新手襲来
「まだ……踏ん切り、つかない?」
容子がこそっと聞いてきた。
誘っているのかな~とか期待しつつ、実際に踏ん切りがついてない、と言うよりつけられないでいる良二は、
「ごめん、なんかその、順位と言うか……優劣を決めちゃうみたいで、俺は……まだやっぱり……」
と、率直に心情を吐露した。
「みんな平等に好き?」
「うん、そう言うわけにはいかないって分かってるつもりだけど……自分自身、逃げだなって思うんだけどな」
先に感じた様に良二は魔導団として、アデスに住むものとして、足が地についてきたのは実感できる。
だが、この短い間に矢継ぎ早に彼女が3人に。彼女持ちの男としては全く足が地についていない。
そりゃ、つい数か月前まで年齢=彼女いない歴だったのが、今や3人もしがみ付いているのだから手に余る、余らんと言うレベルではないのは当然ではある。
ライラとだけだったら今頃はフツーにイチャラブカップルを謳歌してたろうが、運命と言うものは中々良二くんには辛く当たっているようで……贅沢な話だがな。
しかしまあ、例えばここで容子相手に祝卒業、と言う気になったとして重要な事を見逃すわけにはいかない。
避妊だ。
例えばカリンは王族である。
本人がいいとか悪いとかではなく、生まれる子は王族の血を引くことになり、立場上カリンや良二の思惑だけにとどまらない。
ライラも、自分は子を産めるかどうかも分からない、とは言ってるが、もし生まれたら魔界の最高権力者のお世継ぎである。
容子にはそう言った問題はないが、仮に子を授かって7カ月ちょっと後に日本へ帰ることになったら……
こちらではいっぱしの国家公務員? であってもあちらじゃまだ学生、しかも容子は高校生。ある日、普通に学校へ行ったと思ったらその日の夕方、自分の娘が孫の入った大きな腹を抱えて、その隣でどこの馬の骨ともしれん男(良二)が「娘さんをください」などとほざいたら……
野次馬としては見てみたい気もするが、当人たちは警察沙汰か刃傷沙汰か、救急車か、霊柩車か、何が起こるか見当もつかん。
故に、いくら性欲が吹きあがろうが疼きだそうが、避妊を疎かにする事は出来ない。
アデスにおいて最も普及している避妊は薬によるものだ。
魔法薬の一種でローションのような薬を生殖器に塗布することにより、それがシールドとなって精子の子宮内への侵入を阻み、同時に無力化する効果もあるそうな。
以前のアデスバイ◯グラではないが、そちらの技術は地球より上かもしれない。
良二もいざという時のために所持はしているが、今回は仕事なわけだし、持ってきてはいなかった。
「あと7カ月半、てところかな?」
容子がふと独り言のように話しかけてきた。
「その日までは、まだ半分も経ってないと言う訳か。過ぎてしまった4カ月半……短かったような、長かったような」
「ねえ良くん……」
容子が例の上目遣いで聞いてくる。
「何?」
「良くんはその日が来たら……帰れるの?」
「……」
帰るの? ではなく、帰れるの? と来たか。
実際、容子でなくともそれは思うであろう。ライラ、カリン……アデスで自分を慕ってくれる人、求め求められる人がいつの間にか増えている。
「いろいろ……根を張っちゃったなぁ。縁もたくさん……」
「あたしは、あなたは帰らないって……思うようになってる……」
「俺に身内がいないから?」
「それもあるし、何よりライラさんやカリンね」
「今は……考えたくないな」
重い問題だ。全てが丸く収まる解などない。
家族は既にいないとは言え、世話になった伯父の家族への恩義は有るし、友人知人とてそうあっさりと切れるものでもない。
「あなたが残るなら、あたしも残るわよ」
「家族がいるのにか?」
「悲しむのはどちらも同じ。どちらがいいかじゃなく、どちらを選ぶかって事でしょ?」
「黒さんの考え方に当てられたか?」
「迷惑だと、思わないで……」
重い、本当に重い。しかし……
「なあ、俺がお前の事をそんなふうに思うと?」
「だったらそっちに、ごめんなさい、よ」
そう言いつつ、容子は良二の胸に顔を埋めてきた。
良二はその想いに応えて容子を強く抱きしめた。
(良! 容子! 今どこだ!?)
