どいつもこいつも
「そういやどうだったの? それ使った事での流れの乱れ? ホーラちゃんじゃなくても、あんたなら感じる事が出来るんでしょ?」
「ええ、そうなんだけど、今のところ異常らしい異常は……」
メルが首を傾げながら仰った。続けて誠一も、
「本来なら、あの魔獣襲撃、我々だけではある程度は魔獣に突破され、最悪全滅に近い敗退を喫し、結果かなりの数の魔獣が村に押し寄せたと思われます。そのせいで村人の中には負傷する人や、或いはお亡くなりになる人が出る可能性もあったはず……それでも今回の件、時の流れに異常が見られないと言う事は、村人に犠牲が出なかった事が正常だと。むしろ猊下の介入が正当だったとも考えられますが……」
と考察してみた。
「正直戸惑っております。またホーラからお小言……諫言を頂く事になりそうだと頭を痛めておりましたから、肩透かしと言いますか、なんと言いますか」
いや、そこですか? 良二は突っ込みたくなった。
「メルが魔翔波を出した事すら正常な流れの範囲内だとするなら、アデスは今まで全く無かった状態に移行してるとも言えるかしら?」
「前に黒さんが言ったみたいに、沢田君以外の俺たちにも、何らかの役割があると言う考え方に繋がるのかな?」
と、なると、やはりあの召喚は……
あれはライラの意思と言うより、アデスの意思とでも言うべきなのだろうか?
アデス三界でも1、2を競うほどの存在であるはずのライラすら導く……
まさに雲をつかむような話、頭の中での着地点が全く見えて来ない。
「あたしたちの役割? そんなものが……?」
容子が呟く。以前と違い、風使いとしては人並み以上に扱えるという自信は出てきてはいるものの、さすがに世界がどうこうともなると、スケールが違い過ぎる。
「確かにそれは俺も言ったがなぁ。良、お前何か思いついたか?」
「いや、具体的に何をされるとか、何をするとかはまだ予想はつかないんだけど」
「確かに沢田君すら何をどうやらされるのかは、ハッキリとは分かっていないしな。その辺りはまだ機密だと仰られるし」
誠一はライラをチラ見した。
「う……」とバツが悪そうなライラ。
「猊下もやはり教えて頂けないのかな?」
と、良二。
「や~、あたしと同じじゃないかな~」
「はい、今のところ、私の口から皆さまにお話しできることは……」
天界のトップと魔界のトップが居ても進展なしか~……あれ?
良二は思った。
そう言えば……居ないな? と。
いや、人間界のトップって居るのか? あれ? と。
良二は鳥魔獣を倒した後の、誠一との話を思い出した。
アデス三界のうち、なぜ人間界には魔素が無かったのか? と言うくだり。
魔素が人間界に現れたのは魔素異変のあった500年前からで、それ以前は存在しない、もしくは魔法が発動するほどの濃度は無かったわけだ。
それと同じく天界や魔界にあって人間界には無いもの……
魔素異変からの人間界での歴史の説明でも、それ以前の人間界史にも出てこなかった、その存在……
大魔王ライラや大神帝メーテオールに相当する存在……
良二はちょっとイケない誘惑にかられた。
そしてそれを押さえられずに口に出した。
「まあ、ライラや猊下と同じ、全ての魔法属性を持つ沢田君をトップの居ない人間界の帝王に据えて、三界のバランスを取るって事は聞いてるんだけどね。でも、彼がそれを了承したとしても俺たちは……」
「リョウくん! それ、どこから聞いたの!?」
良二の言葉にライラが激しく反応した。次いでメーテオール、
「ホーラですか? いえ、あの子がそんな事を漏らすはずは! オクロ? パウウ?」
と、みごとな白い肌が赤らむほど、文字通り血相を変えて声を上げる。
――ビンゴかよ!
