カリン頭を下げる
一方、応接室内でテラスでの良二とライラのイチャラブを見せつけられた容子さんの心中は、果たして如何ばかりのものであったろうか……
「いやあ、まさかこんなことになるとは~、思いもよらなかったっすねぇ」
などと、小声ながら能天気に話すメア。しかして言われた容子は~?
「メア~?」
と、地の底から湧き出る様な思春期のJKらしからぬ野太い声とともにメアを睨みつけた。
「何が町娘よ~、何が通商の雑役よ~、魔界の大魔王陛下サマ相手にあたしに何させようってんのよ~」
メアの顔から見る間に血の気が引いていく。
「い、いや、だからあたしもそんなこと、露ほども知らなかったから!」
嗾けた手前、さすがに知らん顔も出来ないメア。
「そ、それに、リョウさんだって、大魔王さまだから付き合い始めたわけじゃないし、ヨウコさんも人間にしちゃメッチャ魔力強いし! うん、十分勝負できるって! うん! うん!」
フーっと大きなため息ついて項垂れる容子。
だが実際、メアの苦し紛れな発破掛けに従うわけでも無いが、別に容子はライラに対して白旗を上げたわけではない。
彼女もまた、良二と同じで、この先どうやって良二に自分を振り向かせるか? その方向でしか考えていないのである。
イジワルな考え方をすれば、日本に帰ればライラは手も足も出せなくなるワケで。
その意味では彼女が良二を諦める道理などない。
さらに燃え上がる容子さんであった。
青春だね~と微笑ましく思いながら良二や洋子を眺める誠一。で、彼女たちには、あえて年寄りがどうこう言う必要もあるまいと思った次第、あとは若者たちの自らの奮起に期待したい、で一区切り。
で、次に控えし問題は、
「さて……図らずも三界の特一級機密事項をご見聞遊ばしましたアマテラ王国第1王女カリン殿下? この先は、それなりにお覚悟していただくことになる訳ですが?」
「そうね、予想外の収穫だったわ」
と誠一の問いにしれっと答えなさるカリン殿下のこれからの処遇である。しかし、即座にこんな返しをするなど、やはり中々に、ええ根性してなさって居られるようで。
そんなカリンに、フィリアが若干語気を強めて説明。
「カリン殿下。事が事です、不躾ながら機密保持のための誓約書等、御署名、若しくは御捺印など頂くことになりますが、ご了承いただきますでしょうか?」
「ええ。特権とは言え、ご無理を言い同席させていただきましたし、フィリア殿下のお立場もありましょうし……殿下の納得いただける内容でご作成願えますかしら? 出来上がり次第、署名させていただきますわ」
カリンがことのほかあっさりと認めると、フィリアは、やれやれと言う表情を見せながらも、では後ほど……と誓約書作成のため、メイスと共に部屋を退出した。
「そういうことで殿下。誓約書にご署名いただいた後、速やかに大使館へご帰還頂くと言う事で……」
と、トラブルの元はさっさとアーゼナルの極東に追い返そうと目論む誠一が言い終わらぬうちに、
「そうはならない、って事くらいは想像なさっておりますわよね、少佐?」
やっぱ一筋縄ではいかんか……誠一ならずとも誰しもそう思いそうな、そんな物言いのカリンである。
彼女は、一目見て相手の出自を言い当てるスキルを持っているとの事だが、それを昇華させればアイラオほどでは無いにしろ、顔色で相手の思惑を読み取るくらいはやりそうだ。
それを裏付けるかの如く、彼女の口元には不敵な笑みが浮かんでいる。
「……何をお望みで?」
聞いたところで面倒な答しか返って来ない事は、火を見るより明らかではあるが立場上、聞かない訳にもいかない。で、カリン殿下は、
「ズバリ言うわ、私をあなたの特別遊撃隊に入れてちょうだい」
と予想通りの面倒な要望を言い放った。
え! 部屋に残っていた容子、美月、メア、シーナ全員が油性マジックで点を書いただけのピンポン玉にそっくりな眼ン玉になった。
「ズバリお断りします」
誠一は即答した。
「志望理由くらい、聞いてくれないのぉ?」
「それ以前の問題です」
当然も当然、カリンの要求は文字通り、話にならない! のである。
沢田史郎の件から世間の耳目をひきつける目的もあるとは言え、特別遊撃隊は表向き準秘密部隊である。
しかもその主力メンバーは異世界人であり、例の三界の計画の当事者、関係者のみ。
カリンがただの武人、民間人であっても入隊させるべきではなく、いわんや王族の、しかもお姫様など、考えるまでもない。
「無理は百も承知よ! その上でお願いしてるの!」
「仮にこちらが承知しても、アマテラ王室の認可が下りるはずもありますまい!」
「それはこちらで何とかするわ。まずはあなたの承認が欲しいの!」
「殿下が要求している事がどんなに無謀で道理に沿わない事か、殿下ならお判りでしょう!」
「だから!」
ドンッ!
