バレました
で、カリンの後から侍女長補のラークが慌てて飛び込んで来て、
「も、申し訳ありません、皆さま! 確認の時間をと、お待ちいただこうとしたのですが、外交官特権だと押し切られまして!」
などと、とりあえず現状の説明。
――が、外交官特権? まあ他国の王族だし当然そういう類のモノもあるかもしれないが……とは言え曲がりなりにもその国の王族の居城にアポも許可もなく乗り込むというのはちょっと……さすがにそれは非礼では?
てか、それよりもだ。
「カリン! どうしてここに! て、言うか身体、身体は大丈夫なのか? 回復魔法かけたっても、あんな酷いケガで!」
そんな良二の問いに、カリンは不敵な笑いを浮かべて答えなさった。
「外国へ訪問するのにお抱えの従医師を連れて行かないわけないでしょ? 自国の最高の医師でもある最強の回復士を同行させるなんて、当然じゃない? で、先生に治療続けてもらってもうピンピンよ! でもその先生が言ってたのよ。最初の応急処置がこれ以上なく適切だったから、その後の治療も完璧に出来たんだって。そのお礼も兼ねてね!」
最後の方のカリンは、あの朗らかな笑顔を浮かべていた。
「あ、あなたね! 応急処置してくれたの!」
カリンは容子を見つけて駆け寄り、手を握った。容子は突然の事で戸惑いながらも、
「カ、カリン殿下、速やかなご快復、お、おめでとうございます……」
と、何とか挨拶できた。
「ありがとう! あなた方みんな、私の命の恩人だわ!」
容子の次に美月にも握手しながら、カリンはお礼を言い続けた。
「そうだわ! 隊長さんは? 隊長さん、負傷したんでしょ? お怪我の具合は?」
と、心配そうに尋ねる。
「大丈夫です。食事時ですからもうすぐお見え……いえ、こちらに来るものと……」
「よかった~。気になってたのよね! 改めて挨拶しな……きゃ、ね……」
カリンの語尾の変化と視線……特に視線は、自分の縄張りに侵入してきた余所者を睨むドーベルマンの如き眼光を発し始める。良二ならずともイヤな予感が駆け巡る。いや、よその縄張りに入り込んでるの、王女さまなんですけどね。
「で、場の空気読まずにいつまでリョウジに抱きついてんのよ、あなたは。まだ返答聞いてないわよ? さっき言ってたのは誰の事ぉ~?」
落ち着いて! 王女殿下! 落ち着いて! By良二
「言わなきゃわかんないかな~。目の前に鏡でも立ててほしいのかな~?」
やめてー! ライラさん! 殿下は病み上がりだし、あんなひどい目に遭ったあとだし~! By良二
「思った通りの性格ね。やっぱり色気で男釣るしかないんだわ。ところ構わず抱きつく姿はまるで盛りのついたメスヘビね!」
お願いですぅ! 二人ともやめてぇ! By……
しかしカリン殿下、メンタル絶好調である。アイラオのケアがよほど功を奏したのか? さすが魔王さまの治療。
「やっぱりケツの皮膚捲るしかないかしらね~」
ライラはゆっくり良二から体を離すと、指をボキボキ鳴らし始めた。
良二には彼女の顔は額から鼻のあたりまでシャドウが降りて、目は獲物を狙うネコ科猛獣さながらの異様な光りを放っている感じに見える。実に、実にヤバい顔色だ。
「ちょ、だめだってライラ! 国際問題になっちゃう!」
「リョウく~ん、犯罪者ってどういう連中か知ってる~」
「え? いきなり……なにを?」
「犯罪者ってね~、証拠残すようなヘマしたバカちんの事なんだよ~」
ライラさーん! なに恐ろしい目でなに恐ろしい事言ってくれてんですかー!
王族相手に完全犯罪宣言とかやめてってばぁ!
