訓練・心肺蘇生
「いいですか~」
「行きますよ~」
「ちょ、お姉ちゃんたち! な、なにするの!?」
その、容子と美月に手足を引っ張って持ち上げられ、
「そ~れ!」
と掛け声とともに、海に放り投げられた少年風魔族。
バッシャーン!
ポリペイアンが指差した彼は、アイラオの勧めで参加した8魔王の一人、冥府王シランであった。
外見は身長150cm程度の、歳の頃11~12歳くらいの少年ぽいのだが、これでも魔王様なのである。
「プハ!」
水面から顔を出すシラン。そこにアイラオが手を引っ張って立たせる。
「ほら、立って。やりかえすよ!」
そう言うとアイラオは、今度は美月の手を取った。
「え! あたし!?」
「よおし!」
シランも美月の足を引っ張る。
「わ、わ、わ!」
「「そ~れ~!」」
今度は、美月がシランの様に放り投げられた。
「シ、シランさまが?」
「そ! あの子はメーテオール様にすっごく憧れててね、あの時は猊下を悲しませたってメチャクチャ怒ったらしくてさぁ。あそこにあった人間の街、焼き消しちゃったのよね~。あの頃の彼って結構、尖がってたしぃ」
「あ、いや、じゃあ、シランさまも堕天……?」
「いや、シランは最初から魔族だ。その当時の人間界は魔界の存在なぞ知らん。ただ、人間は猊下の言葉を無視して罰を喰らったとしか理解しとらんから、神族だと勘違いしたまま伝わっておったのだろう」
と、ホーラ。て、事はつまり?
「やったな~、シランさま! もっ回行くよ~」
「わ~、お姉ちゃん、もう勘弁~」
歩く核弾頭をJK二人が放り投げてる? シュールと言うか、なんと言うか……そうでなければ普通に子供たちのじゃれ合いに過ぎないのに。
「それはそうと……」
ホーラがシランの水着姿を見ながら、
「シランは男なのだが……なぜ貴公らと全然違う水着を着ている?」
と、大変訝しげな眼をしながら聞いてきた。
うむ……実はシランが着ている水着は、ワンピースのスカート水着であった。
男子水着は良二と誠一のサイズしか用意してなかったのだが、美月と容子の機転と言う名の策謀によって、一番体形が似通っているカリンのスペア水着を「地球での風習だ」と着用させられ、男の娘にされてしまっていたのだ。
シランは小柄な身体、褐色の肌に金髪のおかっぱボブな髪型の少年と言う事も有り、これがまた、メチャクチャ似合っているから困ったもんである。
「さあ~てと、仕込みはこんなもんかな? 昼食にはまだ時間は早いし……」
「じゃ、それまでにやる事やるか」
誠一が立ち上がり天幕を出る。
「どうするの?」
「一応、訓練として来てるんだ。少しはそれらしい事は、しておかないとな」
今回の宿舎である。この王家の別荘には常に使用人が在住し、王族がいつでも使えるよう管理を行っている。
遊撃隊が訓練と称して借りているのに、終始遊び惚けていたと使用人の口から報告されてはやっぱりバツが悪い。
と言うわけで、本命の水難救助訓練開始。良二も誠一に続いて天幕を出た。
「訓練メニューとか考えてるのかい?」
「水難救助時の注意事項と心肺蘇生術かな。特に心肺蘇生は水難に限らず有効だからな」
「僕も参加するよ。おぼれた人の救助は危険が伴うからね、ちゃんと説明してあげたい」
と、ポリペイアン。
海の最上級神のレクチャーとは心強い限りである。
「よ~し、良、集めてくれ」
言われて良二は、相変わらず放り投げ合いで戯れている全員に号令をかけた。
「集合! 現在地!」
手を上げて砂浜に立つ良二。遊撃隊の各員が遊びをやめて即座に集合し、良二を基準に横隊に整列する。
うん、なかなかに軍隊らしく見える。ラーやアイラオたちも一緒になってその後ろに並んだ。
まずはポリペイアン先生におぼれた人の救助について説明を受ける。
いきなり近付かず、棒やロープなどが有ってそれが届くならそちらを活用する事や、道具が無くて人手があれば腕を繋ぎ合ってのヒューマンチェーンなどの方法を教えてもらった。慌てず急いで正確・安全に。常に冷静さを忘れずになど、手法や手段に加えて心構えもしっかりと説いていただきました。
さて、次は救助者が心肺停止に陥った場合の蘇生法の訓練だ。
心臓マッサージや人工呼吸が基本ではあるが、アデスのこの時代には、そう言った蘇生法が存在するのか? もしなければ、それを伝授する事に時の流れの影響は有るか?
