助っ人
「美月、発砲停止! 奴らが動いたらまず俺がでかいプラズマぶっ放す! そのあとは各個に仕掛けろ。だが深追いはするな。お互いサポートできる距離を維持しろ!」
了解! 全員が返答し、美月が射撃をやめた。
両陣営はしばし睨み合った。
猿一頭に兎数羽……やはり統率が取れているのか? かねてからの疑問が誠一の脳裏を過ぎる。
と、その時、
グワアァォォォ!
「ん!」
「黒さん、この声!」
響いた声を聞いた良二らは眉を歪めた。猿でもなく、兎でもない咆哮が辺り一面に響き渡ったのだ。姿を見せない、別の個体がいる!
その声を合図として、それぞれの猿がキキャー! などと叫び、同時に兎らも、こちらに向かって一斉に駆けだした。
「く!」
正体不明の個体の懸念もあるが、今は目前の魔獣への対応が肝心。何としても村への侵入を阻まねば!
「ショットプラズマ!」
詠唱とともに誠一がまず、特大の一発を喰らわせた。
パパパババーン!
雷のショットガンとでも言うべきか? 誠一の掌から飛び出した無数の雷球や放電プラズマが広範囲に散らばり更にクラスター爆弾宜しく拡散。細かい雷球が魔獣を次々と感電させ、神経や筋肉をその高圧電流によって焼きつかせ、動きを鈍らせ、硬直させていく。
そこを狙い良二は水剣、誠一は光剣で、兎を飛び越え、まずは猿を中心に斬りかかった。
雷撃の効果もあり、猿は図体の割にそれほど大した反応もなく、必殺の間合いへの侵入を簡単に許し、二人の剣撃によって、あっという間に数体の首無し猿の死体が出来上がった。良二らにして見れば些か拍子抜けですらあった。
その隙を突き、兎どもが村へ突撃し襲うのでは? 良二はそれを警戒していた。
だが兎勢は踏み込んだ良二、誠一を抜けたにもかかわらず、反転して襲い掛かってきた。
それは却って好都合、引き付けて村から遠ざけるのみ。良二たちは前線を押し上げ、村から距離を取った。
良二は纏わりつく兎を水剣で横に薙ぎ払いながら兎の牙の間合いから逃れ、自らの角を突き刺すべく飛びかかってきた残りを水シールドで弾く。
シュバー!
上下左右、多数の高圧の水膜が水剣ほどでは無いにしろ超高速で渦巻き、形を固定された水の壁の如く兎たちの突撃を阻んでいく。
ヒュゴォー!
同様に誠一も、容子並みの風魔法で突風を起こして兎どもを吹き飛ばして態勢を崩し、怯んだところを光剣で薙ぎ払った。周辺に、二つ三つに切断された兎の遺骸が転がっていく。
美月はメアの援護をしつつ、良二らが一群とやりあってる間に襲いかかろうとする他の群も掃射し牽制した。メアを中心に支援、という指示ではあったが些か敵の数が多く、誠一、良二らへの支援攻撃も行わなければならなかった。
最初の一群をほぼ無力化した良二、誠一は、次に美月が抑えてくれていた群を目指した。
良二がその群と対峙すると、更に後方の一群が右方向から回り込んでくる。
同時にやりあうには数的に不利。兎の攻撃力は大したことはないが、少しずつ齧られて体力が削られ続けるのはゾッとしない。
そこを読んでくれたか、容子が後方から竜巻を起こし、右翼の群を上空へ巻き上げた。
10数mほどの高さへ飛ばされたその猿や兎らは、そのまま次々地面に叩きつけられた。無力化とまでいかないが、戦闘前進速度を著しく下げてくれた。
良二は右手で水剣を操り、適時、左の指からウォータージェットを繰り出し二刀流よろしく兎らを薙ぎ払っていく。
メアと美月のコンビも既に2群を屠り、良二、誠一も3群ずつ片付けた。
ほぼ7~8割は片付けた筈。良二たちは残りに向かって距離を詰めていった。
「!」
そこで誠一は気配を感じた。
「主様! 左右両翼です!」
シーナも既に感じていた。
「全員止まれ! 良! 右へ! メアと美月は中央!」
言われて良二はすぐさま右へ。索敵が苦手な良二でも、確かに何か気配を感じる。
「シーナ、容子も前へ。美月らと合流、敵を迎撃しろ!」
誠一の指示が続く。
「主様、それでは村への守りが!」
「奴らは村へは行かん、連中の目的は俺たち……!」
「隊長、魔獣が!」
誠一が言い終わる前に容子が叫んだ。
見ると左右の茂みから、両側ともに5群ほどの魔獣の群れが姿を現したのだ。
……伏兵、だと!?
