救出へ
王宮ではカイエン王太子を頭に、カリン王女行方不明事件改め、誘拐事件対策本部が設けられ、良二の証言による人相書きの検討を行っていた。
「カムリ・ユズ……ユズ一味の頭目ですな。この額傷はユズの腹心、ハン・デスカで間違いありますまい」
人相書きを見ながら、王都内の治安を預かる警務隊の士官が説明した。
「いわゆるファミリーかね?」
カイエンが士官に尋ねた。
「いえ、ファミリーに属さぬ、はぐれ者らの集まりです。ファミリーはこれほどの無法を行うことはありません」
所詮はみなヤクザ者ではないのか? カイエンはともかく、その周りは連中に一線を引く警務士官の言動に、少々の疑問と不快感を持っていそうだ。現場の実情を知る者と知らない者の差か。
「だとすれば、活動域、拠点等の特定を王都軍や警務隊が行うには危険が伴うと考えます。本事件は今までの慣例とは違った対処が必要になるものと……」
フィリアが意見具申。
「どう言う事ですかな? 王女殿下」
側近の一人が聞いた。
「ファミリーならば頭目を中心に、地に足の着いた拠点を持っております。しかるにこの様な、これと言った拠点を持たない集団は、その身軽さゆえに軍が動きを見せればすぐに別の拠点へと流れてしまいます」
「ならば、それらを一斉に攻めれば行き場所など無くなりましょうぞ」
「いや、そうは簡単には!」
側近の意見に士官が異議。
「一斉に攻めるとなればそれなりの規模の部隊を動かさざるを得ません。そうなれば、連中に気取られる可能性も高くなります。それに標的場所が不明の段階では、部隊の適切な編成も出来ず、場所がわかって再編成ともなれば時間的な損耗が……」
「その間、カリン王女の身の危険が続くか……」
カイエンが力無く漏らす。
「まずは王女殿下の安全の確保。その一点に集中すべきかと」
「ならば身代金を払ってでも、カリン殿下の無事を確保するべきでは?」
政府系の高官らしい男が言った。だが即座に、
「内務省としてはそれでいいかもしれんが、事はそれでは済まない。王国が犯罪者に膝を屈するなど!」
軍部から反論が上がる。次いで他の部門からも。
「外交省としても同意出来ません。これで営利誘拐を容認するようなことになれば、他国でも同様の事件を誘発する恐れがあります。我が王国はそれの原因を作った国とみなされ、これからの他国との交渉時に風下に立たされるのは明白ですぞ?」
「まして、それで人質が戻ってくる保証もありません。弱気を見せれば更なる要求も!」
反論、批判が相次ぎ内務省が口をへの字に曲げた。
「あの時気付いてくれておればのう。みすみす、さらわれおって!」
吐き捨てる様に愚痴る内務省高官。
八つ当たり的に非難されるも、良二には返す言葉が無かった。思わず目線を落としてしまう。
――その時、最初に王女様見失ったのは誰よ!
同じく臨席していた容子は、ムカつく衝動を抑えるのに精いっぱいだった。
「今、それを言ってカリン王女が帰ってくるならいくらでも言うがいい。そうでなければこの問題が解決した後にせよ。今は今後の対策だ」
カイエン王太子が内務省に釘を刺した。
低頭する内務省高官。対してカイエンの気配りに、ちょっと溜飲が下がる容子ちゃん。
「私の配下にファミリーとパイプを持つ者がいます。彼らに捜索を依頼するのはいかがでしょう? 軍や関係者が動けば目立ちますが、彼らなら市井に溶け込めますし。勿論、非公式にですが……」
フィリアが提案した。
「名案とは思いますが、王室・政府関係者がそういった輩と取引と言うのも……」
「ですから、部下の暴走と言う形で。後の処理は私の方で……」
フィリアさん、結構あざとい。位の高い人は裏と表があって当然、とは誠一の言葉だが、目の当たりにすると、まだ若い良二には結構衝撃的だ。
だが、そう言ったフィリアの顔が何か悲しげに見えたのは、良二や容子の気のせいではあるまい。
と、そこへ、
(魔導団特別遊撃隊各員へ!)
「黒さん!」
「隊長!」
誠一から緊急念話が入った。
(カリン王女の現所在地を特定! 各員各個に現地へ向け前進せよ!)
「メイス! やってくれたのね!」
フィリアが高揚した声で口走った。彼女にも念話が届いているらしい。
(本夕刻時点のユズ一味の各構成員潜伏場所も判明。王女殿下救出と同時の制圧行動を軍へ要請されたし!)
残り少々の補足説明後、念話は切れた。捕捉の中には、件の倉庫の場所も。
「どうかしたか? フィリア」
念話スキルを持たないカイエンが身を乗り出してきた。だが、妹の明るくなった表情を見て良い情報がもたらされたのでは? と期待する。
そのフィリアは、先程とは変わって、力強い笑みを浮かべながら答えた。
「どうやら部下がすでに暴走してしまったようですわ。カリン殿下の居場所が判明いたしました!」
「確かか!」
「はい、信用度は極めて高いかと!」
おおー!
いきなりの核心情報に本部内が騒めいた。
「で、では、出動できる全軍をもって救出作戦を!」
高官の誰かが進言。しかしフィリア。
「それはしばらく! 先程も申しましたが、軍が大規模に動けば相手に察知されます。少数精鋭の決死隊が一番の最適解かと」
「しかしそんな部隊、今から編成は……」
「私どもにやらせてください!」
その声に部屋中の全員が注目した。全ての目が、叫んだ良二に集まった。
「我が魔導特別遊撃隊が、必ずや王女殿下を救出いたします!」
良二がカっと眼を見開き具申した。だが幕閣の中からは、
「しかし君たちはせいぜい5人か6人だ聞いとるぞ。それで成功するわけが……」
と、当然の不安と疑問がでてくる。実績自体は申し分ないが、相手は下手をすれば数十人かそれ以上の可能性も有り得るのだ。
「キジマ中尉だったな、その心意気やよし! しかし万が一にも失敗は許されんのだ! もしも失敗してしまったら!」
「その時は、この首斬り落してアマテラ王国へ差出してください! せめてものお詫びに!」
「私も!」
良二は声の方へ振り向いた。言わずと知れた容子の声だ。
「私の首も差出します!」
良二は容子を見つめた。若干怯えて震え気味ではあるけれど、自分と運命を共にしようとしてくれる思いを感じる、そんな眼だ。
しかし……




