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カリン誘拐

 良二は混乱していた。

 ――行方不明? そんな馬鹿な……15分前に連絡? 団本部から早馬なら10分、都合25分……

 自分がカリンと別れてから、ライラの職場であるユニバーサル通商へ寄って伝言を預け、徒歩で本部に帰ってくるまで1時間強……ライラと食事したところから王宮迄は馬車なら10分程度のはず……

 カリンの無事を王宮が知るのは50分は前のはずなのに……

 もしや夢とか人違いとか……

 んなわけあるかっ、こちとらライラと初のケンカしちまってお預け食ってんだし、夢なら夢でそっちの方がいい!

 人違い?  そんなら、あの近衛兵はどういうことだ? 連中は彼女を王女だと判断して保護したのだ。彼女がカリン王女でなければ近衛兵もグルと言うことになる。何のために? いくらなんでもそんなわけは無い!

 良二の頭に血がドンドン上ってくる。自分のミスか? 自分の失態か? そう思うと自然にアツくなってくる。

「良、どうした? えらく眉間にシワ寄せてるが?」

 誠一に話しかけられて良二はハッと我に返った。今日の昼から味わった感情の荒波も相まって、妙な考えが先走ってしまった。そんな思いがつい、顔に出てしまったか。

「あ、いや、ええと……あ、そのカリン王女の人相とか、見た目の特徴とか連絡あったのかな?」

 とにもかくにも、まずは情報。あのこまっしゃくれた少女……いや、自称19歳が本当にカリン殿下なのか?

「口頭で聞いただけだが……」

 誠一は伝令から聞いたカリンの人相等を話し出した。

「身長は150cm弱、アーゼナルの極東の民族で、メアやシーナに聞くと俺たち日本人に近い顔立ちなんだそうだ。アマテラの民族衣装を着て、髪の毛は金髪に近い茶色で、巻き毛? ドリル? とかのツインテールにしてるらしい。年齢は19歳だそうだが、それよりかなり幼く見える外見だそうな」

 ズドン! 命中。

「良?」

 マズい! マズい、マズい、マズい!!

 良二の頭はまだライラとのケンカ以降のゴタゴタもあり、混乱が静まってはいない。

 そのせいもあって、どう思考を巡らせても、まだ繋がらぬ点と線の絡み方が、もうイヤな予感しか浮かばせない。

「良、どうした!?」

 さっきより、更に顔に出てしまったのであろう、さすがに誠一も良二の異変に気付く。

「なにかあったのか? 言ってみろ、どんな事でも構わん、話せ!」

 誠一に促され、良二はイヤな予感に早鐘を打ち出した心臓を沈めながら事のいきさつをみんなに話した。

 ライラとの件やカリンの身の上話はともかく、近衛兵が見つけた事、そのまま王宮に向かった事など、出来る限り思い起こせる全てを話した。

 良二の話を聞いた、その場にいた全員が、やはりイヤな予感に包まれた。

「さらわれ、た?」

 最初に口を開いたのは容子だった。次いで誠一がそれに続く。

「まず、間違いねえな。王女は誘拐されたぞ……」

 その場の全員の眉が歪んでくる。

「ホントに誘拐なの? まだ連絡が行き渡って無いとか……」

 美月が疑問を確認する……と言うか、間違いであって欲しいとばかりに聞く。

「良、その4人は近衛兵で、王宮に連れて行くと言ったんだな?」

「うん、そう言った」

「大使館じゃ無いんだな?」

「王宮へお連れする、と言ったよ」

 良二の返答を聞いて首を振る誠一。

「今現在、王宮内ではアマテラ国使節団との行事は行われていない。だから戻るとすれば、まず大使館だ。理想を言えば、発見した段階でその現状を維持し、伝令を走らせ、駆けつけたアーゼナル大使館員若しくは、駐在の武官や衛士に速やかに引き渡すのが、この世界の正道だ。勝手に移動させて何かあれば王国の責任になるしな」

「近衛兵の方なら、その辺りの段取りは熟知しておられるはずですわ」

 とシーナも追認する。

「誘拐しか無いっすね……」

 メアが呟くように結論付けると、部屋の空気が一気に重くなってしまった。

 

 ドンドンドン! ドンドンドン!

 いきなりのノック音に全員がビクッとした。

 しかし何事であろうか? この屋敷で、いつも聞かれる上品な音と違い、ノック音というより打撃音に近い。

「はい、どな……」

 シーナが返事するが早いか、ドアが荒っぽく開かれた。

 入ってきたのは、この上なく険しい顔をしたフィリアだった。

「不躾な入室、お詫び申し上げます! 事は急を要しますので!」

 いつも清楚なフィリアのイメージとは程遠い形相に、良二以下全員が戸惑った。

「殿下、如何なされましたか?」

 誠一がフィリアに問いかける。

「来訪されているアマテラ国の第一王女、カリン殿下が行方不明の報は届いているかと思います。それに関連してつい先ほど、アーゼナル大使館に身代金要求の脅迫文が届いたとの知らせが!」

 フィリアの返答を聞き、良二らの眼が見開かれる。

「クソ、やっぱりか……」

「やっぱり? クロダさま、一体それは!? 何かご存じで!?」

 フィリアに同行して来たメイスが、思わず零した誠一に聞いた。

「ハァ……良、済まんがもう一度だ。殿下に説明して差し上げろ」

 良二は再び、今日のカリンとの出来事をフィリアたちに説明した。


「そのようなことが……」

「申し訳ありません! 俺があの時に気付いていれば……」

 事情を把握したフィリアに、良二は頭を下げた。

「いえ……」

 フィリアはそんな良二に、

「目覚ましいご活躍、実績を残されても皆さまはまだ、こちらには不慣れ。加えてあまり公にも出来ない事情もございますし、リョウジさまにはやむを得ない事と考えます。それよりも今は、今後の事を」

と優しく諭す。

 良二の肩を励ます様にポンと叩くと、誠一はフィリアに問いかけた。

「で、脅迫状にはなんと?」

「今はまだ、身代金を用意しろ、とだけのようですわ」

「金額は?」

「金貨一万枚」

 金貨一万枚……良二たちの物価相場感から換算すると日本円なら10億くらいだろうか? かなりの大金ではあるが、王族としての身代金としては高いんだか安いんだか?

「最低でも相手は4人以上の訳だが、王族相手の営利誘拐がその程度で行われているとは考えにくいな」

 と誠一。続いて、

「例えばですが、エスエリア王国に不平や不満を持っている……いわゆる反政府勢力とか組織とか、そう言ったものは存在しますか?」

など、テロリストや抵抗勢力やらの事情を聞いてみた。

「はい、そういう王国に弓引く輩はいるにはいるのですが……定期的な調査や捜査の甲斐もあって、王都内にはせいぜい組織の連絡員くらいだと」

「現王室は臣民の支持も高く、不満分子は鳴りを潜めている状態ですわ」

 フィリアの回答に、メイスも補足した。

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