帰隊
良二たちがカリン王女救出作戦の軍への引継ぎ・現場説明等、後始末を終えて本部に帰って来たのは午前2時を過ぎていた。
帰営したころには誠一の治療は終わっており、付き添って一緒に帰隊したシーナは誠一の傍らで既に寝息をたてていた。
良二・容子らも誠一の寝顔を見て安心してしまったのか、誠一の部屋のソファに座り込んで一服したのだが、気の緩みが睡魔を呼び、全員がそこで寝むり込んでしまった。
午前10時過ぎ、朝を通り過ぎた日差しが窓から良二たちを直撃するころ、皆が次々に目を覚ました。
誠一の事は残ったシーナやホーラに任せて自室に戻り、風呂に入って作戦行動中の垢を落としてから食堂に移り、朝食だか昼食だかわからなくなってしまった食事をいただいた。
フィリアからの連絡で、ジュディ料理長がいつでも温かい食事がとれるようにと気遣って貰えており、出された料理は未明近くまでかかった作戦で疲れた体に優しい献立であった。
魚介のスープで煮込まれた、良二たちの舌には懐かしさも感じる雑炊風の海鮮リゾット。
口に含んだ瞬間、体に染み入る様な味わいと温かさ……酷使した身体にちょっと強めの塩味が心地よく、労無く喉を通り過ぎる食感でありながら胃袋にもしっかり応えてくれる。単純な風に見えながら身体と心がホッとするような味わい……
料理長はじめ厨房の皆様に感謝。
とは言え、良二に限らず美月や容子もかつてない緊張感の作戦行動から解放されたにもかかわらず、その反動は事のほか強かったのか頭はボーっとしていた。
「なんだか、夢でも見てたみたい……」
美月が開き切らない瞼をこすりながら言った。
「お風呂入っても頭がすっきりしないわね」
容子も同様の状態らしい。
こういうのを積み重ねて一人前になっていくのかな……
良二は最近、こちらに来たばかりの頃と違って、足がちゃんと地についている感覚がだんだん自覚できるようになってきていた。
そうなるように意図してやってきたわけじゃない。いつのまにか、そうなっていた。そんな感じ。
作戦前、誠一に自分に殺しをやらせてしまうかもしれない事態を詫びられたが、その時は人を殺めることへの恐怖や抵抗、不安の様なものは無かった。人を殺めたとしても、それは”結果”だと……
カリンを助けたい! その気持ちだけで一杯だった。
必ずやってやる! そう思った。失敗したらどうしよう? なんて微塵も思っていなかった。
マジでこちらに来る前の自分とは段違いだった。以前より成長はしているのだろう。
しかし……
自分はやらかしてしまった……
「美月、容子……」
「?」
二人が食事の手を止め、良二を見た。
「ごめん、申し訳ない……」
「なに? 突然」
容子が首を傾げる。
「俺が……俺があの時に逆上しなけりゃ……連中の眼がくらんでるスキにカリンを抱えて脱出していれば、誰も危険に晒す事は無かったし、黒さんもあんなケガ……」
良二は詫びた。有耶無耶にしたり、人に言われるまで黙っていて良い事ではない。
さらに地に足をつけるため……などとそんな自覚まではないが、詫びずには居られなかった。
「…………」
「…………」
良二の謝罪を受けて少し戸惑う二人だったが、容子はちょっとの間、眼を閉じ何かを思っているようだった。
そして、言った。
「そうね。良さんが冷静に行動してれば、外の連中に囲まれる前に離脱できたでしょうね。うん、良さんのせいだわ」
「う、うん……」
容子の言葉に、良二は継げる言葉が全く出てこない……
「容子、そんな言い方……」
「でもさ……」
諫めようとした美月の言葉を遮り容子は続けた。
「あの時……囲まれて合流した時、カリン王女の姿を見て、あたしも頭に血が上ったよ? 総毛立つって言うか、血が逆流するって言うか」
「……」
「囲まれて、殺される! 怖い! なんて全然思わなかった。とにかく悔しかった。頭に来てた。何でこんな事が出来るんだって! こんな奴らにやられたくない! 一人でも多くブッ飛ばしてやりたいって思ったわ!」
「容子……」
