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ごめんなさい

「ホーラさま、聞くだけは聞かせていただけませんか? それで尚、答えられないなら待ちますが、なにも聞かないというのは……」

「セイイチ、貴公どこまで勘付いておる?」

 誠一の手を払い座り直すホーラ。

 周りにいる皆が、ホーラの性分としての堅さではなく、任務に対しての堅さゆえの表情になっているのが感じ取れた。

「答えが見えてこない以上、どこまでと言われても困りますが……」

「先だって我と話した以上にか?」

 ――ん? 二人だけの時?

 自分らにも関わりが有りそうな事であるのに、その話題の共有がこの二人だけに限定されていそうな疎外感・違和感に、良二は眉を顰めた。

 なにか話し合っていたのか? 俺たちの知らないところで? 二人だけが知っている? 自分達には知らされてない事を? 誠一とホーラのやり取りに感じる何かしらの影のようなもの……

「黒さん、それどういう事? 俺たちの知らない何か知ってるの?」

 容子と美月も当然の如く反応した。二人とも誠一を注視する。

「おいおい、何だよ良? 訝しげな言い方じゃねぇか。俺はお前たちと同じ情報しかもらっていないぞ?」

 飄々と答える誠一。

「でも今のホーラさまとのやり取り……」

「ん? なにがだ?」

「なんだよ、こんな時にとぼけるなんて、らしくないじゃ無いか!」

「おい、落ち着け。なに熱くなってんだ? 俺はさっきから言ってるだろ?」

 誠一はまた、しれっと、鼻に何か引っ掛けたようなモノの言い方をした。誠一の本来のスタイルだが、今の良二には逆に癇に障る言い方になってしまった。

 召喚に関する謎、疑問は4人の誰もが持ち合わせているのだし、神経質になるのもやむを得ないというものだ。容子も美月も「あたしたちの知らない何かを?」と勘繰るような目になってきているし。

「だから! ホーラさまと何を話してたかって聞いてるんだよ!」

 良二の声が昂ってきた。

「落ちつけってばよ~。俺はお前らに隠し事なんてしてねえし?」

「さっきから言ってるじゃ無いか! ホーラさまと何を話したのかってことだよ!」

 更に声が荒ぶる良二。答えをはぐらかすような誠一の物言いに、苛立ちがより、擡げて来る。聞いていた容子と美月は、良二と誠一の口論なんてこれまで見た事が無かったので、思わず身が震るえる思いになった。自身の持っていた疑問より二人がケンカ腰になってきている方がヤバく感じた。自分たちの足元が揺らいで来るみたいだ。私たち4人は、いつも結束していなければならないのに。

「アツくなるなと言ってるだろう! いい加減にしろよ」

「いい加減にするのはどっちだよ! ごまかすなよ!」

 顔を突き合わせヒートアップする二人。今にも胸ぐらのつかみ合いが始まりそうな勢いだ。

 そこへ、

「ちょっと二人とも!」

いたたまれず美月が止めに入る。

「なんでケンカになるのよ! やめてよ!」

「だって黒さんが!」

「落ち着きなさいよ、二人とも! 今、言い争ってる時じゃないでしょ!」

 容子も中に入ってきた。

「何だよ? 俺が何したってんだよ? 何もしてねぇだろ! それを良がよぅ!」

 容子にまで突っかかる誠一。それにまた反応する良二。

「何も言わない事が問題なんだろうが!」

「落ち着いてってば!」

「隊長も、あたしたちの知らない事があるならちゃんと教えてよ!」

 召喚されて以来、初めての大喧嘩だ。以前の良二と容子の、ヤキモチが原因の口論どころではない。

 本人たちはもちろん、シーナやメア、フィリア、メイスらも想像だにしなかった状況に困惑することしきり、彼らが皆揃って喧嘩するところなど見るのは初めてだ。

 何とか収めないと! フィリアやメイスも腰を上げようとする。

が、その時、

「やめて━━!」

耳に突き刺さらんばかりの叫び声が響いた。部屋中全員の動きが止まる。


 叫んだのはライラだった。

「やめて……言うから……話せることは、ちゃんと話す、から……」

 崩れるような声で喧嘩を止めるライラ。

 そのライラの顔は悲痛そのものだ。

 彼ら4人を召喚に巻き込んでしまったのはライラ本人である。

 それを、どう思われるか怖くて……いや、絶対に責められる、軽蔑される、嫌われると恐れて今まで言う事が出来なかった事実。召喚された詳しい理由も勿論だが、それらを隠したせいで、そのせいで本来喧嘩するはずのない良二らが、仲間割れを起こすに至ってしまっている。