良二は驚いた。誠一が以前から度々、野獣が統率されているのでは? との疑問を呈していたが、伏兵戦術などと作戦行動を取るまでだったとは予想していなかった。
「中央、無理はするな、足止めに徹しろ!」
誠一はそう指示すると左勢力にショットプラズマを喰らわせ、左端から魔素ブースト併用で斬り払い始めた。
――地の利が無い……
段差が多く、雑草の生い茂るナルではテクニアの時と違って一網打尽が狙えない。
良二も簡易二刀流で薙ぎ払い始めるが、連中は切られた同族を踏みつけ、足場にして複数の方向から飛びかかってくる。
総合的な戦闘力は強くはないが、その俊敏さには一目置かれる一角兎だけに、少数ではあるが良二に取り付く個体も出てきた。間合いが近いので助走+ジャンプでの、角による刺殺を狙った攻撃は少ないが、一カ所、二か所、三か所……、脹脛や大腿部に直接噛みつかれた。
「うが!」
激痛。噛まれると言うより、肉を千切られる痛みと衝撃。
「くそぉー!」
良二は喰い付いた兎の頭をウォータージェットで切り裂いた。取り付いた兎は鼻から上を失い絶命したが、顎は良二に喰い付いたままだ。その顎を弾き飛ばすと、喰われたところからは思ったより多く、血が流れ出てきた。最初は温かく、やがて外気に触れて冷たくなっていく。
良二はゾッとした。殺意を持った相手からの……と言うより自分を捕食しようとする相手から受けた傷。ある程度勝手のわかる人間からの攻撃とはまるで違う恐怖と激痛。
その痛みに思わずよろける良二、だがそれでも懸命に水剣を振るう。
喰い付いた歯を抜く余裕も無く、ただ振り続ける。魔力を剣に集中するため、身体強化魔法を押さえたのが裏目に出てしまった。
倒した魔獣はかれこれ総数100は超えるだろう。しかし終わりが見えない。何より……
――ボス魔獣の姿が見えない。
あの最初に聞こえた、猿でも兎でも無い咆哮……あの咆哮を合図にしていたことからも、それが指揮官・ボスとして控えている可能性は極めて高い。
遊撃隊の隊員もみな疲弊し始めている。このままの態勢では相手を削るどころか逆に削られてしまうのは明白だ。
「後退だ! 茶畑まで後退! 魔獣の戦力を分散させる! 中央に合流して茶畑まで走れ! 殿は俺がやる!」
良二の負傷具合を見て、誠一が後退命令を出した。中央の容子と美月は突風と火炎で、良二も水壁シールドで魔獣を怯ませると同時に後退を始めた。
と、そのスキを突き、良二たちの死角から助走をつけて猛スピードで突っ込んでくる一匹の一角兎がいた。
その個体はまるで己が俊敏さを誇るように、良二の後ろを狙って猛然と飛び掛かって来た。
ドン!
「がぁ!」
兎の角に、自分の脚を貫かれた良二は押し出されるような悲鳴を上げた。
一角兎のシンボルとも言えるこの必殺の角。これが良二の左大腿部後ろに見事に突き刺さってしまった。
その角は骨まで届くほど刺し込まれていた。良二はその衝撃に耐えきれず転倒してしまう。更に一角兎は自身の身体をねじって良二の傷口を抉り始めた。
「うあ! うああああ!」
「良!」
気付いた誠一が刺さったままの一角兎の首を光剣で薙ぎ払った。
「良くん!」
即座に容子が駆けつた。誠一が角を引っこ抜き、容子はすかさず全力で回復魔法をかける。抉られる激痛こそ収まったものの、しかし傷は深く、治癒するには時間がかかり過ぎてしまいそうだ。容子はとりあえず止血に注力した。
良二は誠一に引き起こされ、容子の肩を貸してもらい、何とか立ち上がった。
「後退するんだ! みんな、良と容子を援護しろ!」
そう言うと誠一は良二らの壁になり、群れてくる魔獣に向かい合った。
「がんばって、良くん!」
容子は後退しながら魔法による治療も施すが、戦闘が思いのほか長引いたせいか魔力の出力が落ちてきている。
誠一もショットプラズマのキレが悪くなった。これほど連発するのは初めてである。
魔力切れの兆候か?
