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救出へ 2

「なめるな若造!」

 高官の怒鳴り声が部屋内に響く。

「貴様ら如きの首にそれほどの値打ちがあると思うてか! 己惚れるな!」

 と、ほぼ罵倒である。

 そう言われるのは、まあもっともだと言える。見た目には、二人は単なるひよっこでしかない。

 だが、良二らの意を酌んだ大物が、呼応して名乗りを上げて、場の空気が変わった。

「では、私の首も差し出しましょう」

 フィリアだ。

「で、殿下……!」

「私でも、まだ足りませんか?」

 フィリアもまた、良二に乗ったのだ。

「フィリア、冗談でもそのようなことは口にするものでは無いぞ」

 勇ましいのはまことに結構だが……妹よ、兄の気持ちも考えてくれ、と言わんばかりに、カイエンが釘を刺す。が、フィリアは意に介さず、

「お言葉ですが冗談など言っているつもりはありません。何より私は、この首を差出す事態になど、至らないと信じておりますので」

まさにしれっと言ってのけた。

「ふははは」

 今度は中年男の笑い声。そちらに着目すると、

「ならば本官も首を賭けねばなりますまい」

なんと、今度は警務隊の士官もが乗ってきた。

「人身売買組織、麻薬取引、遊撃隊には随分世話になっております。ここで知らん顔していては我が息子共に会わせる顔がありませんわ」

 士官は良二たちを見て不器用にウィンクして見せた。

 正直なところ、「あんたまで出て来んでもええのに」的な良二と容子は、軽い苦笑いでその力み過ぎなウィンクを受けた。

「あ~もう、ここまで! ここまでだ! これ以上、首が増えてはかなわん! その首を拾って抱える私の身にもなってくれんか?」

 ここまで来て、もう一人の大物が声を上げた。と言うか音を上げた。

 見ればカイエン王太子がお手上げポーズで首を横に振っていた。

「全く~。だから王女が王宮を離れて、一人暮らしなどするなと反対したのだ。余計なところばかり逞しくなりおって」

 お気の毒さまです、お兄さま。

 そのお兄さま、フンッと気合いを入れて顔を上げ、意を決した眼で良二を見つめると、確認するように聞いた。

「中尉、そなたの隊長の名はクロダ少佐だったな?」

「はい!」

「わかった……命令!」

 ザッ!

 カイエン王太子の号令に、部屋の中の全員が不動の姿勢をとる。

「只今より、カリン王女救出作戦を発動する! 作戦司令官は魔導団特別遊撃隊長クロダ少佐とし、我、カイエン王太子の名において作戦終了までの間、王都における全ての権限を同少佐に委任するものとする! 関係各員はクロダ司令官からの要請、要望に対し、無条件且つ速やかに対応することを命ずる!」

 ははー!

 応答の直後に、その場の人員は持ち場への対応のため、それぞれの担当部署へ慌ただしく動き出した。

「私は連絡中継のため、王宮に残ります。現在、メイスが拠点情報を持ってこちらに向かってきています。王女の身柄の確保と同時に彼らを制圧するよう作戦を立案いたしますので……吉報をお待ちしております」

 フィリアがそう言うと良二は、了解しました! と力一杯答えた。

「キジマ中尉」

 カイエンが良二を呼び止める。

「必ず王女をお助けするのだ。私は妹や其方(そなた)らの葬儀委員長になるつもりはないぞ?」

「……お任せください!」

 良二は敬礼すると、容子と共に回れ右して部屋を出ていった。


 部屋を出た良二と容子は馬の繋ぎ場に足早に向かった。

 やがて、誰もいない通路に差し掛かると良二は、不意に立ち止まる。

 そして、

「だああああああ!」

と、いつぞやのライラ初来訪時以上の溜息をついて、その場にへたり込んだ。

「くっくっく! お疲れさん! 上手に啖呵切れたわね~?」

 容子が笑いながら良二を労う。

「マジ、ホント、寿命縮むわ~! 国のお偉いさん連中相手に、良く言えたもんだよ。我が事ながら出来過ぎだわ~。黒さんも神さま相手に、よくこんなハッタリかませてたなぁ~。うわ~、手足の指先痺れてるわ~」

 言われて容子が「はい、じっとしてて」と良二の両手に回復魔法を施した。血流が回復し、指の痺れと一緒に、早鐘を打っていた心臓も和らいでくる。容子の回復魔法も順当に進歩しているようだ。