誠一からの緊急念話!
「こちら良二、容子と西の堤防にいる!」
(よし、すぐにパンツを履いて武装の上、北の茶畑の外れに集合しろ。大至急!)
「り、了解!」
「何かしら? 随分慌ててる様な?」
「ああ、とにかく急ごう! 念のため酔い覚ましかけて!」
そう言われ容子は回復魔法で二人の体のアルコールを飛ばした。終わると同時、すぐに駆け出す。
装備は、水剣の柄は常に携帯してるし、容子も錫杖を持ってきていたので村中を通らず北へ直行することにした。
走る堤から村の様子を眺めると、さっきの祝杯ムードは消え、女子供を中心に屋内へ入り始めていた。
男たちは剣や槍は勿論、斧でも鍬でも武器になるものを銘々が持ち、四方に設けられている村の入り口辺りそれぞれに集結しているようだった。
襲撃か? 良二はそう直感したが、鳥魔獣を倒した後はメアとシーナが周辺を索敵し、魔獣の気配はしなかった筈だ。とすると盗賊の可能性も?
パパパン! パパパン!
美月の火球小銃が単連射している音が響いた。
既に始まっている。良二は足を速めた。
誠一たちを視認できるところまで近づくと、一角兎の群れと猿のような魔獣が飛び交いながら接近して来ていたのが分かった。盗賊ではない、魔獣の襲撃だった。
「黒さん! 遅れてすまない!」
到着した良二が誠一に詫びる。
「おう! 大丈夫だ、ギリ間に合った!」
戦列に合流した良二。柄を抜き、すぐさま迎撃態勢を展開する。
良二は敵対してくる魔獣の群れを見た。
さっき目に入ったように、大型の猿の魔獣に一角兎の群れが7~8匹纏わりつくように固まっている。前に出てきた群れを美月が火球小銃で掃射し、前進を阻んでいた。
この分隊とも言える規模の群れの数は、ざっと見て8~10群ほどいそうだ。総数は三桁を越しそう。
流石にこれほどの数だと、遊撃隊だけでは荷が重いかもしれない。
「火災旋風、仕掛けようか?」
美月が意見具申。テクニアの掃討戦時に使った容子との融合技だ。広範囲に散らばる多数の敵の掃討に適した技である。しかし誠一。
「それは危険だ。テクニアの時のような荒れ地ならともかく、ここは樹木が多すぎる。山火事に繋がる可能性もあるし、作物に延焼したら村まで全焼するかもだ」
「良くん、あなたの放水で延焼は食い止められない?」
「範囲が広すぎるな。山火事ともなれば魔力切れまで放水しても……」
「各個撃破しかないか。俺たちは大物中心に討伐しよう。兎程度なら自警団でも」
大綱は概ね決まった。それに従い、誠一が後方の村の入り口辺りに待機している自警団に後詰めを要請した。
「サルはこちらでやります! 撃ち漏らしの兎をお願いします!」
それに応え自警団の、おー! と言う声が返って来た。
「さて、言った以上、サルだけはこちらで仕留めないとな!」
とは言ってもこの猿、大きさは良二や誠一より少し小さいくらい。それなりに警戒せねばなるまい。
良二、誠一、メアが前に出る。
その三人を支援するため美月が控え、後ろに後方支援と回復を担うために容子が待機、彼女の直衛として長剣を構えたシーナが張り付く。
「一人1グループ……行けるか?」
誠一が良二、メアに聞く。
「俺は行けると思うけど、メアは格闘系だし、どうかな?」
「サルは何とかするっすけど、兎は逃すかも……」
二人が答える。
「よし、美月! メアを重点的に支援!」
「OK!」
フォーメーションは大体決まった。




