会談
特別遊撃隊応接室。
誠一がいてホーラがいる。
ラーがいてアイラオがいる。
シーナがいてメアがいて、
容子がいて美月もいる。
フィリアがいてメイスがいてカリンまでいる。
そして、良二がいてライラがいる。
皆が応接テーブルの周りのソファに座り、足りない分は事務室から持ってきて座る。
フィリアとメイスは昨日の、他のアジトにおける制圧作戦完了の報告をしに来ただけだったのだが、何ともとんでもない状況に巻き込まれたものだ。
あのような大事件の直後だというのに、乱入してきたカリン王女案件だけでも寝不足のお肌に堪えるというのに、お忍びとは言え、魔界の最高統治者、大魔王陛下の御降臨と来たもんだ。
フィリアも王族として天界、そしてそれ以上に魔界とは馴染みがあるのはある。
だが国家最高レベルの行事でも招待に応じるのは高位であっても12神・8魔王までである。大神帝や大魔王にご足労など、とんでもない話なのだ。
故にそのご尊顔など拝した事も無いのは、当然と言えば当然なのだが、てっきりそこらの町娘だと思っていたライラが大魔王陛下サマだったとか…… もう縮む寿命も尽き果てた気分のフィリアである。
などと言っても、召喚計画に関しては当事者でもあり、布団被って狸寝入りというわけにもいかない。もう、ひと踏ん張りである。
そんな中、誠一は左手で口周りを押さえ、この面子を眺めてみた。
そしてカリンに提案。
「カリン殿下? 何か問題になる前にお帰りになった方が……」
「いいえ、このまましばらく居させてもらうわ」
そう言うとカリンはライラの方をギロッと睨んだ。
睨まれたライラもやはり睨み返した。それはもうギロッと。
思わず頭が痛くなる良二。
だが放っておくわけにもいかず、ライラに諭そうとする。
「あのさあライラ……」
「無礼者!」
途端にホーラから叱責が飛ぶ。
「リョウジ! 貴様っ、何度言えばわかるのだ! 陛下に対して呼び捨てなどモゴガゴ……」
誠一がホーラを後から抱きかかえ、口を塞いだ。
「ホーラさま。その辺り同意は致しますが、そう言った上下関係の類は今は無礼講……いえ、気にするなとの陛下の御意にございますから」
「ふぉうふぁいっふぇも、ふぉのほうふぁふふぇいふぁふぁっふぇふぃふぇ……」
(そうは言っても このような不敬は あってはならん…… )
誠一の、職人上がりのゴツイ手に口を塞がれながらも必死に訴えるホーラ。
「おじさんとお付き合いして性格柔らかくなった思ったのに、そういうところは相変わらず堅いんだね~」
とアイラオ。
「もう縛っておきましょうか。亀甲縛りエビぞりなら大人しくなりましょう」
ラーが妙なことを言い出した。
「もがー! もがー!」
で、応じるように誠一。
「いえ、女性が対象なら菱縄縛りの方が美しいかと?」
変な趣味だしてんじゃねーぞ、おっさん! By良二
「もがー! もご、もがー!」
などと、塞がれた口の中で緊縛に対する抗議か叱責か、とても聞き取れない喚き声をあげるホーラを尻目に、
「ライラさん……いえ、あの、本当に、その、大魔王陛下……なのですか?」
容子が小さく呟くように聞いた。
「ヨウコちゃ~ん、お願いだから今まで通りにライラって呼んでよ~。ねっ?」
と、ウインクかますライラ。
「いえ、だから、本当に?」
ライラは頭の後ろを掻きながら、
「ん~、まあ、確かに、大魔王……やってるんだけどぉ~……」
と、照れ笑い気味に答える。
容子は溜息を付きながらがっくり肩を落とした。
張りあおうと決めていた相手が、よりにもよって魔界の頂点、大魔王陛下であらせられましたとか? 全くシャレになるとかならんとか、そう言うレベルの遥か斜め上の現実である。
「どうして今まで黙って……」
美月が尋ねる。声に震えが混じってる様な感じも。
「いや~、何時か言わなきゃとは思ってたけど~、なかなかね~」
