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猊下とティータイム

「ねえ、ちょっと?」

 カリンが割って入ってきた。

「ここでこのまま立ち話もいいけどさ。出来ればどこかで休みながらにしない? 私たちはともかく、リョウジや少佐は随分疲れてるしさ」

 カリンの提案に真っ先に同意したのはメーテオールだった。

「そうですね。村で何処か、お部屋を貸していただきましょう。このお茶、すぐに処理して皆さまに召し上がっていただきますわ」

 まだ摘んだばかりなのにそんな短時間で……と、良二は思ったが、このお方は大神帝猊下である。その辺りは恐らく神通力で?

「じゃあ、良。猊下の御供して村へ行ってくれ。俺は魔獣に生き残りがいないか確かめてくるから」

 誠一はそういうと、現場に戻ろうとした。だがすぐに足がふらつきバランスを失う。

 容子らほどでは無いが誠一の魔力も、かなり損耗しているのは一目でわかる。

「主様、ご無理はなさらずに。検死は私と先輩で……」

 シーナとメアが様子を見に駆けつけていた。魔獣の動きが止まったのを見てか、村の自警団も一緒に来ていた。

「シーナはクロさんについてろ。魔獣の処理はあたしと村の人でやるから」

 メアも誠一を気遣った。

「黒さん、メア達に甘えなよ。それに……」

 良二が魔獣の様子やメーテオールを見ながら言う。

「状況を分析しないと……ね?」

「……だな」

 良二はシーナと一緒に、誠一を抱えて起こすと、みんなで村へ歩き出した。


 日も暮れ、恐らくはこの村始まって以来の騒動は幕を閉じた。

 メアの報告によると魔獣に生き残りは無く、全て死んでいたとの事。逃亡した個体もいるかも? と考えられたが、足跡を見る限りその可能性も薄そうだ。

 魔獣の遺骸の数は250ほど。その内の半分がメーテオールによる衝撃波の類だろうか、魔翔波なる技によって、と言う事になる。

 日が暮れて辺りが暗くなってきており、魔石取りは翌朝からと言う事で、今夜は自警団が交代で不寝番に当たり、異常が起こらないか監視するそうだ。

 ナル村は常設の宿屋が無いところなので、良二たちは一件の空き家を借り、そこで泊まっていた。

 夕食も終わり、今はメーテオール手ずからのお茶を頂いている最中だった。夕方摘んでいた新茶である。美月と容子も魔力切れで休養していたが、少し復調してきたので共に相伴していた。

 お茶に詳しくはない良二でも、摘んでからお茶として入れられる様になるまで様々な工程があるくらいは想像できたし、彼女が言うほどそう簡単に飲めるとは思ってはいなかった。

 だが、猊下は自分の手の中に作った空間内で萎凋(いちょう)やら揉捻(じゅうねん)やら醗酵やら乾燥やら、その中ですべてをこなしていき、あっという間に茶葉を作り上げてしまった。

 続いて、お湯の温度や、茶葉が開くまでの時間とか、何故だかこちらは神通力を使わず、「これが肝なんですよ~」とか「ここでもうひと手間!」などと楽しそうに、ホント楽しそうに仰いながら、いろいろ拘りつつ茶を入れて、皆に振る舞った。

 良二たちは畏まりながらも、お茶から立ち上る、得も言われぬ(みやび)な香りに誘われるかのように口をつけた。

「これは……お茶? なのかしら」

 一口飲んだ容子が眼を閉じ、溜め息交じりに感嘆の声を出す。

「おいしい……頭の天辺まで味と香りが突き抜けて行くみたい」

 美月も同様に感動している様子。

 もちろん良二も同じく、かつてない味わいの茶に、心が揺さぶられていた。

「ね? メルはお茶にうるさいって言ったでしょ?」

 あれは……そうだ、初遠征から帰った時の、ライラが不法侵入してきたあの時だ。

 とは言え、それが天界の大神帝サマだとは露ほども思わなかったワケで! 

