遊撃隊の水難救助訓練
夏だ。
エスエリアは夏本番を迎えた。
夏となると、涼を求め、人々は川や海に行楽に出る。それはエスエリアも同様らしい。
故に自然と、水による事故が増えてしまう。
そういった時に事故に遭った臣民を救助するのは軍や魔導団として当然である。
だから、そのような水難事故から臣民を護るために魔導団の一部門である特別遊撃隊が現地……つまり海で水難事故を想定した訓練を行うのは、当然、必須の訓練課程であり、それが水難救助訓練なのだ。
決して海水浴に来ているわけではないのだ。ちゃんと、いつもの武器等、装備品も持ち込んでいる!
そう! 断じて海水浴などではない! しかし……
「リョウく~ん!」
バンドゥビキニのライラである。
「リョウジ~」
白いワンピース水着のカリンである。
「良く~ん」
標準的三角ビキニの容子である。
「良さ~ん、黒さ~ん」
フリルビキニの美月である。
「主様~」
それぞれ水着のシーナである。メアである。ラーである。アイラオである。ホーラである。
エメラルドグリーンの海、白い砂浜。その波打ち際で戯れる水着、水着、水着。
眼 福 で あ る。
「黒さん……」
良二が呆けたような、にやけたような目をして尋ねる。
「遊びじゃ無いよね……」
「ああ……」
「訓練だよね」
「おう……」
「公務だよね……」
「そうだ……」
魔導特別遊撃隊バンザーイ!
良二はそう思った。そう思わなければ男じゃない、と重ねて思った。
出るとこが出て、締まるところは締まってる最強ボディ系のライラやラー。
一見少女のような体形ながらその年齢故、大人の色気を併せ持つカリン、アイラオ。
一般的で一番身近に感じる女の子たちの魅力を持つ容子や美月。
一部、特殊需要層に猛烈な支持があるであろう、シーナ、メア、そしてホーラ。
それらが自分の視界一杯に入り乱れて動き回っているのである、跳ねまわっているのである、揺れまくっているのである。
いまだ少年を卒業できずに留年中の良二が極楽パラダイスだと呆けてしまうのは止む無しであろうぞ。
海での訓練と言う事で、当然の如く水着が必要となったワケだが、この時代の水着は露出度が低い物ばかり……と言うか、それゆえ重すぎて動き辛いだろうと美月・容子がクレームを入れ、自分たちでデザインした地球の現代風水着を用意したのである。
出来上がった水着のデザインを見て、露出度が高い分アデス組は当初は躊躇した。だが訓練場になったのは王家の別荘地であり、この海岸はいわゆるプライベートビーチだった。当事者以外の耳目は完璧に遮断される……という事で、皆さま思い切っていただけたご様子。
砂浜に設置された訓練本部を兼ねた開放型天幕の下で、夏なのに春爛漫な良二。
だが、それに水を差すが如く、不機嫌そうに話しかけて来る声が。
「リョウジよ?」
――ハ!
それは水着姿のせいで、より鬼の洗濯板ぶりが目立つ時空の最上級神、ホーラさま。
「貴様、メーテオール猊下相手にやらかしてくれたらしいなぁ?」
天幕下に敷かれたシートにうつ伏せで寝転び、誠一のマッサージを受けながらホーラは良二を半眼に細めて睨んだ。
この間の遠征時の事であろう。良二は図らずもメーテオールを引っ掛けた形になってしまった訳だが、彼女を敬愛するホーラには当然お冠り。
「まったく、異世界人とは言え不敬にも程があろうが! ヘンなところばかりセイイチの影響を受けおって!」
いきなりショボーンとなる良二。先程までの極楽感が海の底へ沈んでいくような気分だ。
「言い訳になりますが……ホント、この結果には自分も意外で……」
「まあ、猊下は不問にするよう仰せられたゆえ、あまり追求はせぬがな。セイイチに師事するなとは言わんが、何でもかんでも見習うべきでは無いぞ?」
「それは私に向けてのお叱りでございますかな?」
ホーラの肩から背中にかけてマッサージを続けながら誠一が口を挟む。だがホーラは続けた。
「ライラ陛下も零しておられたぞ? ご寵愛賜っているとは言え、甘えすぎるのも問題であろ、う!」
お説教を受けながら、誠一はホーラの左肩を持ち上げて肩甲骨の下部を開け気味にし、そこに隠れている僧帽筋下部から広背筋辺りを指圧した。
「ああ! そこだそこだ! あ~気持ちいい!」
