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鬼来たる

「クロダさま! はい、はい……はい! わかりました!」

 誘拐事件対策本部内、その机の前でフィリアは誠一からの念話を受け取った。室内の全員がフィリアに注目する。

「クロダ少佐からです。救出作戦は成功! 特別遊撃隊はカリン殿下を無事保護致しました!」

 おおおお━━━━━━!

 その場にいた全員から一斉に歓喜の声が上がった。

 歓声の中で互いに握手し、互いに抱き合い、いがみ合っていた内務省と軍の高官も肩を組みあってこの吉報を喜んだ。

「よおし! 近衛団、王都軍、魔導団は直ちに出動! 警務隊の誘導に従って各担当拠点を速やかに制圧! 犯罪集団を殲滅せよ!」

 ははーっ!

 カイエンの号令の下、メイスから(もたら)された情報をもとに立案された作戦要綱に従い、三軍の司令官と警務隊士官が直ちに行動を開始した。

 軍以外の関連省庁の高官、官吏らも各所に通達するために次々と部屋を出ていった。

「ふうっ……」

 フィリア他、自分の側近だけになった本部で、カイエンは後ろに倒れるように、安堵の溜息と共に椅子に腰かけた。

「兄上、お疲れ様でした」

 フィリアも、自身の安堵感も浮かぶ笑顔でカイエンを労わった。

「其方もな。まったく寿命が縮んだよ……」

「お疲れ様でした、殿下」

 続いて、拠点情報を持ってきたメイスがフィリアを労わる。

「あなたのおかげよ、本当にありがとう」

 フィリアもメイスに礼を述べ、固く握手する。

「私からも礼を言う、其方からの情報が無ければこの作戦は成功しなかった。本当にご苦労であった」

 差し伸べるカイエンの手をメイスは両手で受取り握手した。

「すまんなフィリア……」

「何のことでしょう?」

 カイエンの突然の謝罪に、フィリアもメイスも少し怪訝な表情を浮かべた。

「此度もクロダら特別遊撃隊が一番手柄であった。本来なら国王陛下から叙勲されても可笑しくない功績だが、例の事情もあり、これを表に出す事は出来ない。許してほしい」

 魔導団部隊が王女を救出した事にはなるが、特別遊撃隊員、かてても良二や誠一らの名は出ない、出せないと言う事だろう。例の計画に関連した諜報工作の一環で、せいぜいが特別遊撃隊なる特殊部隊が秘密裡に動いたらしい……そんな眉唾な噂程度しか流れないであろうと。

 カイエンの神妙な謝罪の言葉にフィリアはフッと微笑むと、

「彼らはそのような事は気にしませんわ。自分たちの働きで誰かが喜んでくれる。それこそが彼らにとってなにより代えがたい勲章なのですから」

と、良二らの思いを代弁した。

「借りが出来たな……」

「今後とも、よしなに?」

 兄妹はひとしきり笑いあった。


                ♦


 サンダ通り、倉庫近辺。

 しばらく泣き続けたカリンは、その疲れと安堵でまた、良二の腕の中で寝息をたて始めた。

 やがて、連絡を受けた近衛団とアマテラ大使館員・武官らがこちらに赴き、カリンを保護するだろう。それで任務は終了である。

 彼らを待つ間、良二はアイラオがカリンに施した技を質問してみた。

 あのままだったらカリンは精神崩壊すらあり得たかもしれない。それを救ってくれたアイラオのあの技は、やはり8魔王級ならではなのだろうか?

「ああ、あれ? カリンちゃんのトラウマの元にボカシをかけてあげたの」

「ボカシ?」

「そう、この体験の記憶は本人は消してしまいたいだろうけど、消しちゃダメなの。有ったことを無くしてしまうってのは結構危険なことなのよ。欠落した部分を補おうとして、その恐怖を何らかで補填するような力が働いちゃうのよね。これがどんな形で現れるかその時まで分からなくてぇ、却って悪化する事も有るからタチが悪いの。だから暴行を受けた事実は忘れずに、なにが迫ってくるかをボカシちゃったのよ」