 もう、隠していてはだめだ。ちゃんと言わなきゃ……なにより良二に辛い思いをさせてしまう。

「だからお願い、もう……」

 喧嘩はやめて、と、そう言おうとした時、

「はい、ありがとうございます! よろしくお願いしまっす!」

と誠一が満面の笑みを浮かべながら、弾んだような明るい口調で礼を言いよった。


 取巻く部屋の重たい空気、その正反対の軽やかに弾んだ声を出す誠一に、部屋中の全員の目が点になる。

 言われたライラを含め、部屋中の者の顔がキョトンとする中、

「おじさ~ん……仕掛けたわねぇ?」

と、真っ先に誠一の意図を見抜いたアイラオが、眉間にシワを寄せ、半眼で睨みながら責める様に切り出した。

 続いて、どう立ち回るか傍観してたラーも、誠一の奸計に気付くや、

「プ! ククク……アハハハハ!」

破顔して笑い出した。

 普段は、おほほほほほ~、とか澄まして笑うのに、よほどツボに入ったのか。

「申し訳ありませんねぇ。いい返事聞くには一筋縄では行かないと思いましたんで!」

 全く悪びれてない謝罪を抜け抜けとほざく誠一。

 だが良二たちは、まだ目が点の状態から復帰出来ないでいた。


 要するにこのケンカは、天界・魔界上層部が話したがらない詳細を聞きだす、その了承を得るために誠一が仕掛けたサル芝居だったのだ。ただし、芝居をしていたのは誠一1人のみだ。

「大成功~! 良、容子、美月! うん、思惑通りしっかり動いてくれたな、感謝するぞ!」

 まあ年の功とは言うものの、こいつはちょっとあんまりじゃないの、隊長さん?

 フィリアやシーナらも白い眼で誠一を見始める。

 そして踊らされた面々は……

「セイイチ~、貴公~、我をダシにしたなぁ~!」

 怒りのホーラさま。

「隊長さぁ~ん……」

 怒りのライラさん

「黒さ~ん」

 怒りの良二

「隊長ぉ~」

 怒りの容子

「黒さぁん」

 怒りの美月

 全員そろって言ったそうな。

 「「「「後で話がある!」」」」


「まったく……大魔王陛下までペテンにかけるなんて、型破りと言うか命知らずと言うか。ククク」

 まだ笑いの収まらないラーは目尻の涙をぬぐいながら独り言のように。

 以前、ライラの寝室でも4人が巻き添えになった理由は早く話すべきと進言していた身であるが、そのきっかけが難しいと言う、ライラの心情もラーはわかっているつもりだった。どうやって切り出したものか? それはラーとしても思案のしどころであった。

 だがここで、この誠一の奸計である。

 妻子と引き裂かれて一番激怒するのでは? と思われていた相手からの、この仕打ち。

 これなら何の遠慮もなく真実を話す事も出来よう。まさに渡りに船とはこの事だ。それ故ラーは、噴き出さずには居られなかったのだ。

 対してシーナやメアは生きた心地がしなかった。フィリアやメイス、カリンはやれやれ……と言った顔をしている。一体どんな神経してるんだこいつ……みたいな? そう思うのも当然ではあるが、カリン殿下は人の事は言えないような?


 場は何とか収束したものの、釈然とはしない面々であった。

 自分に落ち度があるとはいえ、誠一のあんまりなやり方に憤懣やるせないライラだったが、

「陛下。セイイチさまはこういうお方ですから、もう、真相をお話ししてもよろしいかと思いますよ。私が以前、申し上げた事、遠慮はいらなくなったのではありませんか?」

と、笑いから立ち直ったラーに言われて、これも考え様の一つなのか? と思い、意を決する気になった。しかし、

「あんたも、とんでもない男に惚れたもんね」

と皮肉の一つも言わなきゃ収まらんのも止む無しか。

「お褒めのお言葉として頂いておきますわ」

 などと流した後、ラーは目配せでライラに促した。

 ライラはフーっとひと息ついてから姿勢を正し、真っ先に、

「ごめんなさい!」

と謝罪した。

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