「この辺りは自身では中々届かない部分ですからね~、ほぐし切れない部位なんですよ」
続いて誠一は右の方の筋肉もほぐす。
「く~! 効く~! 貴公はマッサージもツボを心得ておるな!? あ~これはたまらん!」
ホーラさまご満悦。
実のところ、マッサージに頼らずとも回復魔法でのコリの解消、血行の回復は可能である。だが、ある時の事後、誠一がモノは試しとホーラに施すと、彼女はその痛気持ち良さと終わった後の解放感がすっかり病みつきになったもよう。加えて最近はラーにも、せがまれているそうな。
「我が妻も肩こりがひどかったですのでね、自然と覚えました」
「今度はマッサージかぁ。黒さん、どこまで範囲広いんだよ」
もはや驚きと言うより、あきれ顔の良二。
「器用貧乏だって言ったろ? 真似せん方がいいぞ?」
ホーラの背中をほぐし終え、頸椎辺りをマッサージして頭への血行を促進させて1セット終了。
「ん~! 生き返った! 最近はこのマッサージもセイイチと会う時の楽しみになったわ!」
すっかりご機嫌のホーラさま。
「あなたがそんな顔するなんてね~。変われば変わるもんだわ」
そんなホーラを見ながら、身の丈は良二程度、脚まで届きそうな紫の髪を貯える、大変、大 変 、お胸の大きな女性が感慨深そうに言った。
今回は、良二たちには初対面の人物が二人来ていた。
その内の一人、今バーベキューコンロ前で海鮮材料を慣れた手つきで捌いている女性。
ホーラの紹介で今回の行事に参加した彼女こそは、天界の最上級神12柱の一柱、海の最上級神であるポリペイアン、その人である。
「皆がそう言っておるようだが……我はそんなに変わったか?」
「そりゃあもう。殿方にそんなヘロヘロな顔見せるなんて、少なくとも僕は初めてだね」
「ヘロヘロとか、もうちょっと他に言葉は無いか?」
「ラーちゃんに、お胸の事でイジられても無反応だったんだろ? それだけでも驚きじゃ無いか」
「もう……好きに言っておれ」
ちょっと頬を赤らめるホーラ。
「猊下もお喜びだったよ? いい縁に恵まれた様で僥倖、僥倖」
誠一は何かこそばゆかった。良二ではないが、今の自分の状況は出来過ぎていると感じているのは、誠一も同様なのである。
良二や容子らに比べれば歳食っている分、多少の優位はあるものの所詮は、そんじょそこらの庶民にすぎない。
「今日、僕がホーラに同席を頼んだのはその、名はクロダだっけ? 彼と会いたかったからでもあるしね。やっぱ異世界人のせいかな? なんか活きが違うね?」
「なんだ? 貴様、セイイチを狙ってるのか? もう、こ奴には我を含め4人も居るのだ、控えろ。そうだ、リョウジはまだ3人だ、狙うならそっちにしろ」
ホーラさま! なに勝手に! 良二くん、ちょっと焦るの図。
「それもそうだねぇ。活きもいいし、脂も乗ってそうだ」
なんか舌なめずりでもしそうな目線でポリペイアンに見つめられる良二。
いやいや、海鮮捌きながらそんなこと言われても……何か食材にされてしまいそうなんですが?
「御戯れを、ポリペイアンさま。俺なんか、それほどの者では」
取って食われるわけにもいかないので遠慮気味に話す良二。
「ペインと呼んでよ。僕は親しい相手には、そう呼んでもらってるんだ」
「光栄ですが、一介の人間には身に余る話で……」
良二と同じく誠一も遠慮して応える。そりゃ並の人間よりは上だろうが、神々や魔王様に比べれ、ば。
「何言ってんの? 君たちはミカドを守る四天王なんだろ? 僕ら12神や8大魔王と同格じゃ無いか」
「そ、そんな話になってるんですかぁ?」
良二が驚きと呆れが混ざり合ったような声で聞き返す。
「それは、さすがにおそれ多いでしょう。そりゃ人族に比べれば多少は秀でては居りますが、我々には神々の様な……地上に太陽を作って街を砂漠に変えてしまう様な能力は有りませんよ」
と、誠一が以前に聞いた神話を交えながら言ってみたのだが、
「あ、あれ知ってるんだ? でも、あれやったのは神族じゃないよ?」
意外と簡単にレスが来た。ちょっと当惑する二人だったが……つか事実かよ、アレ! しかも神族の仕業じゃ無い?
「え? そうなんですか?」
「あいつだよ」
と、そう言いながらポリペイアンは、容子たちと戯れている、もう一人の新顔を指差した。




