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智龍王ローゲンセン

 黒さんがこの顔になったらやべぇ……こう思ったのはこの中で良二、メイスの他は誰であろうか?

「もう一歩、踏み込ませていただきましょうかね?」

 誠一はそう言いながら椅子に深く掛け直し、胸の前で腕を組んだ。

「そろそろ沢田君をはじめとした召喚目的を……その片鱗でも話していただきたいところなんですがね?」

「セイイチ、欲を掻くな」

 諭すように釘を刺すホーラ。

「おそらく……と言うか、人間的な感覚で言わせてもらえばライラちゃん、大魔王陛下には全ての情報が上がっているとは限らない。だから知ってる範囲だけでも……」

「一番トップなのに知らされてないの?」

「全部知ってると、何らかの不都合が出たら責任問題になるだろ? 例えば今回の召喚儀式が失敗したとして、責任者の王太子殿下が、妹であり実行者でもあるフィリア殿下を処分して幕引きを図り、国家と国王陛下は無事だ、みたいなシナリオは用意されてただろうと思うぞ?」

「それじゃフィリアさんが……」

「第1王女の姉上ではなく、第2王女の私が抜擢されたのは、そのためでもあります」

 フィリアは笑ってはいるが、目を伏せ、ちょっと寂しそうだった。

「ひどーい」

 美月ならずとも、そう思うのは当然であろう。支配階級ゆえの苦悩というものか。

「王族は王族で大変なのさ。さて、ライラ……陛下、ホーラさま、ラーさま、アイラオさま? お話しして頂けませんか?」

「セイイチさま? こう言っては何ですが、私どもが存じている事柄をすべてお話ししたとしても、皆さまが9カ月を待たなくてはならない事に変わりは無いかと……」

「仰る通り、それがもしも我々が納得行かない理由であったとしても、我々は協力せざるを得ないし、その時まで待たなければならないのは同じです」

「貴公、それでなぜこれ以上を望むか?」

「もし、我々がその機密事項を皆さまと共有し、我らも機密保持を誓う事が出来れば……」

 ホーラの問いに、誠一は美月をちらっと見てから答えた。

「美月と沢田君の面会が叶うかと?」

「!」

「隊長、そのために?」

「勿論それだけじゃない、せめてそれだけでも、とは思ったがな……」

 そんな美月と誠一のやり取りを聞いていて良二は、ちょい首を傾げた。傾げてしまった。

 そして言ってしまった。

「え? 美月と沢田君て同級生なのはわかるけど、容子もそうだろ? 容子はいいのかい?」

 その良二の言葉を聞いたメアやシーナを含む遊撃隊全員に加え、フィリアやメイスも良二の顔に目を向けた。当の美月は、ちょっと照れくさそうな顔をしているが。

「良……それ、マジで言ってんのか?」

「へ?」

「リョウジさま、私はさすがにみなさんお気づきの事と思っていましたが……」

「リョウさ~ん、鈍いにもほどがあるっすよ?」

「リョウジさん? ミツキさんが事あるごとにサワダ卿の事を気にかけてましたのはさすがにご存知かと思ってましたが……」

「ロゼの部下に掛け合ってまで近況をお知りになりたがっておられたのは、ミツキさまが友達以上の感情をお持ちであると……私どもも周知でしたが」

 全方位・全方向から次々とダメ出し喰らう良二。

「女の子が下の名前で呼ぶって辺りで見当つけろよ」

「え? あれ? つまり二人は付き合ってたと……そんな事言ってなかった様な……」

 良二の言葉に皆が大きくため息をついた。最後に容子が呆れたような目で、

「朴念仁……」

で止どめ。ショックでショボーンする良二の体全体に影が降りてくる。

 ライラと言う恋人が出来たとはいえ、まだまだ恋愛初心者の域からは出ていないと言う事か?