「あたしも同じだよ、良さん? やられるくらいなら、例え一人だけでも焼き殺してやるって思ったもん!」
美月も同様に言ってくれた。
年頃の女の子の口から聞くには些か抵抗のある物騒なセリフだが、今の良二には救いだろう。
「だからさ、良さん。『次は気を付けるように』って事にしようよ。お互いにね……」
「…………」
変わっていたのは良二だけではなかったようだ。容子も変わってきているのだ。
「結局ラーさまに助けられたけど、それも黒さんの人脈のおかげだし、こうしてみんな生き残ったんだもん。容子の言う通り、次から気を付ければいいんだよ」
美月もまた変わってきた。召喚の夜、一人で泣いていた美月はもういない。
「そうか、な……」
容子たちの言葉をかみしめる良二。
「そう、だな……うん、わかった……二人とも、ありがとう……」
美月と容子は笑顔をもって良二の礼に答えた。
「食べようよ」
美月がそう言うと、皆食事を再開した。
良二は、思いつめていたさっきよりも、食事が美味しく感じてるのがちょっとおかしかった。
コンコン……
「リョウジさま……」
食堂の入り口から、エルフメイドのシオンの声が聞こえた。
「はい、なにか?」
「ライラさまが、お見えです」
シオンが言うと同時、驚いた良二が「え? ライラが?」と言い終わるより先に、ライラが食堂に飛び込んできた。
「リョウくん!」
「ライラ!」
良二はまた食事の手が止まった。
こちらは遊撃隊隊長居室内。
先程までここで寝ていた良二たちは既に食堂に行ってるが、誠一はまだこの部屋のベッドで横たわり、体に纏わりついた寝汗をシーナに拭いてもらっていた。
部屋中央では机を挟んでラーとホーラが座っている。
で、
「それで?」
「ん、その……大体の事情が把握できまして。セイイチさまを傷つけたのが、あの連中だとわかりまして……」
「で?」
「よく見ると……もう、こんな薄汚い、穢わしい輩のせいでセイイチさまが傷ついたかと思うと頭にきて、連中の下卑た顔を見てムシャクシャして来まして……」
「ムシャクシャして?」
「ムシャクシャして……やりました……」
「今は?」
「反省しております……」
などとお約束の取り調べ、のような事をしている二人。
「メーテオール猊下からも大魔王陛下からも、他の界には促す事はしても、直接手を下すのは極力さけよと、事あるごとに言われておるだろうが。特に我らの立場と能力を鑑みれば!」
「も、勿論、重々承知しておりますわ。あそこにはそれを意図して向かったわけではありませんし、たまたまあのような状況で……」
「セイイチら異世界人関連は我が担当することになった事でもあるし、事情も事情、手心加えてやりたいのはやまやまなれど、職権の乱用と言われてしまいかねんからなぁ」
「お言葉ですがホーラさまだって、もしもあそこに居合わせれば!」
「そこだぞ、問題は!」
「何ですの!?」
「セイイチの危機に最初に駆け付けたのは貴様だ、それは認める。だから奴らの頭目は貴様が料理するのは道理だが、なぜすぐに我に知らせん! セイイチをあのような目に合わせた連中の、せめて二番目をなぜ我にやらせなんだ! いち早く知らせておればあの外道ども、時次元回廊で首引っこ抜いては復活を一万回喰らわせてやったものを!」
良くは分からないが時次元回廊とは、意識をある出来事が起こった前の状態にタイムリープの様に移動させ、苦痛等をループさせる技らしい。
てか、直接手を下すのは極力避けるのではなかったのか、最上級神サマ?
「ですから、すぐには楽には死なせず、苦痛の無限輪獄を与えてやったのですわ! 同じセイイチさまの奥の同志として抜け駆けの如き結果になったのは……は、反省しておりますわよ」
「……とにかく、始末書は書いておけ。そちらの魔王府向けにもな」
「わ、わかりましたわ」
などと、責めどころにイマイチ疑問の残る誠一だったが、天界、魔界の事でもあるし、苦痛の永遠ループ技など物騒な刑罰の話題も絡んで冷や汗は出していたが、口を出すのはやめた。




