カリンと言う名のお姫様 9
カリンは相変わらず不機嫌な顔を継続中。さすがに良二も、何も知らずにマセガキ呼ばわりしたのは自分が悪いと思う。しかしこの外見で容子たちより歳上とか。自分より二コ下なだけってのは俄かに……いやいや、そう言う事ではない。
「ごめん、俺が無神経だった」
前までのいきさつはあるが、ここはちゃんと良二が詫びるべきであろう。が、
「いいわよ、お相子にしてあげる」
などと、いつの間にかチャラにされちまった。些か赤字感がぬぐえない良二であった。
一方カリンは、ふうっとひと息つくと、
「いつもそうなんだよね」
と、しんみり話し出した。
「今日、私たちの使節団が来ているのは御触れが回っているはずなのよね。でも、こうやって座っていても誰も見やしない……触れには私は19歳と書かれているから、実際の私を見たことない人は私の事、王女のコスプレした崇拝者くらいにしか見て無いのよ」
「そういや、さっきも……」
「そう、みな振り向きはするけど、一目でそっぽ向いちゃう。誰も信じてくれない。誰かさんが夢を見たのか、とか言うしさ」
「ん、悪かった」
やっぱ大人に見られすぎるのも、若く見られすぎるのも問題なんだなぁと思う良二。
「あなたの恋人さん、ライラ、さんだっけ? いかにも大人の女性だものね。出るとこ出て締まるところは締まっててさあ」
「まあ……ね」
確かにライラはトップモデルとは言わないが結構いいプロポーションだとは思う。
胸も爆乳ではないが巨乳・豊乳の範疇だろう。いつもレザーパンツだが、だらしなさのないピシッとした着こなしは実にカッコいい。
だが、正直なところ良二はそれらは二の次だった。それが目的では決してないワケで、気が付いたらライラはスタイルが良かった、そういうことだ、ただの結果だ。なにせ一番初めに彼女に魅かれたのはあの紅い瞳、次いで紅い髪の毛だったし。
まあ、お胸の谷間にはチラチラ目が行っていましたが……
「こういう言い方が……いいのかどうか分からないけど、さ……」
良二は一言断ってから自分の胸中を吐露した。
「俺は、ライラが君の様な外観だったとしても好きになったと思うよ」
それは良二の本心である。今日だって、スタイルのいい女を抱きたかったわけじゃない。ライラに受け入れられたかった、受け入れてもらいたかった。それが第一なのだから。
「……いいわよ、今更そんな気休め……」
「本心だよ。俺は、認めてほしかったんだ。彼女に受け入れてもらえるだけの、その、値打ちって言うか、それくらいの男だって……」
良二が言い終わると、しばらく両者沈黙。やがてカリンがこめかみ辺りを指でポリポリしながら、
「聞いてらんない! なによ、のろけまくっちゃってさぁ。ご馳走さまとでも言ってほしいのぉ?」
と、呆れるような妬むような。
「言いたかったんだよ! 惚れた相手を外見で見方変えるとか思われてたまる……か、よ……」
「……はいはい、いい相手とご縁が出来て、ようございましたねぇ?」
「あのなあ」
からかい続けるカリンに良二はあと一つ二つ言ってやりたくなった。
しかし……
「じゃあ今から私の事抱ける? 外観は関係ないんでしょ?」
とかベタ過ぎな質問を投げかけてくるカリン……と思いきや、
「……なんて言うのも野暮よねぇ……」
などと、勝手に自己完結してなさる。一つ二つ言ってやりたいのはカリンも同様か?
「とにかく俺は、ライラのことで頭がいっぱいだよ……」
と、良二が再び吐露。
それを聞いてカリンはフンと軽く鼻で笑うと、流し目っぽい視線をくれながら、
「私はねぇ、あなたの事、気に入ったわよ?」
などとほざいてくれました。
「はぁ?」
当然の事ながら、お約束な反応をする良二。両手に華のチャンスかぁ? とかそんな身の程知らずな思考は一切ない良二くんである。
「からかってんじゃないよ、まったく!」
「からかってなんかないわよ……ねえ、あなた気付いてる?」
「え? なにを?」
「私がアマテラ国の王女だと知っても、あなたは態度も口の利き方も、全然変えて無いって事!」
「お?」
あれ? そういやそうだ……フィリアさんやホーラさまの前だと凄くかしこまっているのに……どうして、か、な?
