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カリン誘拐 3

 ここはどこだろう……頭がボーっとする……目に見えるものも、なんだか焦点が合わない……

 暗い……夜?……窓……明るい……赤い……夕方? 

 ……床、冷たい……

「脅迫状は届いたはずだ……」

 ……声?

「金貨1万枚、出しますかね?」

 ……誰?

「出すしかあるめえ、国賓を見殺しになんか出来るかよ」

 ……脅迫……金貨


「しかし、思い付きで、しかも即興でやった割には上手くいったもんだなぁ」

「潰れた旅芸人一座の衣装がこんな事で役に立つなんてな」

「借金のカタには安すぎると思ったが、世の中どう転ぶかわからんな!」

 男どもは酒を煽りながら何やらくっちゃべっていた。

「金貨一万枚か~。一生左団扇だぜ!」

「気のはえぇ奴だな。誘拐ってなぁ金の受け取りが一番やべぇえんだぞ?」

「受取方法ってどうするんすかねぇ?」

 机の周辺には5~6人が座っている。その周りにはその倍くらいの若い連中が何やらごそごそ動いてる。

「カシラァ! 受取方、決めてんすかぁ?」

「今日の脅迫状には書かなかったよな?」

 口調のガラの悪さはほぼ同じレベルだが序列が良く分からない。

 カシラと言うのが天辺か次席あたりだろうがタメ口の奴もいるし。

「……船、考えてるんだ」

 カシラと呼ばれた男は面倒くさそうに答えた。

「船に乗せて川を下らせる。半日以上かかる距離まで流させる。人は乗させねぇ。周りにも岸にもだ。人目のつかないところで夜間に回収して山の中へ向かう。まあ、そんなところか」

「上手く行きやすかね?」

「その場で人質と交換だと言い張るだろうな」

 カシラと呼ばれた男の横に座っている、額に傷のある男が言った。

「異論だの反論だのは許さねぇ。明日届ける脅迫状からは小娘の指1本ずつ付けときゃ文句も言わねえだろうさ」

 おー、おっかねぇ~、とか手下らしい連中がはやし立てる。

「とにかく最近、赤字続きだ。デカく稼がないとなぁ」

 額傷の男がこぼす様に話した。

「この間の、ヤクの取引潰れたのは痛かったっすね、デスカ兄ぃ」

「甘く見ていた。周りの張り込みに軍兵士はいないはずだった」

 デスカと呼ばれた額傷が忌々しそうに話し出す。

「全部で6人……制圧するならその倍以上が得物隠してすぐ踏み込めるくらいの距離でたむろしてると踏んだんだが、そんな気配はなかった。通りすがり装って数えてたが周りにいたのは15人、その内11人が女だぞ。だから俺も奴らに指示して、その場を去ったんだが……くそ!」

「イロのバイもやられちまったしな、災難続きだ」

 カシラと呼ばれている隻眼の男は潰された人身売買アジトのことを嘆いた。

「お?……カシラァ! ガキ、気が付いたぜ」

 言われてカシラは少女を見た。手足を縄で拘束された少女は、何とか起き上がろうとしたが、身体がしびれているみたいで言う事を聞いてくれない。

「あんたたち、誰よ……」

 少女は何とか声を絞り出した。

「ああ? うるせえよ、黙ってろ」

 下っ端らしいチンピラが凄んだ。

「おいおい失礼なこと言うんじゃねぇよ? このおチビちゃんはこれでも王女殿下だぞ? けへへ!」

 とか言いながら下卑た笑いで体を揺すっているヘラヘラ顔の男。

 少女は周りを見た。そしてできる限り自分を見た。

 自分は縄で手足を拘束され、ここは薄暗い建物の中、周りはヤクザ、チンピラ、愚連隊の類の人間しかいない。その連中は身代金がどうこうと言う会話を続けていた。


 さらわれた……


 少女――カリンがそう判断するのに、それほどの時間はかからなかった。

「自分たちが何やってるか、分かってるの?」

 カリンは連中を睨みながら言った。

「酒飲んでまーす!」

 三下が言うと周りもへらへら笑いだす。

 彼女もこういう連中の存在は話には聞いていた。しかし想像以上の不快な連中だと、それを真っ先に感じた。同じ人間とは思えないほどの品の無さが連中の眼、鼻、口から湧き出ている。

 フンッ!

 カリンは鼻で笑った。

「おい……」

 さっきの三下の顔つきが変わった。立ち上がり、ずかずかと近寄ってくる。

 そのまましゃがみ込むと三下は、カリンの髪の毛を掴み、一気に持ち上げた。

「ぎぃ!」

 髪の毛を引っ張られる激痛に、眼を瞑り、口も歪んでしまうカリン。

「てめぇ……今、鼻で笑ったろ?」

 カリンは薄目を開けた。下品に眼と鼻と口を乗せた生物が自分を見ていた。

「なんか言えや、コラ!」

 カリンは何も喋らなかった。こいつらとはもう何も話さない、話したくない、心底そう思った。

「聞こえてんのかコラ」

 ――こんな奴と話したら、

「ふざけてんのか、おう!」

 ――こんな奴に喋ったら、

「舐めんなクソガキ!」

 ――私の言葉が腐る。

「ボケがぁ!」

 ガス! 

 三下は掴んだ髪を引っ張って、カリンの顔を床にたたきつけた。

「がっ!」

 額に焼けつくような痛みが走る。

「謝れやガキ!」

「……」

「謝れやクソが!」

 ドス! 

 今度は腹を蹴られた。

「カハ!」

 激痛に身体をよじるカリン。

「謝れつってんだろがこのボ……」

 パシャーン!

 何かが割れる音がした。何かの破片がパラパラと降ってきた。と同時に、

「はぎゃ!」

いかにも不意を食らった間抜けな悲鳴とともに カリンの目の前にさっきの三下が、頭から血を流して倒れてきた。

「おめえ……なに、商品に傷つけてくれてんだよ……」

 隻眼の”カシラ”が三下の頭を酒瓶で殴ったのだ。

「誰が勝手にシメろっつーたよ、ボケがあ!」

 カシラは三下の顔を踏みつけ、鼻を蹴り、腹を蹴った。

「す、すんません! 調子こきました! すんません!」

 ――なによ、何謝ってんのよ……謝れって言ってたの……あんたじゃん……何謝ってんのよ……みっともない……

「すんません! 許して! 許してくださぁい!」

 ――私は……

「ざけんなボケェ!」

 更に蹴り続けるカシラ。三下の顔がドンドン血でどす黒い赤に染まっていく。

 ――私は……謝らない。

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