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カリン誘拐 2

「反社組織はどうですか? 前回、あたしたち麻薬の売買を取り締まったけど、ああいう連中……」

 美月が、まだ記憶も新しいあの事件を引き合いに出した。

「王都の、主に歓楽街は三つのファミリーがそれぞれ縄張りを決め合って、しのぎを削っております。確かに彼らは金儲けには目ざとく、多少は法度に触れる行為もしますが……このような営利誘拐は彼らの矜恃に反します」

 と、フィリアでは無くメイスが美月に答えた。

「でも、あいつらもヤクザでしょ? 以前の人身売買とか」

「あんな連中、ヤクザとすら呼べませんっ」

 メイスが声を荒げた。ちょっとびっくりする美月。

「あ、すみません、つい……」

「…………」

「クロさん?」

「ん? ああ、組織に属さないフリーとか、愚連隊の類などは?」

 誠一がさらに聞く。

「ええ、もしも犯罪者集団が今回の犯人なら、そう言った連中ではないかと思われます。ただ、ああいう類の集団はファミリーの様に決まった場所に本部を構えるとかはせず、あちらこちらにねぐらを変えて蔓延(はびこ)っていますので実態が……」

「アジトの特定は難しいか……」

 頭を抱える誠一、そしてフィリア。

「とにかく経緯(いきさつ)を大使館と王宮に報告しましょう。リョウジさんには人相書き作製の手伝いを依頼されると思いますので、これより私と王宮に出向いていただきたいのですが」

「了解です。良、それと容子。殿下に付き添え」

「はい!」

「分かりました!」

 指名された二人は気合を入れて返事した。

 落ち込んでばかりもいられない、今やれることをやらないと! 良二は制服に着替えるべく、急いで自室に向かった。

「メイス、ロゼ、あなたたちはここに残り、連絡中継と不測の事態に備えて下さい。私の随行にはラークとサラを連れていきます」

「畏まりました」



 良二と容子がフィリアについて王宮に向かった後、フィリア邸の執務室では代行のメイスとロゼが詰め、今はソファに並んで座っていた。

「無事に王女が見つかればいいんですけど……」

 ロゼがボソッと呟く。

「一応、国賓の随行員と言うお立場ですが、仮にも一国の第一王女……もしもお怪我、ましてやお命を落すような事にでもなられては」

 そんな事になればフィリアを含め、エスエリア王国全体の責任問題だ。

 犯人を見つけ出して処刑するだけでは収まらない。

「……どのファミリーも今回の件には噛んでいないのでしょうね?」

 またロゼがボソッと呟くように、しかし明らかにメイスに聞くように言った。

「なぜ私に聞くの?」

「気持ちはわかるわ。だけど、動いてくれないかしら?」

「やめてちょうだい」

「……正直、王都軍に犯人集団を見つけられるとは思えないわ。彼らが動くと連中は必ずアジトを変える。連中から見れば王都軍の見分けは簡単だけど、その逆は無理。連中はすぐ臣民の中に溶け込んでしまう」

「何故王室は『草』を使わないのかしら、彼らなら……」

「外交が主に絡んでくればあの連中を使うわけにはいかないわ。その存在が他国にあらぬ疑惑を持たせてしまう、それはどこの国も一緒。戦争している相手ならともかく……」

「……」

「あなたの事を知っているのはもう、私と殿下だけ。今のうちなら……」

「簡単に言わないでよ。私があそこから抜け出すのにどれだけ……!」

「でも! 王国の、殿下の危機なのよ。ね、お願い。蛇の道は蛇、それに賭けるしか……」

 蛇の道は……この言葉を聞かされたメイスは(おもむろ)に嫌な顔をした。しかし、その表情を見ても、ロゼはなお食い下がった。

「それにねメイス、あの方を甘く見てはいけないわ」

「あの方?」

「そう、あの方は異様にカンが鋭いの! 黙っていてもいつかバレる!」

「そんな……」

「既にもう、お気づきかもしれないわ、クロダさまのカンをなめちゃだめよ!」

「お褒めにあずかり光栄です」

 不意に声を掛けられて振り向いた二人の眼に、初老男の顔が、どアップで映り込んだ。

 二人の目にはその初老男の背景に、ど ん ! なんて擬音が浮かんで見えたかもしれない。

「「わああああ!」」

 部屋に轟くメイスとロゼの叫び声。

 二人は耳を劈くような叫び声をあげながら、ソファからひっくり返ってしまった。

「いいいい、いつの間にー!」

「い、いつからここにー!」

 心臓がバックファイアを起こしたかのごとく混乱するロゼとメイス。振り向くなり10cmと離れていない距離で男の顔が迫っていりゃあ、さもありなん。

「『無事に王女が見つかればいいんですけど……』ってところから、くらいですかね?」

 などと、とぼけた口調で返事する、我らが特別遊撃隊長の誠一がそこに立っていた。

「ぜ、全然気づかなかった……」

「最近メアに『忍び足』を習いましてね」

 メイスは引きつった表情のまま誠一を見続けた。次いで、

「まさか、ど、どうして……」

と、唸るように零すように。そう簡単に気付かれてるとは思えない。そんなヘマは……そんな……

「失礼ながら、メイスさんは街の裏……暗黒街や反社的な方面に関わりとか、若しくは造詣が、と思いましてね。それならば、私からも是非とも、ご協力をお願い、したく……」

「な、なぜ、その様な……」

「『あんな連中、ヤクザとすら呼べませんっ』ですね。あの口調はやはり、引っ掛ざるを得ないかと」

「……」

「思うにメイスさんは三大ファミリーのいずれかに因縁があるご様子。事情があって(たもと)を分かっておられるが、そもそもそのファミリーとは縁を切りたいほどなのに憎みきれない、と言いますか、悪く言われると先程のように感情が出てしまうくらいには理解があり……と、そこまで考えましてぇ……もしかしたら身内、いや親子かも? くらいは想像したんですが……」

 そこまで聞いて、メイスはがっくりと項垂れた。

「それを裏付けてくれたことがもう一つ……」

 誠一は続けた。項垂れたままのメイスの眼がちょっと開く。

「こちらに来て2日目でしたか? メイスさんに天界や魔界についてのレクチャーを受けていた時の事。最上級神と8大魔王の能力は互角である、と説明なされる時に『タメ』という言葉を使い、その後『互角』と訂正なさった。普段の言葉遣いと違うあの不自然さがどうにも、まるで喉に刺さった魚の小骨みたいにずっと引っ掛っていたのですが……今日やっと取れましたよ」

 メイスは、観念するように首を左右に振った。

 そんなメイスに、ロゼは肩をポンポンと叩いて慰めた。と言うか、だから言ったでしょ? とでも言いたげだ。

「もしも……メイスさんのご身上が自分の推測通りなら……」

 誠一は、ソファから転げ落ちたメイスやロゼと同様に、床に座った。

「お願いです、メイスさん。ご協力願えませんか? このままでは殿下のお立場も危うく、それにカリン王女に何かあったら、良は……あいつは精神(こころ)に傷を残すことになってしまう。お願いします、どうか、どうか良を、我らを助けて下さい!」

 そう言うと誠一はメイスの前にひれ伏し、土下座で彼女に懇願した。

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