「そりゃまあ、ライラは大魔王陛下。魔界のトップだし、天界の頂点であらせられる猊下と交友があっても可笑しくないけど……」

「だから~、公式な場じゃ無いんだから、あたしにしろメルにしろ畏まることないんだってば~」

 そうは言っても、庶民から見れば文字通り天上人でございますし。

「ホーラさまがいたら血圧上がりまくってぶっ倒れるんじゃねぇか?」

 誠一が苦笑しながら言う。

「あの子はホントにああいう性格ですから。でも最近、かなり当たりが柔らかくなったと専らの噂ですけど、あなた……クロダさん? クロダさんとお付き合いが始まってからだそうで。ホント有り難く思っておりますわ」

「いえ、こちらこそ何かにつけ便宜を図っていただいて、感謝しております」

「ふふ、人間界に赴いたおり、少しくらいの息抜きは、と言っておいたのですが……いいご縁が出来て幸いですわ。それ以前にも驚いたことはありましたが」

「どのような事に驚かれましたかな?」

「ライラが殿方を見染められたと聞いた時はホント、驚きましたわよ?」

 と言いながら猊下は良二をチラリと見た。

「何か不思議な魅力のある殿方ですね。彼女が引かれたのがなんとなくわかります」

「え? お、俺に?」

 当然と言えば当然だが、良二自身は自分の魅力など自覚できてはいない。まあ致し方ない話ではあるけれど。

 大神帝猊下の言われる魅力……アデス特有の価値観、男性観であろうか?

「お、お褒め頂いて恐縮ですが、自分ではそんな大層な男とは思ってなくて……」

「そうは仰られても、ライラの心を射止めた上、既に二号さん、三号さんもいらっしゃるじゃありませんか? ご謙遜なさることは……」

「ちょっと! 誰が二号よ、誰が!」

 猊下の言葉にカリンが激しく反応した。続いて容子も。

「待ちなさいよカリン! 何であたしが三号確定なのよ!」

 大神帝様も下世話な言葉をご存じであるモノだ。

「まあ落ち着きなさいよ~、二号さん、三号さん~?」

 調子こいたライラが容子とカリンを面白がって挑発する。火事でも起こしかねないくらいの火花を散らす三人。

 疲れてんだから勘弁してくれよ~、良二はまた、ため息をつきたくなった。

「でも、大魔王陛下に続いて、今度は大神帝様とご対面とか……」

 そう美月がボヤき混じりに言うのも止むを得まい。ライラが大魔王であることを知ってから、まだ一カ月ちょいしかたっていないのだ。大きなイベントが続きすぎ。


「しかし今回もあれこれ大変な一日だったな~。まさか鳥魔獣で終わらなかったとはね」

 良二が一日を振り返って言った。

 そう、本来なら午前中のあの捕物で今回の仕事は終わるはずだった。

 その討伐成功に村も歓喜してあの宴になったわけで。日頃から一角兎や猿魔獣の驚異があったのならあそこまで手放しで喜んではいまい。

「村があの鳥魔獣の餌場……縄張りで、他のザコ魔獣が近寄れなかったと言うなら、倒した途端に他がしゃしゃり出てくるってのはわかるんだが……数が多すぎるし」

 村から聞いていた話では、鳥魔獣が席巻している間は他の魔獣は鳴りを潜めていたという。

 鳥魔獣が出て来る前は、確かに兎や猿は出ていたが、これほど大量に襲ってくる事は無かったとのこと。

「それに黒さんが言ってた統率と言うか、指揮系統みたいなものも感じた……て言うか絶対あるよねアレ。伏兵戦術なんて最低でもそれを知る指揮官が必要だし」

「少佐も見たわよね? あの巨大オーク、こん棒を持ってたわ。武器を扱えるなんて知能がある証拠よ」

 道具を持つ、使うというのは野性動物でも一部存在する。

 しかし武器として扱うと言うのは……せいぜいが威嚇でモノを投げるくらいか?

 少なくとも、それらより知能があると言う見方は得心が行く。

「こうなると、あの鳥魔獣が俺たちを誘うおとりだったのかも? とかそんな発想も出来てしまうな。餌場の取り合いにしてはその後の魔獣の数が多すぎる。天秤が吊り合わんどころじゃない」

「それはいくらなんでも考え過ぎじゃないかな黒さん。それだとオークより上の存在がいるって事だし、それも俺たちをピンポイントで邪魔もの扱いするような連中がさ……」

 良二に言われて誠一は頭を掻いた。

「そういやそうだ……ちょっと過敏に考え過ぎてるかな。数からして村を襲うにしても多すぎじゃ無いかと思っちまってなぁ。いったい今まで、どこに潜んでいたんだか」

「全部で250くらい居たっすからね。思えば良く、こうして無事でいられたっすよね」

「結局、メーテオール猊下に助けて頂いたようなものですね」

 お礼を込めたシーナの言葉に便乗の如く誠一が続く。

「それにしても、あの時の波動のようなもの? 後ろにいた私も心臓が締め付けられそうな感じを受けました。あれは一体?」

「はしたないところをお見せいたしました。本当は、あの様なことを他の世界でするのはよろしく無かったのですが……」

 はしたない? ……ラーと言い、猊下と言い、いわゆる攻撃技を行使すると言うのは彼女らにとっては、はしたない行為なのだろうか?

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