「自分の心の中で再現性を低くし、また同様の事が身に降りかかるかもしれないと言う恐怖感を薄めようってことですかな?」

 アイラオの説明に誠一が推測を交えて聞く。

「まあ、大体そんな感じかな? こういうのって言葉にするの難しいんだよね~」

「つまりアイラオさまは心を読んだり、操作できる能力をお持ちなんですか?」

 容子もアイラオの能力について聞いてみる。

「そう、心を直すのも壊すのも得意だよ」

「壊すって、一体どう……あ!」

 心を壊す、で反応した良二は、どういうことか聞こうとしたが、フッと思い当たる節が浮かんだ。

「そ! あの倉庫の入り口で転がってる連中。あれ、あたしがやったの」

「どんなふうですかぁ?」

 と、メアも混ざってきた。

「ん~、普通、頭の中って言うか心って言うか……その中じゃ無数の点と点の間を線でいろいろ繋げてるわけだけど、私が念をかけるとそれがバラバラになっちゃうの。そうなると、例えば歩くときには身体は立っている訳だけど、歩くと立つの間の線を切っちゃうと、歩けないし立てなくなるわけ。で、あんな風にバタバタ倒れちゃうの。でも一本一本狙ってるわけじゃなくて、その辺、適当にまとめて切っちゃうから……最悪廃人だね、テヘ!」

 ついでにペロッ。

 いや、テヘじゃねえし、ペロでもねえし。サラっと、とんでもねぇ事言ってるし。念を送るだけで精神崩壊とか、廃人にしちまうとか、睨まれたら正に手も足も出ない訳で。

「おかげであたし、絶望の暗黒魔王なんて言われててねぇ。やだなぁ」

 可愛らしい外見だけど、やっぱりラーさまやホーラさまと同じで怒らせちゃいけない人なんだ。しかし、それでいて回復魔法は不得手とか……と不思議再認識する良二であった。

「ラーさまは大丈夫かなぁ?」

 美月がボソッと言った。

「ん? ミツキお姉ちゃん、ウチのお姉ちゃんの心配してくれてるの?」

 アイラオが意外そうな顔で美月に聞いた。

「え? いや、あ~、何と言うか……」

 多勢に無勢。しかも妖艶な女性が1人でゴロツキ数十人を相手に立ち向かうなど、普通なら大丈夫どころか絶対有り得ないシチュである。普通なら……

 天界の最上級神や魔王クラスは、今までの情報から戦略兵器級の能力を持つと推定できそうなわけで、その一角たるラーさまも、そんじょそこらの愚連隊、いや軍隊とて敵わない、と想像するのは容易なわけで。

 良二としても、ラーさまの無事を危惧するのは却って不敬かも? と思い、

「あ、いや~、やり過ぎて皆殺しにしちゃうとか~。そっちの方の心配が……」

などと、取り敢えず持ち上げる感じでフォローしてみた。で、アイラオが笑って答えてきたわけだが、

「皆殺し~? んなわけないじゃん! ウチのお姉ちゃん、そんなに優しくないもん!」

「ですよね~。って、今なんて言いました?」

皆殺しにする方が、優しい……そう聞こえた、が?

「多分連中、生きることも死ぬことも出来ずに苦痛だけがループする、無限地獄とでも言うのかな? それに落とされてると思うよ」

「む、無限地獄、ですか……」

 死ぬ事も生きる事も出来ないってところだけで、良二くんちょっと冷や汗。

「なんかねえ、脇か胸のどこかの神経だかツボだかを焼き付けるか切るかすると、そうなるんだって。お姉ちゃん得意の光針でそこを貫いちゃうんだか縫うんだか」

「光針?」

「おじさんの光剣に近いかな? 剣ていうよりマジで針なんだけどね、めっちゃ細いの。 そういやお姉ちゃんは堕天で元神様だって知ってる?」

「ああ、確かメイスさんがそんな事を言っていたような?」

「お姉ちゃんはね、元は光を司る最上級神でラー・フロムポータリア・レイサーって名前だったんだ~」

「最上級神? ホーラさまと同じ?」

「そう、ホーラお姉さんとウチのお姉ちゃんは、そのころからライバルでねぇ。よくやりあってたから」

「実力が拮抗してるんですか?」

「まあね~。ホーラお姉さんは時の神様だから時間止めて攻撃するし、お姉ちゃんは元光の神様だから光の速度で攻撃するし。これってわかる?」

「……り、理論上は何となく……ちょっと……イメージは出来ませんけど……」

「だよね~、眼に見えないもんねぇ。だからお姉ちゃんにもの投げたり、矢を撃ったりしても光の速さでよけるもんで、あたしたちからは矢がすり抜けてるように見えちゃうんだよ」