その辺りはホーラに監視してもらう事にして、取り敢えず始めてみる。
心臓マッサージは手を当てる位置や当て方、力の入れ方や程度、速度を、誠一が自衛隊等で受けた訓練を元にレクチャーする。
止まった心臓がこんな事で蘇るのか? とアデス組は不思議がっていたのでどうやらこちらにはこの方法は無い、若しくは普及してはいないと言えそうだ。
ただ、これに相当する、高位な魔法使いの蘇生魔法があるようだが、これは魔法による直接マッサージに近いもので、AEDの類に似通っており、かなりの高位術者でないと難しいそうな。
メアやシーナらアデス人勢にも教え、疑似的に一連の動作を練習させたがホーラは何も反応なしの判定を下した。伝授しても大丈夫らしい。
気になる事となれば、実際にそれで人命が救われた場合はどうなるか、と言う事になるが、まあ、そういう事故などが起こらないのが一番だし、それを祈るのみである。
次は人工呼吸だ。引き続き誠一が指導するので要救助者の役は良二にやってもらう。
「は~い、僕にやらせて。海の神としてはこういうことは熟知しておかないとね!」
力いっぱい挙手しながらポリペイアンが名乗り出た。
良二としても誠一としても、特に反対する理由は無いのでやってもらうことにした。が、彼女は挙手+飛び跳ねながらアピールしているので、一部が異様にばいんばいんしてしまい、容子やカリンのジト目を誘う事にもなってしまった。
「まずは真横に座り、要救助者の気道を確保します」
ポリペイアンは誠一の説明を受けながら良二の顎に指をあて、額を押さえる様にしながら顎を引いて、気道が一直線になる体勢にする。
言われた通りに、的確に処置するポリペイアン。ここまでは何も問題はない。
ただ、良二にとっては問題が一つ。それは、自分の顔の真横で、今日の女性陣の中でも最も巨大なお胸が、ゆらゆらしている事だった。全く、ゆらゆらだの、ばいんばいんだのと……
「次に鼻を塞いで空気漏れを防止し、要救助者の口に自分の口を当てて、空気を吹き込みます」
と、誠一が説明を続けると、
「それってキスじゃない!」
カリンが当然のごとく、お約束のクレームを入れて来た。
「まあ、そう見えるのは仕方ない。だが、この方法なら確実に空気を肺に送り込めるんだ」
ムスッとする、カリンとライラ。容子もあまりいい気はしないが、マウストゥマウス法の有効さは学校の授業でも習っていたので目を瞑らざるを得ない。要するに、本気でキスしなきゃいいのだ。
「じゃ、つづけるね~」
クレームを抑えたポリペイアンが引きつづき、訓練を続行する。
揺れる爆乳に、キス同然の訓練。良二もこれは役得……な~んて呑気なことは言ってはいられない。
なにせこの場にはライラたち三人の眼が一堂に揃っているのだ。こんな状態で、もしも己れのペニ助が反応してしまったら……
――い、いかん、いかん!
良二くん、ただいまフルブーストで理性を急速発動!
確かに今の良二には、アデスの風潮もあって既に三人の彼女がいる。
だが、それにはそれなりの神聖にして暗黙のルールが存在しているわけで、今後も事あるごとに好き勝手に、誰それ構わず夜を共に……なんてエロマンガみたいな行動が許されるわけではない。そういう事は、あくまで自分の奥を支えてくれる彼女ら全員の同意があって初めて認められるわけで。だまってこっそりなど、彼女たちの信用を裏切る行為は絶対のタブーである!
しかあぁ~し!
この眼の横で迫ってくるお胸、容子や美月らならば標準的な三角ビキニが、同じ大きさの布地にも拘らず、ポリペイアンがつけると、まるでマイクロビキニに見えてしまう程のスーパーおっぱい。
ダメだ! 彼女たちの機嫌を損ねてはいけない! これで己がペニ助が奮起してしまったら裏切者呼ばわりは避けられない!
良二は必死の抵抗を試みた。とは言え、出来る事などたかがしれてはいるが、せめて眼を瞑り、視覚情報を遮断して平常心の維持に努める。
が、何か「じゅるっ」と言う、舌なめずりの如き艶めかしい音が聞こえたような気が……




