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美月と容子

 取り敢えず、ほぼスタンバイ完了の美月と容子。

 誠一からの指令が来るまでは、このまま待機なので二人で駄弁ることにする。

「で、どうだったの?」

「ん? 何が?」

 容子にいきなり問われ、逆に聞き返す美月。

「沢田君との面会!」

「ああ、それ~?」

 ほんのり頬を赤らめて、美月ちゃんデレるの図。

「ようやく会えたね?」

「うん。嬉しかった……」


 例の会談で美月と史郎、二人の面会を前向きに検討すると言ったローゲンセン。あれからいろいろ動いてくれたらしく、美月は、この作戦の直前になって史郎との面会が許可されたのだ。

 当然の事ながら二人っきりとはいかず、女性ではあるが監察部の職員が監視するという状況ではあった。机と椅子が対面で二脚、そこに座ったままで、と言うのも条件の一つである。

 それでも4カ月半ぶりの再会に、美月は涙をとどめることは出来なかった。

 毎日会えていた二人が、突然会う事も、声を聞く事も出来なくなった4カ月半は、当人らには長すぎる日々であったろう。

 いきなり異世界に飛ばされると言う、極めて異常な現象に見舞われた二人。

 最も手を取り合い、傍に居てほしかった相手と引き離された悲しさ、寂しさ、不安は、語る言葉もない。

 そんな美月の涙を史郎は人差し指で優しく拭き取り、手を取り合い、お互いの額をつけ合って出来る限りの温もりを感じ合った。

 久しぶりに見る史郎は軍に鍛えられ、美月の眼にはとても逞しく成長した様に感じていた。

 史郎もまた、美月の表情に力強さを感じていた。そして、お互いの良い方向への変化・成長を喜び合ったのだった。


「あ~、でも、いざ面会したら……ホント言葉出なくなるのね~」

「聞きたい事がいっぱいあったのに~、とか、話ではよく聞くけどねぇ」

「まさか自分が実感する事になるとは思わなかったけど、それでも、会えただけでも嬉しかったよ。今回の面会も、なにも問題点は無かったって言う事で、また次もありそうだし」

「で、どうしたの?」

 容子はちょっと口調を変えて聞いた。

「え? 何が?」

「キスの一つくらいした?」

「ちょ!」

 そっち聞くんかい! と言いたげな表情で美月が戸惑う。

「だ~から言ってるじゃない、監視の人が同室してたって! 出来るわけ……無いじゃない」

 再び頬を赤らめながら否定する美月。

「その人も、ちょっとくらい気を利かせてくれれば良いのにねぇ」

 容子が笑う。

「もう……」


 だが実はその監視員、マジで気の利く人だったのである。面会終了の時間が来て、二人にそれを伝えられた時の事。

 立ち上がり、名残を惜しむように手を握り合う二人。その時、その監視員は二人に背を向け、

「あら? 鍵はどこだったかしら~?」

とか、思いっきりわざとらしく鍵を探す演技してくれたのだ。

 その不自然さにピンと来た二人はすかさず、お互いに身体を寄せ合い、短いながらも熱烈なキスと抱擁を交わしたのだ。

 まあ、せっかく気を利かせて頂いたのに、他言無用でないと彼女に類が及びかねないので……無かった事にしておこうと……


「で、そっちこそどうなのよ?」

「え?」

 今度は美月が聞く。

「良さんとの事! ドサクサ紛れに告ったは良いけどさ~」

「ん、まあ、綱引き状態ってとこかな? とにかく良くん、煮え切らないから」

 あの告白以降、容子も良二の事は、ライラと同じ良くんと呼ぶようになった。カリンは相変わらずリョウジと呼んでいる。

「確かに、いきなり三人は良さんには重荷かな~。みんなの気持ち測りきれずにいるのは仕方ないか。ところでさ?」

「ん?」

「あんた、いつから良さんの事、好きになったの?」

「ん~、やっぱり初陣の時かなあ? 隊長以外てんで素人で、そんなあたふたした中でもあたしたちの盾になってヤクザ三人に立ち塞がってくれたじゃない? あの時に、来ちゃったか、な?」

