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川の堤で

 鳥魔獣を倒した良二たち三人は、魔石取り出しの作業にかかっていた。

 この作業は元冒険者のメアの指導の下、良二が行ってみた。

「魔獣ごとに魔石の位置はバラバラなのか?」

「まあ大体は肝の位置が目安っすかね。足の先とか頭の中とか、そんな極端なのは無いっすよ」

 誠一に問われたメアが、鳥魔獣の死体を指さしながら説明してくれた。

「その辺りっすよ」

 メアの指示で良二が切り捌いていく。

 やがてナイフに手応えがあり、周りを削いでから手を突っ込み、魔石を掴んで引き出した。角は取れているものの、真ん丸では無い歪な形で野球ボールより若干小さいくらいのサイズ。テクニアで倒した狂頭熊の物と同じくらいの大きさだろうか?

「以前から思ってたけど、実際に捌くと生臭さがハンパないな」

「生きてるうちから腐ってんじゃないか? って言われる位っすからね。魔素異変の時は、よほど食い物なかったんでしょうねぇ、こんなもんまで食ってたなんて」

「あわよくばと思ってたが、さすがに俺も食う気失せるな。酒につけたり味噌で煮込んでも、この臭みはダメそうだ」

 まだ諦めてなかったのかよ……良二はそう思わざるを得なかった。つか、呆れた。

 まあ、飽くなき探求心に関しては見習うべきかもしれないが……

「しかし切った感じも、魚でも無い、肉でも無い感じで妙な切り応えだな」

「野獣の死体は骨になるまで結構な時間かかるっすけど、魔石を取った魔獣の死体は1週間もかからずボロボロになるからね。肉と言って良いかすら分からないとか」

 魔素ゆえの事象なのか? 聞きながら誠一は疑問に思った。

「魔素か……」

「ん? どうかした、黒さん?」

「いや、ちょっとな……なんで500年前まで人間界には魔素が無かったんだろうなぁって思ってな」

 誠一は一人言のように呟いた。

「何か理由があるのかな?」

 良二も誠一の疑問に付き合ってみる。

「ただ単に、そう言うもの……で片付いてしまう事かもしれんがな」

 良二としても、ふと思う。

 自分らの居た世界は魔法なんてモノは創作物の中でしか有り得ない、ファンタジーな代物だ。だからアデスにおいても人間界が普通で、昔から魔法・神通力があった魔界や天界の方が不思議界と思えたのだが……

 見る目を変えれば、アデスにおいては魔法の無い人間界の方が不可思議なのかも、と。

 むしろ誠一の言う通り、単にそういうもの、こちらの勝手な物差しで異常・正常と計るのも無意味、なのかもしれないが。


(主様!)

 シーナから念話が入った。

「シーナか、索敵は出来たか?」

(はい、洞窟内は大して奥行きもなく、鳥魔獣の他には何もいないようです)

 誠一は念のため、シーナに洞窟内をスキャンさせていた。

 テクニアの例もあるし、従えている他の個体が奥で控えている可能性は否定できなかったからだ。

 シーナは崖肌を出来る限り上まで昇って索敵しており、今は15m位の高さまで届いていた。

「ご苦労様、気を付けて降りてこい」

(わかりました)

 誠一に指示され、降り始めるシーナ。気を付けろ、とは言われたが、これがヒョイヒョイと足場を見つけてはあっという間に麓まで降りてきて――てか飛び降りるに近い――最後の一飛びはクルッと一回転で着地。狐の獣人のせいか、身軽さでは猫族のメアにも引けは取らないらしく見事な身のこなし方だ。剣技等もこの先、鍛え方次第で大きく成長する事も期待出来そうだ。