「美月、発砲を控えろ! 魔力を温存するんだ、お前の火力が命綱になる!」
「う、うん!」
言われてメアが美月の護衛に回り先頭を走った。シーナは容子と一緒に、良二を抱えながら兎たちを剣で払う。
負傷している良二を二人が支えて走るが、速度は当然ながら落ちてしまう。
「あ!」
良二はケガの痛みにバランスを崩し転びそうになった。容子とシーナが懸命に支えようとしてくれるが流石に彼女らの力では良二の身体は支えきれず、三人とも転倒してしまう。
気が付けば兎に喰い付かれたところも6~7箇所か、それ以上有った。痛みと出血のせいか頭もしっかりしないし、上手く立ち上がれない。ズボンは染み出した血で汚れ、気色悪いほどのまだら模様を作っていく。
「しっかりしろ! もう少しだ!」
三人の傍に立ち、誠一が突撃してくる兎の角から良二らを守る。良二も懸命に立とうとするが、喰われた脚の痛みはかなりのダメージだった。立とうと力むたびに傷口からの激痛が下半身、いや身体全体に拡散するかの如く走り廻り、立つ気力を削いでいく。
「リョウジさま!」
「い、痛ぇ……」
「お願い、立ってェ!!」
容子の悲鳴にも似た声が良二の耳に響く。魔力が弱まったせいで良二の傷が思うほど回復してくれないもどかしさもあり、容子の声をより悲痛にさせた。
迫る魔獣、誠一は最後の魔力を振り絞ってショットプラズマで時間稼ぎするしか無くなって来た。
だが、やはり良二らを残していくのは……同じイチかバチかなら、魔獣を自分に引き付けて他へ誘導させるか……
誠一が意を決して光剣を握り直した時に、彼は突然、自分の前に感じる異質な現象……いきなり目の前に何か、何かが、出現する波動を感知した。ホーラやラーが使う、転移魔法のあの波動と同じ感覚だ。
――転移? 誰だ?……
察知から間髪入れず、
「助太刀御免!」
最近覚えた甲高い声とともに、大鎌を持った金髪ツインテールの少女が波動の出現地から飛び出して来た。
「うおおりゃあああぁぁぁー!」
ドガガッ!
少女のデスサイズが迫ってくる一角兎を薙ぎ払った。一閃で4~5羽はふっ飛ばす、鋭く、凄まじい斬り筋だ。
「カリン殿下!」
誠一が少女の名を叫ぶ。
「リョウジ! 下がって! ここは私が!」
カリンはそう応えると、デスサイズの刃を縦に回転させ、薙刀スタイルの型に切り替えてデスサイズ時より更に多くの兎を薙ぎ払った。
アマテラの鍛冶職人、刀鍛冶の仕事は抜群であった。
カリンの得物は良二らの水剣、光剣並みの凄まじい切れ味を見せる。
その刃に触れた兎は首が無くなるか身体が半身になるか、手足が胴体から泣き別れるか腸をブチ撒けるか。カリンは群がる兎どもを次々と原形を留めない肉塊に変えていった。
事程左様にそれほどの業物を見事に使いこなすカリン、この窮地に実に頼もしい助っ人であった。
誠一も魔力を光剣一本に絞り、カリンと並んで魔獣を食い止めるべく前に踏み込んだ。
「リョウくん! しっかり!」
「……ラ、ライラ……」
良二は激痛を堪えて声のした方を見た。
ライラだ。カリンを連れて転移してきた?
「ライラ、来てくれたのか……」
痛みと出血で目の焦点が合わない。しかしこの紅い髪はまさしくライラだ。
「ごめんリョウくん、あたしはあまり人間界に干渉できない。でも回復くらいなら……」
そう言うとライラはリョウジに回復魔法を施した。さすが大魔王陛下のヒーリングだ、あっという間に傷が癒える。
だが回復したての違和感はそのままだ。出血も多いし、無理が通る状態ではない。
「ありがとう、ライラ……よく……」
「それは後! 急ぐよ!」
ライラに言われ弱弱しい僅かな笑みを浮かべた後、良二はまだおぼつかぬ脚に鞭打って走り出し、茶畑に入り込んだ。