 容子ちゃん照れ笑い。

「ああ、あそこでねぇ~。あの時はあたし、魔法に失敗しちゃって、そのまま頭抱えて震えてたもんな~」

「あれからみんな成長したよね。良くんも最初は隊長ベッタリだったけど、今は自分の判断で動くことも多いし」

「それで想いもどんどん募ったってぇ?」

「ええ、そうよ」

 美月のからかい気味の疑問を、容子はあっさり認めた。

 メアではないが、自分に正直な方が後悔が無い、今のところはそれで行こうと思っているのだろうか。

「……そんなあっさり言われると、かえって拍子抜けね……と、動いたかな?」

 動きを感じたか、美月が照準眼鏡で確認した。

 美月に倣って容子も遠眼鏡を覗く。だが、鳥魔獣の羽らしき物が洞窟の影から出てはいるが……外まで出てくる気配は無さそうである。

「多分、隊長たちが陽動で動くって言ってたから、連絡来るまではこのままだと思うけど。どちらかと言うと夜行性らしいし、寝てるんじゃない?」

「鳥のくせに夜目が利くとかねぇ」

「鳥の視力が弱いってのは主に鶏の事らしいわよ? 隊長が言ってた」

 二人はとりあえず緊張を解いた。

「もうちょっと出口で寝てりゃ狙えるのになぁ」

 美月は照準眼鏡を見る目の力を抜いて楽にした。


「で、デートもみんなで、が多いんだっけ?」

「抜け駆けできないのよねぇ。二人は国の仕事で引っ張られる時があるから、そう言う時がチャンスね」

「カリンさんも結局、王室や皇帝府からの承認受けちゃったもんねぇ。常任ではないけど、表向きは必要な時に要請を受けて出向、って感じよね。でも実際は同居も同然だし」

「ホントは本国でも持て余されて、体の良い島流しにされたのかもね~?」

 実際、誠一の思惑はフラグよろしく砕かれた。

 どんな手管を使ったかは不明だが、カリンはアーゼナル皇国とアマテラ王国の信任のもと、在エスエリア大使を補佐する特別補佐官の地位を手に入れ、遊撃隊に限って外交官としての職務に影響がない範囲での友好的軍事参画を許されてしまったのである。隊舎内の居住区は余裕が無いのでフィリア邸の客間に居候すると言う、おまけつきだ。

 だが、今回の遠征は公務が重なり、不参加なので容子にとっては確かにチャンス。

 あとはライラが転移でしゃしゃり出てこなけりゃ……だが。

「それはないんじゃない? 黒さんも行く前に、夜戦もありうるって言ってあったし、それくらいは空気読むでしょ」

「だといいけどね~」

 宿所で夜通し待ち伏せ……有り得ん話ではあるまい。

「でも、三人で平等に付き合うってどんな感じなのかしらね~」

「自分でも不思議よ。ライラさんもカリンも嫌いじゃないし、むしろ好き。もしも良くんが落ち込んでたらみんなで励ましたいって思うようになっちゃったし……いつの間にか、あたしもアデスの風潮に当てられちゃったのかなぁ?」

「でもライバルなんだよね?」

「まあね、ホント自分で自分の気持ちが説明できないわ」

「じゃ、目下の競争は……誰が良さんの童貞奪うか、かな?」

 良二の童貞争奪戦勃発!? 露骨に揶揄(からか)われた容子はズルッとこけた。遠眼鏡の角に額をぶつけて眉毛の上が痛い。

「言い方! もうちょっと言葉選びなさいよ!」

 ズレた三脚の位置を直しながら容子がぼやく。ケラケラ笑う美月。

 一応作戦行動中ですぞ?

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