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第三の女

「く、苦労してるのはわかったわ。金銭面は大丈夫よ、実質ゼロで伝票操作しましょ?」

 などと何か引っ掛ることをサラッとおっしゃるカリン殿下。

「王女様? いっぺん御宅の国の会計処理に査察入れた方がよくないですか?」

「そんなのどうでもいいの! とにかく私をここに置いて! リョウジと一緒に居させて!」

 今度は駄々っ子モードである。

 両腕ブンブン、右脚バタバタ。19歳と言う事だが見た目がこれだから可愛いっちゃ可愛いと言える。息子が小さい時に玩具売り場で駄々捏ねていたのを思い出し、ちょっとほだされる誠一。

 意識してかどうかは不明だが、カリンの手法は誠一を降伏に追い込んだ。

「わかりましたよ……」

 誠一は苦虫噛み潰し満面で後頭部をバリバリ掻きながら言った。

 対してカリンの顔はパァっと明るくなる。

「カリン殿下、まずはアーゼナル皇国とアマテラ王室の承認を受けて下せぇ。表向きは軍事視察・交流を目的とした出向と言う形でも取って。もちろん例の件は一切、他言無用にお願いしますわ」

 かなり投げやりである。まあアマテラにしても宗主のアーゼナルにしても王女をそんな海のモノとも山のモノともわからん組織へは預けないだろうという思惑もあるが……

 誠一、それはフラグと言うものだ……

「うん! 大丈夫! そこはまかせて! やったわリョウジ! これでいつでも一緒にいられるわよ!」

 王女殿下、もう決まったも同然の口ぶりである。

 良二は昨日からのゴタゴタもあり、まともに考える思考力がどんどん薄らいでいった。

 言うまでもない事だが、良二はカリンのことは嫌いではない。カリン救出に命を懸けたのも特別遊撃隊の使命感だけではない。

 むしろそれよりも、


 カリンのあの笑顔を守りたい。取り戻したい……


 そんな思いであった。

 あの彼女の笑顔を虐げ、汚し、暴虐の果てに無残な姿にして、心を傷つけたユズ一味には心底怒り、全身の血が逆流したのはそれ故である。

 その思いに些かの疑問も無いのだが……

 実際、今の良二はライラへの想いも含め、やっと自分の気持ちの整理がついて来始めている程度の状態だ。

 熱烈に自分を認めてくれている今のカリンの気持ちは当然嬉しく思うのだが、以前言っていた様に自分はライラで手一杯。

 そんな器用に立ち回れるほど、自分の恋愛スキルは高くは……

 と、そこまで考えを巡らせていた時、そのライラの強~い視線を感じ、彼女の方へ、まるでブラックホールに吸い込まれる小惑星よろしく顔が引っ張られた。

 ライラの顔は笑っていた。腕組みしながら良二に、にっこりとした顔を見せていた。

「リョウく~ん?」

 しかし、こめかみの血管は浮いていた。腕組した手の指が作るシャツのシワも大変に深い。それを視認し、良二の額に一筋の冷や汗が。

「あたし、昨日言ったよね~? 覚えてる~?」

 昨日言ってたこと、オープンカフェで話していた事だとは思うが……

「う、うん、みんなちゃんと覚えてるけど……ど、どれの事か、な~?」

「ほら~、リョウくんに、あたしの他にも好きな女性が出来たら? って、あの話~」 

「あ、あれですか~」

「うん、一緒にリョウくんを支えていきたいッ、と思える娘ならいいよ~、みたいに言ってたこと~」

「そ、そうだったね」

「あの言葉に嘘は無いのよ~? だけどね~……このコだけ! この娘だけは絶対にイヤだからね!」

 豹変! ライラの顔は怒気も凄まじい形相になり、怒鳴りながらカリンをビシッと指差した。

 左腕は腰に、脚は肩幅で踏ん張って右腕を真っ直ぐ伸ばしそれはもう、ビシッと、ビシッと!