地なのか無理してるのか。ライラの口調はいつもと変わらない。
「あのう、いいですかぁ?」
メアが手を挙げた。
「うん、なあに~?」
「あたしたち、大魔王陛下の事は、大神帝様と同じで、子供の頃からよく聞かされてたんですけど、その、なんていうか……」
「ん~?」
「お、恐れながら大魔王さまらしくないって言うか……聞いてたの違うって言うか……今でもちょっと信じられないって言うか……」
「でしょう~?」
「いや、でしょう? じゃなくてさライラ。その、俺も、なんかその~、普段のライラと大魔王陛下ってのが、うまく繋がらないって言うかさ……」
困惑はしてるが同時に呆れた様な言い方で良二がメアに同意した。
実際のところ、アデスの人々にとって大神帝や大魔王と言う存在は、まさに空の彼方の御方々である。
彼女らを最高の畏怖と尊敬をもって崇拝していたメアやシーナらは、それらと目の前の町娘然としたライラの姿とを同期させる事は極めて困難な状態でいた。
「だってさ~、結局大魔王って役職なんてお飾りって言うかなんて言うか~。行政とかその辺りは8人の魔王がみんなで頑張ってくれてるし、やる事って言ったら、こっちで出てきた不満聞いてぇ、それを相手のところへ行って言い聞かせてぇ。そしたらそこから苦情が出るからまた仲裁して~ってマジ、調整役とか雑役なんだよね~」
良二は出会って最初の頃に、似たような愚痴を聞いたような覚えがあるのを思い出した。
「それ、魔王府内での話だったのか? てっきり職場……ユニバーサル通商内の事かと思ってたのに」
「それでは、ユニバーサル通商の雑役っていうのは……」
シーナが聞いた。
「あそこは商務省のフロント企業……なんて言うと聞こえが悪いけど、商いを通して人間界の各国政府や市井とか情報を得るための足掛かりでね~」
「情報部とかスパイ組織の隠れ蓑ってやつですか?」
そう誠一が聞くと、ライラに代わってラーが答える。
「そちらは魔王府内二部の調査課とかもあるのですが、商務省としても通商に特化する情報が欲しいということで……。でも基本は魔界・人間界間の商いの橋渡し役ではあるんです」
「で、人間界で自由に歩き回る時に、そこの雑役って事にして職質受けたりした時に怪しまれないようにしてたの~」
「まあ自国に限らず、自分の目で市井を見るのに身分が邪魔するってのは良くわかるんだけどね~」
カリンが口を挟んだ。
「で、やってることが色気振り撒いて男漁りとか、ちょおっと行状に問題ございませんか~、大魔王陛下サマ?」
などと一言余計ではあった。しかし魔界の大魔王陛下を目の前にして全く物怖じしないカリン殿下。鉄の心臓か! と言いたくなるほど堂々としたもんである。
「過剰な諫言、痛み入りますわ、辺境国家の王女サマ~。てか誰が何振り撒いて何漁ってるってのよ! あたしはリョウくんに会いに来てただけだっての!」
場の雰囲気無視して目から火花を散らすお二方。良二の頭痛がひどくなる。
ダメだこいつら、初めて会ってから全然進歩してねぇ……ってまだ一日しかたってないけど……
「落ちつけよ二人とも。今はいがみ合いは無しにしよう」
と良二が二人を宥める。
「なによぉ。リョウくん、いつもあたしの味方だって言ってくれたじゃん」
あ、覚えていてくれたんだ、ちょっと感激! って、それは後で。
「も、もちろん嘘じゃないよ、でも今はさあ」
「だったら、ちゃんと、このじゃりン子に言い聞かせてよ!」
「ハイハイハイハイ!」
誠一が手をパンパン叩きながら割って入った。
「のろけなら二人の時に改めてやっていただきたい。なぜ、身分を隠して良とお付き合いしたのかも、それが二人だけの問題ならここで言う必要もないでしょう。しかし魔界の大魔王陛下であらせられるなら他にお聞きしたいことが山ほど……」
「セイイチ、それは待て!」
ホーラが険しい表情で誠一を止めた。部屋中の緊張感が増した。