良二は頭の中が真っ白になってしまった。マジで立っていられるのが不思議であった。と、その時、
「主様~、足元にお気を付けくださいね~」
などと、のんきなのろけ声出してくるシーナを先頭に、セイイチ大奥ご一行がなんも知らぬげに食堂にやってきた。
「あれ? なんかあったんすか? って、ええ! カリン殿下!」
メアがカリンに気付き、素っ頓狂な声を上げた。すかさず誠一も反応する。
「カリン殿下! どうしてここに! いえ、お身体の方は!?」
いろいろあってずいぶん時間が過ぎたように感じていた誠一ではあったが実際は王女救出からまだ半日程度しかたっていないはずである。
なのに一番ダメージを受けたであろう本人が側近の一人も連れずに他国の王族のおうちに居りなさる。誠一もメアのように声が幾分ひっくり返ってしまったのだが、それもやむを得ないというモノ。
その誠一に対し、カリンはライラとの戦闘モードから表情をころりと変えて笑顔をふりまき、
「ええ、おかげさまですっかり回復しましたわ。夕べは本当にありがとうございました。大変な負傷を負いながら我が身を救っていただき、このカリン・カート・アマテラ、此度のご恩、生涯忘れませんわ」
王族外交モードバンバンで答えた。
「クロダ少佐でしたね? ご貴殿こそ、お体の具合は?」
「はい、この通りすっかり」
答える誠一。普通ならここで終わるはずなのだけれど。
食堂内には予想外の来客がもう一人……
まずは誠一の後に入ってきたアイラオが、食堂内に居るとは思って無かったライラの顔を見つけて、
「い!」
と、顔を引きつらせた。
同時に、
「いっ!」
ライラもアイラオの顔を見て同様に引きつった。
「もう、始末書なんて何百年ぶりだ、か!」
更に、続いて入ってきたラーも同じようにライラを……以下略。
「身から出た錆であろう、何をブツブツ……」
マズい! 瞬時に場を読んだラーが慌ててホーラの侵入を遮る。
「おい、どうした? 入れんでは無いか」
「あ、あの! 先ほどの始末書に誤字がありましたわ、急いで直さないと!」
と、なんとかホーラを押し戻そうとするも……うん、ラーさま、そりゃムダな抵抗っすよ?
「ん? そうなのか? まあ、まずは飯が先だ。我は空腹なのだ」
と定番通りに、ホーラはあたふたするラーをはねのけて入ってきて、
「うん? どうしたのだ、皆立ったままで? 食事中ではないのか?」
などと言いつつ食堂内をぐるっと見渡した。
で、見回す中、当然ライラとも目が合い……
「……」
ちょっとの間、言葉を失ったが……
「失礼いたしました!」
と、いきなり片膝をついた。
「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」
魔族組三人を除く、人間界組全員が何事か! とびっくりする。
あの天界の最上級神ホーラが膝をつく、だと!?
「あ、あのねホーラちゃん?」
アセアセで取り繕うとするライラ。しかしホーラは言った。
「麗しきご尊顔を拝し、恐悦至極にございます! ライラ・サマエル大魔王陛下!」
ホーラの声が食堂内に響き渡る。
人間組は何が起こったのか、しばらく理解できずにいた。だが、
まずは……目が見開かれた。
次に……口が開いた。
そして……額から口の当たりにかけて縦線が降りてきて……
「「「「「「「ええええええええええええええええええええ!」」」」」」」
とまあ、出て当り前であろう叫び声が終わると同時に全員がフリーズした。
んなバカなー! まさか! そんなワケ~! 美月や容子らの脳裏にはそんな言葉が駆け巡っていることだろう。
通商の雑役やってる町娘と信じ込んでいたのに実は魔界の最高指導者とか、そう簡単に受け入れられるものでは無かろう。
そんな中、フリーズから最初に復帰したのは良二だった。人間組の内では誰よりもライラ慣れしているからか?
とは言え全くショックが無いはずもない。
「ラ……ライラ……」
良二はやっと彼女の名前を口にした。が、そこへ途端に、
「リョウジィ!」
と、ホーラから叱責の声が飛ぶ。
「貴様、魔界を統べる大魔王陛下の御名を呼び捨てにするなど何たる不敬! 身の程をわきまえモガホガ……!」
ホーラが良二に対する諌言を捲し立ててる中、その口を、空気を読んだラーが後ろから両手で押さえた。
「ホーラさま! しばらく、しばらく!」
ラーとホーラのやり取りを尻目に、肩を竦ませ、困り眉毛でバツが悪そうに良二を見つめるライラ。
そんなライラを動揺した眼で見つめる良二の頭の中は、未だ混乱に拍車がかかりまくっていた。拍車をスリーローターで廻してターボとニトロブーストを加えたとでも言った様な……
――信じ難い……いつも明るく、快活で、町娘以上に町娘で、庶民の見本みたいな自分とイーブンで付き合い、触れ合い、惹かれ合ったライラが……
だがしかし、ホーラのあの反応。いくら誠一と付き合い出して砕け気味とは言え、あのお堅い時空の最上級神が、伊達や酔狂で片膝を附くのもまた考え難い。つまりは……そう言う事だ。
「ほ、本当なの?」
良二が聞いた。改めて。
「あ、あの……」
ライラも返答に困った。
いずれは知られるとしても、こうもいきなり……
「本……当……?」
「う……」
「ライ……ラ?」
「そ、それは……」
「…………」
「……言ってなかったっけ?」
テヘペロ
「…………ライラ……」
「う、うん……」
「話をしよう」
大魔王陛下涙目。