「ま、一つ勉強したとしとけ。さて……」

 誠一は改めてライラと向き合う。

「まず聞きましょう、本計画は魔界からの要請と言うのは本当の事ですか?」

 ラーやホーラら人間組以外の眉が動いた。人間組でもフィリアとメイスが同様にピクッと。

「そこから来るか?」

 ホーラが誠一のスタンスを感じたのか確認する様に聞いた。

 誠一は片眉をいたずらっぽく吊り上げて微笑むことで答えた。

 ラーは一度ライラの顔を見た。

 ライラはそれに頷き、承知したラーが答え始める。

「魔界から……と言うのは本当です。但し、要請ではなく提案と言った方が適切でしょう」

「原因は魔界にある訳でもないと言う事で?」

 と、ここで

「セイイチ、変に駆け引きするのはやめにしようではないか。最初に貴公と会った時と同様、単刀直入に行こう」

 ホーラが提案した。言われて誠一も快く同意した。

「賛成です。下手な言い回しについてはご容赦を。魔界側は何を提案してきたので?」

「三界の未来のための提案です」

「ラーさま、先程ホーラさまが仰ったように単刀直入で行きませんか?」

「申し訳ありません、私は実際の担当者ではありませんので、その方の業務に支障のおそれがあってはなりませんので……ハッキリと答える権限は……」

 ラーはそう言うと目線を落とした。

「ライラ、君はどこまで知ってるんだい? 君もラーさま以上には話せないのか?」

 ようやく立ち直ったらしい良二が割り込んでみた。

「ラーと同じ。大魔王として部下を信頼して預けた以上、君主と言えど脚を引っ張ってはいけない」

 それを聞いてカリンがうんうんと頷く。

「やっぱり駄目なのかい?」

「あたしが勝手に言っちゃダメって事よ。ちょっと待ってて」

 そう言うとライラは人差し指を眉間に当て、眼を閉じ、フーッとひと息吐くと半ば叫ぶ様に、ある人物の名を呼んだ。

「……勅命! ローゲンセン、前へ!」


 ライラが叫び終わってから数秒、部屋の隅の方に何かしら人影が転移魔法で現れる空気が漂った。ラーたちが転移で現れる時と同じあの感覚。だが今回はそれが若干大きく感じられた。

 現れた人影は確かに大きかった。そして明らかに異形の者であった。

 龍人だ。

 五体はほぼ人間と同じで、ローブに覆われてはいるものの、手足の見える範囲からも全身が鱗に覆われていることが推察され、頭部には(たてがみ)と見事な二本の角が生えている。

 その龍人はライラの元へ近づくと跪き、

「智龍王ローゲンセン、お召しにより参上いたしました、大魔王陛下」

と、口上を述べた。

「多忙中に呼び出してすまないローゲンセン。いきなりだけど、あなたならこの状況、わかるわね? 彼らの質問に出来る限り答えなさい」

 ライラがそう言うとローゲンセンは、ハッ! と、応じたのち立ち上がり、良二や誠一らを一瞥し小さく数回頷いた。

「お初にお目にかかる、異世界の方々。小官は魔界8魔王の末席を汚しております、名は智龍王ローゲンセンと申します。以後お見知りおきを」

 丁寧に自己紹介する魔界の賢者、龍人ローゲンセン。

 初めて見る龍人に、良二や容子・美月は目を見開いて凝視してしまった。

 エスエリアでもシーナやメアのような獣人、ドワーフのロッタ、エルフのシオン・ジュディなど、様々な種族と付き合ってはいたが、ドラゴンがそのまま人型になったかの、いわゆるドラゴニュート系であるローゲンセンほどファンタスティックな種族はさすがに初見であったからだ。しかも念話による呼び出しに転移で即座に現れる。そこから見て取れる魔力の強さ・底深さ。長い経験からくる奥の深い目力等々、良二は瞬時に圧倒された。誠一もラーやホーラから聞かされていなければ、反応は同じだっただろう。

 その龍人を即座に呼びつけ、説明を命ずるとか、良二に初めて大魔王陛下の片鱗を見せたライラ。その姿は、良二にとっても改めてその現実を突きつけられる思いだった。笑顔で語尾を伸ばして話すライラとは違い、君主としての威厳をビシビシ感じる。

 とは言え、些か衝撃的ではあったが、良二には何故か大した実感がわかない……と言うか「でもライラでしょ?」と言う思いの方が強かった。


 ローゲンセンの挨拶を受けた誠一も、立ち上がって姿勢を正し自己紹介を返した。

「地球より召喚され、現在はエスエリア王国魔導団に属しておりますセイイチ・クロダと申します。魔界随一の賢者と聞こえた智龍王殿にお会いできて光栄に存じます」

 同じくしてローゲンセン用の椅子を用意したシーナとメアが「どうぞ」と勧める。

「や、かたじけない。では失礼して……」

 賢者は勧められた椅子に腰かけ、誠一も再び腰を下ろした。

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