ライラの秘め事
「しかし、もしも我ら異世界人が沢田くんをミカドとして、天界の最上級神や魔界8大魔王の様に固定化されたりしたら?」
誠一がまだ終わらせまいとさらに質問する。
「まさか、沢田君を天辺にして……天界の12神、魔界の8魔王の様に、人間界で俺たちを四天王か何かに!?」
良二が推測。しかしそれでは……
「そ、それじゃあたしたち!」
「どちらにしろ、帰れない、なんてことに……」
「その可能性はあるのか? ライラ!」
そうなれば自分はともかく、家族のある美月や容子、ましてや誠一は……
「え? あ……」
言われて思わず息をのむライラ。そして感じる強烈な視線。
「まさか……最初からわかってて?」
ライラが振り向くと、誠一の形相は今まで見せたことが無いほど険しくなっていた。眉間に深くしわを寄せ、強い目線で睨みながら問いただす。
「帰れないとわかってて黙っていたのか!?」
「ち、違うよ! あの魔法陣は転送できないだけで今でもチキュウの、あの時間とつながっているんだ!」
「それは間違いありません。あの時間に固定されていますから、静止画ではありますが、チキュウの状況をご覧いただくことも可能です」
帰還に関する誤解だけは絶対に避けたい。今日まで築いた縁や信頼を失う訳には行かない……ライラとメルは良二らに懇願するかのように説明した。
「ローゲンセンの言う事を信じて。ミカドの存在の安定さえ出来れば、沢田くんもその責務からは抜けられるはず」
二人は誠一を、じっと見つめて訴えた。
その眼には迷いも無ければ、目線が泳ぐ事も無かった。
ライラとメルの強い想いを感じ、肩の緊張を解く誠一。ふうっと、一つ大きく息をついた。
「家族と……二度と会えないと……思っちまった」
「ご心情お察し致します。しかし、今は我らを信じて下さい」
「すみません……思わず疑うようなことを。申し訳ありません……」
ライラもメルも静かに首を振り、お気になさらずにと促した。
「猊下、ライラちゃん、よく話してくだされた。改めてお礼申し上げる」
誠一は深く頭を下げた。
「お顔を御上げください。元々こちらが無理をお願いしているのですから。それに……」
メルは改めて良二たちを見渡して言った。
「今、現状を鑑みると皆さまには、やはり何らかの役割があるものと考えるのが妥当かと存じます。みなさまの普通の人たちとは違う能力、それを12神や8魔王と並んで発揮して頂く事になるかもしれません。その時は是非……」
そう言いながら今度はメルが頭を下げた。
ライラにしてもそうだが、それなりの事情があろうとも天界・魔界の最高統治者たる大神帝・大魔王たるが、そうそう頭を下げるなど有ってはならないのだが……それ程良二らに気を使ってくれているのか、余人の耳目の無いこの場であるからこそなのか? とにかく異例の応対であることには変わりはない。
故に良二らも、それに応えて深く低頭した。
良二のあてずっぽうから始まった今回の会談も終わりが見えてきた。
「良、よく見抜いたな」
「いや、黒さんの受け売りで思いついた事でカマかけただけだよ。まさか当たるとは思わなかったな」
「天界と魔界のトップを手玉に取るなんて……」
ライラさん、不満顔と言うか、あきれ顔と言うか。
「なぜ、あなたに勇者の素養が無かったんでしょうね?」
メーテオールは苦笑気味に微笑んだ。
「いずれにしても……俺たちはその時までくたばる訳には行かないんだろうな」
と、ようやく引っ込んだこぶ痕をなでながら誠一が言った。
「今回は、かなりヤバい状況だったが、何とか切り抜けられたし」
「そういや、本当にライラには助かったな。いいところでカリンを連れてきてくれて」
と、良二。確かにあのタイミングでの合流は絶妙とか絶巧とか言うレベルではない。
あれだけ出血を伴う負傷は初めてだっただけに、九死に一生とはこの事だ。
両親を亡くし、自身も死線を彷徨うほどの、あの事故の経験が無ければもっと錯乱していたかもしれない。
「ああ、殿下の助勢が無かったら、マジでヤバかったからな」
誠一にも感謝され、得意満面になるカリン。しかし、すぐに疑問もわく。
「でも、よくリョウジがピンチだってわかったわね? 天眼だっけ?」
「ええ、私とライラはそのスキルを持っております。離れたところから任意の状況を見られる能力ですよ」
カリンの問いにメルが答えた。千里眼とも言うアレだな。
「へえ便利なもんすね?」
「ん? じゃあライラさんは好きな時に良さんの姿見てるってこと?」
「え!? あ、まあ、見てることも……」
うん?