「でも、100パー、ハッタリってわけじゃ無いじゃない?」

「もちろん! 汚名返上が掛かってるし、絶対俺が助けなきゃと思ったしね」

「俺が、じゃなくて、俺たちが、でしょう? 全部一人で出来ると思わないの!」

「ごめん、巻き込んじゃったな」

「隊長が念話の最後で言ってたじゃない、必ず実行部隊の主力を取れって」

「ああ、望むところだったしな。フィリアさんもフォローしてくれたし」

「でもカッコよかったよぉ~? 俺の首を差し出します! なんて~」

「黒さんのノリでやっちまったけどぉ~、あ~、やっべぇ~」

 頭を掻き掻きする良二。そんな良二をにっこり微笑みながら見つめる容子。

「じゃあ是が非でも、お姫様を助けなくちゃね。あたしたちの首がかかってるんだから! さあ、行きましょう!」

 容子は良二に手を差し伸べた。

 良二もニコッと笑って容子の手を握り立ち上がった。

「ああ、行こうか!」

 二人は再び歩き出した。

 図らずも良二に手を握ってもらえて、容子はちょっぴり嬉しかった。


                ♦


 カリンはあれから一言も喋らなかった。

 一言も喋りたくなかった。

 こんなクズどもに話す敬語も言葉も何もない。犬猫に喋った方が、まだ言葉に値打ちが出るというものだ。

 今、カリンは手足を縛られ自由が利かない。

 殴られたり蹴られたりしても何の抵抗も出来ない。

 しかし連中には屈服しない。

 屈服したくない。

 最後に残った手段、それは……

 話さない事。

 謝らない事。

 どんな目にあわされても、

 例え殺されても、それだけは守って見せる。

 悲鳴も上げずに死んで見せる。

 王女カリンの最後の抵抗……


「すまねえなぁ王女様。ウチはしつけがなってなくてよぉ」

 などと全く心にも無い事をほざくユズ。

「おい、邪魔だ、こいつ放かってこい」

 ユズは蹴りまくって気絶した三下の処理を下っ端に命じた。

 言われて下っ端がイヤそうにトロトロ動いて、三下の身体を引き摺って行った。  

 その間カリンは、連中をほぼ無視していた。

「ん?」

 ユズはそんな意図的な無視をしっかり見抜いていた。

 ガン飛ばされたり、無視されたりには何故か敏感で、何故かそれがムカつく、そんな性格なのだ。

「おめえ……なにシカトこいてんだ?」

 大した理由などない、そういう頭の作りの持ち主なのだ。

 言葉が話せるだけの野生動物。それがカリンの評価。

「おい、こっち向け」

 ユズやデスカ、そしてここに群れてる連中はそんな輩なのだ。

 少なくともカリンはそう思っていた。ほとんど魔獣だと。

「向けっつってんのが聞こえねぇのか?」

 アマテラ王国にも、こういう輩はいる。

「……ざけんじゃねぇぞ?」

 そういう輩から臣民を守る、カリンは幼い時からそれも言われ続けてきた。

 そういう連中の業を引き受け、臣民の暮らしを守れ。

 カリンは、今は亡き先代の国王であったカリンの祖父の膝の上で、そう話してもらっていた。祖父亡き今となっても、忘れた事は無い言葉だった。

「ざけんじゃねぇぞ、コラァ!」

 ドカッ!

 カリンの腹にユズの蹴りが入った。

「ゴフォ!」

 衝撃が腹から脳天に突き抜けるように走った。肺も心臓も一瞬止まったかと感じるほどの苦痛がカリンの小さな体を襲う。それでも何とか呼吸を維持し、体をねじり痛みをこらえるカリン。

「なんだぁ? お姫さん……俺らには、そのお目めで見る値打ちも無いのかぁ?」

 ドスッ!

 もう一度蹴りが入る。

「ぐぅう……」

 うなり声は出てしまう、しかし喋ってはいない。目も合わさない。

「なめんじゃねぇぞ小娘がぁ!」

 ドスッ! ドム! バスッ!

 蹴られ続けるカリン。一頻(ひとしき)り蹴りまくったユズはカリンを引き擦り起こすと、今度は顔を平手打ちした。

「王女様は常に上から目線かぁ!」

 パァン!

「何が王族だ! 何が王女だ! たまさかそこに生まれただけだってのによう! それのどこが偉いんだ? そんなに偉いんなら逃げてみろよ? 俺の手から逃げてみろよ、おらぁ!」

 パンパンパンパン!

 連続の平手打ち。一発打たれるごとにカリンの頬が、どす黒い紫色に変わっていく……

「どうしたコラ! なんとか言えやクソガキ!」

 ユズの平手が拳に変わった。口や鼻を狙われ、口から鼻腔から血が噴き出し始める。

「うら! うら! うらぁ!」

 ユズは取り憑かれたように殴り続けた。カリンの顔のいたるところが血で汚れ、腫れ上がるもユズは拳を止めず、目を狙い、耳を潰す。

 だがカリンは喋らない、謝らない……

 意識が遠くなってきた。もしかしたら、二度と目覚めないかもしれない。

 でも、こいつらに謝るくらいなら……目覚めなくても、構わない!

 カリンは最後まで、誇り高きアマテラ王国第一王女であり続けた。


「何だよカシラ、あいつ止めたくせに自分は……」

 さすがに他の連中も、異常に見えて来たらしい。

「デスカ兄い、大丈夫っすかねぇ? あの娘っ子、死んじまうよ?」

「だったらおめぇ、止めてこいや」

「え、いや」

 デスカもやり過ぎなのはわかっている。しかしそれも黙って見てなければ自分は(ユズ)の次の標的になる。さっきの三下のように。

 だから逆らわない。

「いいさ。城の連中には生きているとさえ思わせておけば、死んでいようが生きていようが……」

 かまわねぇ、そう言おうとした瞬間、デスカは目もくらむ閃光と、鼓膜が悲鳴を上げる程の轟音に襲われた。

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