 そ、そこか! 蹴り落としてやりたくなる相手……カリンがそれかぁ! ……だろうなぁ。

「ミツキちゃんやヨウコちゃんとかならともかく、こんのジャリガキだけは認めないんだからね!」

 ビシッと!

「そンのセリフ! そっくりそのまま返してあげるわー!」

 はい、こちらもビシッと指差し! それはそれはもうビシッと! 

「命の恩人、ヨウコやミツキならいざ知らず! あんただけは絶対御免被るわよ!」

 さらにビシッと!

 もうビシッとと、ビシッととの、仁義なき戦い!

 言葉を刃に、指を槍に。凄まじい闘気が部屋を包んでいく。

 

 何でここまでこじれるんだよ~、俺そんな大層な男じゃないよぉ~。

 思わぬモテ期に良二は、困惑とか当惑とか混迷とか、自分が今モテている事が信じられないと言うか、認めがたいというか、でも嬉しいというか……誠一じゃないが、部屋戻って寝てしまいたいと思う良二であった。

 が、そこで、


「つまり……あたしならいいのね?」


と、不意に第三の声が上がった。

 良二が、え? と言う顔をしながら、その声の方を向くとそこには……

 容子がいた。

「あたしなら二人とも認めてくれるのね?」

 そう言いながら容子は良二に近づき、彼の腕にギュッとしがみ付いた。

 指を差し合ったまま、思わず目が点になるライラ、カリン。美月とメアはニヤッと笑いを浮かべる。

「え? ええ? よ、容子……さん?」

 何とか言葉を絞り出すも、状況は全く把握できない良二。

 そんな良二を容子は、首を若干傾げ、上目使いで見つめながら言う。

「良さん……」

「う……」

「あたしのこと、キライ?」

 キタ! ライラも使った首傾げ上目使い戦法! カタカナ戦法!

「や、そ、そそん、そんな!」

 やっぱズルい! ライラじゃなくてもこれはズルい! 少なくとも良二にはこれは抗えない!

「そ、そりゃ! キ、キキ、キライなはず、無いじゃないか!」

 うむ、こうしか言えない、言えるはずもない。もちろん、同僚として、同じ召喚された仲間として、と言う立場での好き嫌いも言えただろうが、既に良二にはそれを付け加える余裕なぞ無かったのだ。言い寄られるにしても、あまりにも急激すぎるぞ、と。

 で、

「ん、よかった! あたしも良さんの事、好きよ!」

と、ちゃっかり告白しつつ、容子は良二に笑顔を見せた。

「!」

 良二の心臓は、その笑顔に一瞬で貫かれた。

 ライラの得も言われぬ深く朗らかな笑顔。

 カリンの美しくも柔らかく、そしてあどけない笑顔。

 それらとは違う、容子の純朴でどこか懐かしい、何かとても身近に感じる笑顔。

 それに良二は……やられた。女の子に耐性が無い状態で矢継ぎ早に三つの笑顔に撃ち抜かれた。

 良二の脳内は真っ白になり、思考は一時停止した。

「じゃ、あたしたちこれから夕食の時間だから。後はお二人でケリつけておいてね? モノ壊しちゃダメよ? 後で請求書回すからね? じゃ、良さん! 食堂行こ!」

 そう言うと容子は虚ろな目の良二を引っ張って歩き出した。

 美月やメアの前を通る時、「言っちゃった~」とばかりに、にっぱぁ~と笑顔を見せる容子。

 それに応じて、美月・メアも笑顔でサムズアップ。

 で、そのまま容子と良二は食堂へ。

「ちょ! ちょっと待ってよ! それってアリ? 待ってってば~!」

 ライラが追う。

「ねえ、ちょっとヨウコ! そりゃ確かに言ったけど、ちょっとぉ!」

 カリンも追った。

 静かになった応接室。誠一、美月、シーナ、メアは、一度お互い顔を見合せた後……

 どわぁはっはっは~!

 一斉に大笑いを始めた。


 良二くん、いきなり尻三つ。 

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