 なんか、良二や容子らの頭ではとても理解しきれないお話しだと言う事は間違いなさそうである。

 しかし先ほどの光針なるものは、恐らく地球で言うところのレーザー光線辺りであろう事くらいは分かった。

「でも、天界で光を司っていた神さまが、今は夜の魔王様ですか?」

 と、容子がなんとなく呟いた。アイラオも容子の言葉に続ける。

「そうなんだよねぇ。まあ、夜のアレがお盛んだからね~。あ、でも昼が嫌いとかそういうのは全然ないよ? なんたって元光の神様だし、その時のスキルはそのままだし。それに最近お姉ちゃんが狙ってるのは、人目のない真昼間の野原とかで、お日様の陽を浴びながら、おじさんと二人っきりでおっ始めること……」

 ガンッ!

「いったあぁ~い!」

「なに言わなくていい事をぺらぺらお話ししてますの!?」

 いつの間にか歩くフェロモンがやってきていた。

 アイラオちゃん、またまたたんこぶ。


 言わなくていい事……誠一は思った。

 つまりそれは、有ること無いこと、とか、愚にもつかない話とか、嘘八百とかそう言うのではなく……いや、要するに……

 アイラオが言っている事は、デタラメでも冗談でも無いと言う事であり、いつか自分に降りかかる……誘われる?

 誠一は塞がったばかりの傷が、また開きそうな気分になってきた……で、聞かなかった事にして、とりあえず考えるのはやめようと。青姦なんぞ全く趣味ではない。


 色々な意味で肝を冷やしまくりの長い夜も、とりあえず終わりが見えて来て皆の呼吸も落ち着いてきた頃。不意に、

「ん?」

メアとシーナのケモ耳がピクピク動いた。

「蹄や馬車の音……クロさん、応援が来たっすよ!」

 言われて全員が耳を澄ます。確かに、大勢が行軍する足音、装備が擦れる音が近づいて来ているのが良二ら異世界人組にも分かった。

「そうか……多分、大使館員も同行しているはずだから、彼らに王女を預ければ任務は終了……う!」

 誠一は安堵の声を上げようとしたが、傷が疼いたので上げるのは唸り声になってしまった。それを見て、すぐに反応するラー。

「まあ、なんてこと! アイラオ! セイイチさまのお怪我の治療が終わってないじゃありませんか!」

「あ、ごめん! カリンちゃん優先してくれって言われて」

 言われてアイラオは急いで追加治療を始める。

「リョウジさま、私たち、先にセイイチさまをお屋敷にお連れして、治療を続けたく思います。この後の事、お任せしてもよろしいでしょうか?」

 ラーが焦って懇願する。良二としても、少しでも失態の穴埋めをしたいところ。

 何より誠一の無事を!

「はい、大丈夫です! 黒さんのこと、よろしくお願いします!」

 ラーはホッとした微笑で、それに答えた。

「これだけ力使っちゃったからね。多分天界にも洩れただろうな。確かに早く退散した方がいいかな~」

 と、アイラオ。ラーも応じる。

「そうですわね。では鬼の来ぬうちに……」

 と、誠一を引き連れて遊撃隊本部へ転移しようとした矢先、

「待 て !」

背後から低く重たく、ゆっくりとしながらもドスの効いた太めの声が二人を襲った。思わず背筋がビクッと引き攣るラーとアイラオ。

「その、ここに来る鬼、とやらが、一体、誰のコト、なのか、説明して、貰おう、じゃ、な い か」

 ラーとアイラオは自分の首を声のした方へ、錆び付いたドアノブをまわすような音を立てながら向けた。

 そこには……鬼の洗濯板が立っていた。

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