正直、それが頭に浮かんだ時、有り得そうな話だと良二は思った。
だがそれは全くのカン、いや、カンとも言えないくらいの思い付きであり、根拠らしい根拠は何もない。
良二は、誠一ならこんな風にカマをかけて何か引き出そうとするんだろうなぁ……と、その程度の軽い気持ちで口にしただけだった。
どちらかと言えばラノベでありがちなおハナシで、どうせ滑るだろうから、それからどう誤魔化すか? を同時に考えてたくらいなのに……当たっちまった?
機密事項が漏洩した? 見抜かれた? アデス三界を巻き込むこの大計画。天界と魔界の象徴たる両人としては、行政に綻びが有ったとしたらば見逃すわけには当然行かず、ライラとメルはそれはもう焦った事だろう。
しかし、一番焦ったのは当たると思わず、精々笑い話で終わるかなと考えていた当の良二本人であったのだが。
焦りで顔が引きつってくる。
その表情を見たライラはつい最近、誠一にやられた黒歴史が脳裏をよぎった。
「リョウくん……まさか、あなた……」
ライラの良二を見る眼がどんどん険しくなる。
「あ、いや、その……」
だ、騙すとかペテンにかけるとか引っ掛けるとか、そんなつもりはなかったです!
ただ、ホントに思いついただけで! 深い意味は無くて!
良二はそんな眼をしてライラを見ていた。しかしライラにそれが通じていたかと言うと……甚だ怪しい。
「リョウ~く~ん? 以前、似たようなこと隊長さんにやられて……あたし、泣きそうになったよね~」
「うああ、そ、その、そんなつもりは……」
「まさか、リョウくんにもそんな目にあわされるなんてね~!」
ライラは良二の胸ぐらを掴み上げた。
「ひ!」
全く抵抗する術を持たない良二。つか、町娘然としていたライラにこれほどのパワーが? さすが大魔王さま、と感心……とか言うてる場合ではない!
ライラは引き続き良二を締め上げつつ、今度は左手を伸ばし、誠一の胸ぐらも引っ掴んだ。
「ふぐ! ちょ、俺も? 今更!?」
「チキュウの男は揃いも揃って~。引っ掛けられた、あたしの気持ちを何だと思って~!」
胸ぐらを掴むライラの手に更に力が込められていく。
「ライラ! 落ち着いて! ホントに俺、黒さんと違って騙すつもりは!」
「おい! そこで俺に振るのか!?」
締めあげられながらも、反射的に抗議する誠一。しかし、そんなのは火に油。
「リョウくんのぉ~~~~~、バカ━━━━!」
良二と誠一の頭と頭は、怒れるライラ渾身の力で以って、ど派手に激突させられた。
ゴオォォーンと除夜の鐘並みの音を響かせながら、良二と誠一は頭に焼けつくような痛みを味わいつつ、まるで映画のスローモーション再生さながらに崩れていった。
良二は薄れゆく意識の中で、生まれて初めて目から星が出るってぇのを体験していた。
デカいたんこぶを作って伸びた誠一はシーナの膝枕で寝ころび、メアがマッサージを施していた。
だがメアにもシーナの眼にも誠一に対する哀れみは無く、むしろ当然の結果だと言わんばかりの呆れ顔ではあった。介抱してくれながらも、ジト目で見つめる二人の視線が痛い。
一方の良二はと言うと、ライラにひたすら謝り続けていた。
ごめんなさい、ごめんなさいと、もうひたすらに、ただひたすらに謝った。
「もっと謝って! あと百回謝って!」
憤懣やるせない、を地で行ってるライラさんであった。惚れた男に嵌められたりされりゃ、さもありなん。
見ている容子もカリンも良二を庇う気は起らなかった。
回復魔法でのたんこぶの治療もしてやらなかった。
「参りましたね。クロダさんに関しては兼ねがねいろいろとホーラから聞いてはいましたが、キジマさんまでもが……」
メーテオールは肩を落とし、観念したような呆れたような語調で零した。
「あの、彼女が俺の事なんと言ってたのか詳しく」
脊髄反射で突っ込むも、メアに「聞かなきゃ判らんか?」とばかりに額をペチーンと叩かれて黙る誠一。
「メル……」
「ライラ、少なくとも私たちが知っていることはお話しましょう」