……何故か、イヤな予感がざわざわっと来る良二くん。
なるほど、そんな優れた能力があるのなら、いつ自分の事を見られていてもおかしくはないし、何より今回はそのおかげで命拾いしたわけだし……しかし、それに対するどもり気味の返答が、あ や し い……
と同時に容子やカリンらの眼が光る。
「寝てる時とか?」と、メア。
「う、うん」
は?
「……お着替えの時とかも?」と、シーナ。
「えへへ……」
え? ちょ……
「……お風呂の時とか?」と、ジト目容子。
「ま、まあ、たまに……」
おい、ちょっと待て。
「……おトイレ、とか?」と、ジト目カリン。
「…………」
待て待て待て! マジで待て!
「一人プレイの時とか?」と、半ニヤケ顔の誠一。
おい━━━━━━!
「ちょ! ラ、ライラ! まさか!」
「み、みみみ見てないよ? そそそそんな、い、いいいくらなんでも! ま、ままま、まさか……」
どもりまくりの大魔王陛下。横向いて眼も合わせられない、その眼も思い切り泳ぎまくり。滝のような冷や汗。うん、間違いない。
見 て い る。
「こっち見ろ、ライラ……」
うん、良二くんは若さ満天のお年頃。席次の決め方に踏ん切りがつかず留年中とは言え、美女3人に囲まれたセミ・ハーレム。いきり立つペニ助を鎮静化させるための一人プレイを誰が責められよう……それを興味本位で覗いちゃあ、いけねぇ、いけねぇ、そりゃいけねぇ。と、それに理解を示すのはこの場では誠一くらいだけかもしれないが……
で、まあ怒りと恥ずいのが入り混じって良くん、お顔が真っ赤っか。ライラさんピ~ンチ。
「いい、いや! だだだ、だから、あああたし女じゃない? だだだから、ほら、なななにしてるか、わわ分からないからら、そ、そそその……」
「ライラ━━━━━━!」
天界。メーテオールの居室。
今回摘んできた茶の葉を好みに精製しながら、目の前で塞ぎ込んでるライラの顔を、メルは笑みを浮かべながら見ていた。
「そう落ち込まなくてもいいでしょう。嫌われたわけじゃありませんし?」
「でも~、怒らせちゃったよぉ~」
涙がちょちょぎれる大魔王陛下である。
「まあ、その前に彼も私たちを担いだわけですし、お相子と言う事でいいじゃないですか」
「そりゃまあ……あれには腹立ったけどぉ」
「してやられましたね。いつかは話さなければならない事でしたが、まさかこんな形で」
「でも……」
ライラは一息つくとメルが淹れてくれた茶を一口飲む。
メルの淹れてくれるお茶は、いつも美味しい。
普段、人と応対するときは専従侍女がまかなうのだが、メルはライラには手ずから淹れてくれる。
「あれは全部じゃない……」
お茶の美味しさに比べて、話す話題は美味しさに影を落とす内容の様子。
「我々にもまだ知らされていない、判断のつかない事です。今言うべき事では無いでしょう……ミカドに関しての、お互い払拭できない、胸の内の違和感も……」
「例の、ローゲンセンが忌み嫌うバックアッププランも……」
「出来れば封印したいプランだそうですね……」
「その判断は……判断できるのは多分……」
「ええ、その時に成るまで……分からないでしょう」
ライラの顔がまた少し沈む。
「リョウジさん、でしたね? 年長のクロダさんもそうですが、不思議な方ですね、チキュウの殿方は皆、あのような方々なんでしょうか?」
「サワダくんには会った事ないし、サンプルがリョウくんと隊長さんだけじゃあね~。前にも言ったけど、あの人たちはミツキちゃんやヨウコちゃんも含めて、アデスを客観的に見られるからね、その辺が雰囲気に出てるのかな?」
「私も……彼らに興味が湧いてきましたわ」
そう言うメルをじっと見るライラ。
「なぁにぃ~? 参戦しようっての~?」
「そういう意味合いではありませんが……お二方とも興味深い雰囲気をお持ちです。何より、あなたを夢中にさせた殿方ですからね」
思わせぶりに話すメルの言葉に唇を若干尖らせながら、ライラは残ったお茶を一気に飲み干すと、メルにお代わりを求めた。