「確かに……あれ? どうして?」
「……嬉しかったわよ。普通の女として見てもらってるようで。私の前でへこへこする人は多いけど、王女だから、でしかないからね。……ねえ、あなたの名前、教えてよ」
「え? ああ、リョウジ・キジマだよ」
「リョウジ・キジマ……それで彼女はリョウくんって呼んでたのかぁ。ねぇねぇ、私はあなたの事、リョウジって呼んでいいかな?」
「え? そりゃ、構わないけど……」
「ん、ありがと、リョウジ」
ニコッと笑うカリン。幼く見える外観を残しながら、なにか大人びた、そのくせどこか可愛くて麗しくも感じるその笑顔を見て、良二は軽く感動さえ覚えた。
何か、忘れる事の出来ない笑顔になる予感……
「あそこだ! あそこにおわしたぞ!」
何やら大声で叫んでいる男がいる。
良二が声の方を向くと近衛団の制服を来た屈強そうな兵士が4人、こちらに向かって来ていた。
「近衛団? 捜索隊……かな?」
「私がいなくなったから、兄上が手配されたのかしら?」
やがて4人はカリンの元まで来ると跪き、口上を述べ出した。
「アマテラ王国第一王女カリン・カート・アマテラ殿下とお見受けいたします。王太子殿下からの依頼により王女殿下の捜索を行っておりました」
やはりカリンの失踪はすでに伝わっていたようだ。
やってきた近衛兵は如何にも歴戦の強者と言った風体で、口上を述べている兵士は隻眼で頬に大きな刀傷の跡、もう一人も額に斬り傷痕があり、それが経験の豊富さ故の凄みを感じさせる。
「王太子殿下には殊の外、ご心配なされているご様子、一刻も早く宮殿へお戻りあり、ご安堵あるよう……」
言い終わるとその兵士は、カリンに手を差し伸べた。
カリンは躊躇せずその手を取って立ち上がると、
「図らずも使節団とはぐれ、途方に暮れておりました。わざわざのお出迎え、感謝の念に堪えません」
と、王族モード全開で答えた。
さっきとはまるで別人のカリンに、良二は少し戸惑わざるを得なかった。
王女だと言うのも、どこか半信半疑なところもあったのだが、それが一気に吹き飛ばされる様な彼女の立ち居振る舞い。そして馴染みのフィリアに引けを取らない王族オーラ。
しかして、それすら何か美しく且つ、麗しく思える良二だった。
「君が王女殿下を守ってくれてたのかね?」
隻眼の近衛兵が良二に話しかけて来た。
「はあ、まあ……」
カリンの王族オーラに当てられ、返答するのも覚束ない良二。いや、先程のカリンとは雰囲気が違い過ぎ。彼女の醸し出す、見た目からは想像も出来ない麗しき優雅さが良二を包み込んでしまっていた。
「お手柄だな。後は我々が引き継ぎ、王女殿下を王宮へとお連れするから安心してくれ。ご苦労であった」
「あ、はい。お疲れ様です」
近衛兵は良二に軽く敬礼するとカリンを連れて行った。
「あ、ちょっと……」
不意に立ち止まり、良二の方に振り向くカリン。
「リョウジ?」
「あ……は、はいっ」
「あなたと出会えて楽しかったわ。ご縁があったら、いずれかでまた、お会いしましょう」
そう言いつつ、カリンは今一度にっこり微笑んだ。良二も同じく、
「ええ、こちらこそ」
と、笑みを返した。
カリンは近衛兵が用意した馬車に乗ると、もう一度良二に手を振り、王宮に向けて去っていった。
――縁があれば、か……ローマが舞台の白黒映画みたいにはならないだろうけどな~
良二は苦笑した。
ずいぶんと引っ掻き回されて、ライラとケンカ迄させられてしまったけど、今になれば……憎めないお姫様だった…… 彼女の最後に見せた笑顔を思い返し、良二はそんな微妙な感慨にふけりながら、その場を後にした。
その後、ユニバーサル通商へ寄って、明日夕方6時に迎えに来るとのライラ向けの伝言を残すと、早すぎではあるが隊へ帰ることにした。
「ただいま~」
フィリア邸に戻った良二は外出証を返納するため本部事務所に出向き、帰隊の挨拶をした。
「おお、良。なんだ、えらく早く帰って来たな? 今日もライラちゃんとデートだったんだろ?」
誠一が出迎えの声をかけた。他、美月・容子、シーナとメアも本部にいる。
「なあに~? またヘタレたの~」
美月がからかう気マンマンで話しかける。まあ夕食前どころか、午後のお茶が終わったあたりの時刻で帰って来たんだから突っ込まれるのも止む無しであろう。
「ずいぶんお早いお帰りね?」
容子が皮肉を込め……とは言い難い、どちらかと言えば何故? と戸惑っているような、勘繰っているような顔をして言ってきた。
それはそうと……
「ところでみんな制服なんか着てどうしたの? なにかあった?」
そう、今日は休日なのに全員集合、しかも制服を着用しているのである。はて?
「ああ、まだ正式な要請は無いし、お前は……ライラちゃんとアレだろうから非常呼集するのは尚早と思ってな」
はあ、お気遣いありがとうございます。無駄骨ですけど……
「それで?」
何事かな? と問う良二に容子が確認のための逆質問。
「いま、王国にアーゼナル皇国隷下の地方国家、アマテラ王国の王太子一行が来訪してるの聞いてる?」
良二が、ああ、知ってるよ、と答えると誠一がこう続けた。
「その使節団に随行しているアマテラ王国の第一王女、カリン殿下が現在、行方不明になっているそうなんだ。15分ほど前、魔導団本部から連絡があってな」
……………………………………………………え? ………………………………




