? 次の日にも買いに行っちゃってさ~。その時、思わず話しちゃってさ~」
それでか~……普通、民間に知られるはずの無かった、それも屋台のオヤジがあの事を知ってるのはそういうわけであったか。
「あ、それじゃあ、あの3人目が不自然に倒れたのはアイラオさまの、カリンをさらった愚連隊を倒した時と同じ技で?」
「そういうこと!」
「ようやくスッキリしました~。しかし、あの時の二人が、魔界の魔王のアイラオさまとシランさまだったとは」
「ねえ、お兄ちゃん?」
「え?」
「もう。いい加減、さまとか敬語とか要らないんじゃない? リョウジお兄ちゃん」
「え? いや、そうは言っても二人とも、8魔王に名を連ねる方だし……」
「お姉ちゃんの言う通りじゃない? 陛下には敬語とか使ってないのに、その下の僕たちに使うのは変じゃないかな? ね?」
「そろそろ、やめて良くない?。もう、お兄ちゃんたちはミカド四天王だってわかって、あたしたちと同格だとハッキリしたんだし」
二人はそう言って良二に、自分達には畏まらずに接するよう求めてきた。