 魔石も無事取り終え、村に討伐を証明するための鳥魔獣の頭も回収し、地上班もこれで撤収だ。荷物をまとめて、美月らと合流するため集合地点の馬車に向かった。

 歩いて十数分。良二らが馬車にたどり着く頃には、美月らも到着するところであった。

「美月、容子GJ! 見事な狙撃だったぞ」

 早速、誠一が容子らを労った。

「えへへ~、今日の一番手柄だね!」

 得意満面の美月。集まったところで地上班、狙撃班とお互いハイタッチ。

 全員、速やかに馬車に乗り込み、村への帰路に就いた。




 村に到着し、狩り取った鳥魔獣の首を良二が掲げると、それを見た村民からは大歓声が上がった。

 人々は仕事の手を止め、良二らの馬車の周りに集まってきた。

 散々、村の平穏を脅かした魔獣の成れの果てである首を見て、みな涙を流すほど喜び合った。

 あの鳥魔獣が洞窟に住み着き始めて以来、今日まで眠れぬ夜を過ごしてきた村民の喜びもひとしおであったろう。

 家族があの牙の犠牲になった遺族は、仇を取ってくれた良二や美月に抱きつき、言葉にならないほど感激し、お礼の言葉を言い続けた。

 良二たちがまだ昼食前だと知ると、村人たちは午後の仕事が始まったばかりなのにそれをおっ放り出し、宴の準備を始め出した。

 料理ができるまでに酒が振る舞われ、集まった全員が冒険者や軍も成し得なかった功績を称え乾杯。その後は飲む方が多いか、喜びにぶっかけ合う量の方が多いか分からないほど、みな歓喜と興奮の時を過ごした。


 これだよな……


 アデスに召喚され、明日をもしれぬ身の上に怯えていた当初と違い、異世界人ならではの能力を身に着けてそれを磨き、地に足をつけ、魔導団特別遊撃隊として人々のために働く。

 その結果、大勢の人にこれほど喜んでもらえるこの瞬間、良二はもちろん、誠一も、美月も、容子も、この時が最高であった。


 西の山に太陽が沈みだす頃、未だ続く宴の席から抜け出した良二と容子は、小さい川の脇に作られた堤に並んで座り、水の流れを眺めながら酔いを醒ましていた。

 一日の終わりを告げるような、ひんやりとした風が二人の頬を撫でるように吹いてくる。

「あ~、気持ちいい風~」

「酔い醒ましにちょうどいいなぁ」

 良二は思わずゴロンと寝ころぶ。草のクッションも心地いい。

「相変わらず最高だよね、この時……」

 夕陽を眺めながら容子が話し掛ける。

「ああ、村人たちの喜ぶ顔……今回もちゃんと出来たなぁって、こっちも嬉しくなるよ」

 良二の言葉を聞きながら、容子も同じく寝ころんだ。

「それにしても今回の宴会は派手だね」

「そうね、それだけあの魔獣に怯えてたって事かしら? みんな、すっごく浮かれちゃって」

「黒さん、もう作戦中よりヘロヘロだったな。ホント、あの人、酒に弱いなぁ」

「一応回復魔法はかけたけどねぇ。美月も調子に乗って隊長にガバガバ飲ませてるし」

「あとでまた、回復魔法だな」

 と、話しながら笑い合う二人。ふと、笑いが止まり見つめ合う。

 じっと見つめ合い、心なしか口元には笑み。

 やがて良二は体を起こすと容子に顔を近づけ、彼女の頬に手を当て……そのまま唇を静かに重ねる。

 やがて重なった唇の奥で舌が触れ合うと、頬に触れていた手を背中に回し、容子は良二の首に手をまわし力強く抱きしめ合う。

 心地よい口づけが終わると容子は良二の胸に顔をうずめ、良二は容子の額にまた、軽くキスをする。

 まだ陽も明るい事もあり、この先には進むってのは流石に憚るが、二人はそれでも良かった。ただこうやって、お互いの温もりを感じられるだけで。ラーさまじゃあるまいし、お天道様に見られながらおっ始めるつもりはない。

「まだしてませんわ!」と言う声がどこからか聞こえそうな、ないような。

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