「こうして頭を下げて頼んでるんでしょ!」
カリンの言葉と同時に、誠一の机のど真ん中にデカい刃物が突き刺さった。
「アマテラ流の頭の下げ方ってのは、相手の机にデスサイズ突き刺して上から目線で見下ろす事ですかい!」
机に見事に刺さっている、この死神が持ち歩ている様な大鎌、刃の根元部分と、柄の真ん中あたりで三つに折りたたんでコンパクトになるようになっている。
これがカリンの得意武器なのだろうか?
それにしても、実用サイズからは確かにコンパクトに見えるのだが、カリンの小柄な体のどこにこんなもん隠していたんだか……
「わ~ん! 主様のために毎日磨いてた机が~」
シーナちゃん一気に涙目。
「こ、こんなもん、どうやって持ち込んだっすか!? 他国の王族に入場の特権があるのはあくまで社交目的だから認められてるだけっすよ!? そこは非武装が条件だったはずっす!」
メアさん、ご説明ありがとうございます。しかしカリン殿下。
「こんなのうら若き乙女の当然の嗜みでしょぉ? あなたが脇の下に仕込んでいるモノと一緒よ?」
「うぐ!」
メアが隠し持つ暗器を見抜いたのはさすがだが、いや目的も状況も違うっしょ?
「……そんなに良が気に入りましたか?」
件の、机にぶっ刺さったデスサイズを引っこ抜いて折りたたみながら誠一が聞いた。
カリンがかなり拗らせてると判断した誠一は、低速ながら直球を投げるより他なかった。
「隠す気は無いわ、その通りよ。私はリョウジが気に入ったの。彼のこと、もっと知りたいの」
この辺りはカリンも潔い。
とは言え、それが理由で入隊はありえない。てか付き合いたいならライラ同様、普通に良二と交際すればよい。
「ならば別に入隊は……」
「必要無いって言いたいんでしょ? それじゃダメなの! それじゃあ、あの色ボケ女と同じじゃないの!」
我儘王女面が色濃くなってきた。
「私はもう何歩もリードされてんの! 胸出し好色女と並ぶには一緒の時間を増やすしかないでしょ!」
――はぁ……
誠一はこう言う手合いは苦手だ。モテ期が無かったうえに、設けた子供は二人とも息子。こういう小娘のあしらい方には経験値が圧倒的に足りてない。
いつもの理屈屋然としてても多分話はかみ合わないし、かと言って思い切りこちらも感情むき出してぶつけた方がいいのか悪いのか?
メイスらに聞いたところによると、アマテラはアーゼナル皇国の属国と言う事で軽く見られる場合も多いものの、同じ隷下の国々の中では筆頭と認められるくらいの地位を確保している。
それは勤勉・実直・慎ましさで名を馳せている民族性もあり、産業や技術のみならず、それらを活かした外交手腕に秀でている事が大きく、他の属国から抜きん出ているのだ。今では「アーゼナルにアマテラあり」と嘯かれるほどだと言う。
まだ若いとは言え、幼少期からその海千山千の連中相手の中で培った硬軟交えての交渉術は、例え経験年数は長くても、たかだか一人親方の営業交渉程度に綱渡り的ハッタリを加えただけの誠一あたりでは、しょせん毛並みが違う。
にしてもこの王女殿下、アデスの人間だろうに大魔王陛下をつかまえて色ボケ女だの好色女呼ばわりだの大概ではある。
もっとも、その陛下をペテンにかけた誠一が言える義理ではないわけだが……おっと!
「さっきから色ボケだの胸出し好色どうたらだの、一体だ~れのこと言ってんのかしら~」
いつの間にやら戻ってきていた胸出し女の声を聞いて、更に頭が痛くなる誠一であった。




