カリンと言う名のお姫様 8
「………………………………………………」
「………………………………………………」
しばし訪れる静寂……
「………………………………………………誰?」
静寂を破り、良二がそう聞くと、カリンと名乗ったツインテドリルはテーブルをバンッ! と叩いて、
「カリンよカリン! アマテラ王国第一王女カリン・カート・アマテラ!」
怒鳴った。
王国第一王女!? え? マジ? うそぉ~!
それを聞いて他の客が、ちょっと騒めきながら一斉に良二とカリンのテーブルに注目した。が、
「………………と、いう夢を見たのか?」
などと良二が言うと、注目していた客たちはみな溜息をつきながら食事に戻った。
――んだな ――こんなとこにいるわきゃねぇな ――お姫様に夢見る年頃か? とか、ぼそぼそ言っている。ん? 意外と知られてる?
まあ、本来ならここでカリンが「夢ちゃうわー!」とか突っ込むところなのだろうが、当の本人は何かえらくショック受けてるみたいだし、
「ホントに……アマテラ臣民じゃ……無いの?」
と、噛みしめるように聞き直したし。
鬱陶しい……良二はそう思いながらもカリンがあまりに驚いている様子なので、
「何度も言ってるだろう」
と、投げ槍ながらも答えた。
「わ、私の名を……」
「知らん、初耳だ」
初耳だ、がとどめとなり、カリンはガクッと俯いた。
「うそよ、私が……外すなんて……民族、部族、出生地、ルーツ……」
などとブツブツ言い出し始めるし、埒が明かない。
とにかく間違いでも何でも、自分を呼び止めた理由を聞かないと。
「で、俺を呼び止めた理由は何なの? アマテラ臣民じゃ無きゃいけない事? だったら俺、帰らせてもらうけど?」
良二は先程ではないが投げ槍っぽく言った。
「うそ……うそよ……どこがエスエリア……移住民? でもここ数年……」
カリンはまだ呆けている。もうさすがに面倒見切れないが、一応紋章付を帯剣してる以上、どこぞの王女様ってのが本当なら放っておくわけにも行かない。
いつぞやの事件では無いが、隊やフィリアの名前に汚点がついては困る。
「帰っていいかな!」
ちょっと強めに言ってみる。カリンはビクッとして、
「あ、ご、ごめんなさい!」
と、スルっと謝罪の言葉を出してきた。
「ご、ごめんなさい……私、人相や体のつくり、喋り方でその人の出自を外したこと、無くて……」
「……」
そんな事聞いちゃいないんだがな~、と思う良二。
「絶対、絶対自信があって、でなきゃあんな風に言えなくて……」
まだ……混乱してるかな~。
しかし先程ライラは、アマテラ王国とは地球で言うアジア全土に当たる地域を掌握するアーゼナル皇国の更に極東とか言っていたが、まさかアデスにおける極東っつーと、地球の日本に相当するところと同じなのか?
そういやアマテラ……? 天照か?
いやいや、アデスにはそんな神話は無かろう。神話がそのまま生きて歩いて、男つまんどる世界だし。
とは言え、そこの気候その他が日本と似たり寄ったりならば、民族もよく似た外観になることは可能性としては有り得るわけで。
エルフや獣人たちに目を奪われやすいが、ここエスエリアでも、肌の黒い人や黄色い人とか白い人とか普通にいる。地球の様に環境次第でいろんな外見の人種がいるわけだから日本人そっくりの民族がいてもおかしいことでは無かろう。
実際、カリンも日本人ぽい顔立ちだ。美月や容子らと並べば「日本から来た異世界人で~す」でも通りそうだ。
やむを得ん、もうちょっと歩み寄ることにする。
「君は外見から、その人の出自を見抜くのが得意なのかな?」
本筋とは外れるがカリンの能力から攻めてみよう。
「え? ええ、私のスキルよ。外交行事が多いから何かと便利なの。出自を見抜くから、読みが深いのか? とか思われてハッタリとか控えて来るし、侮られたり軽く見られたりされないから……」
「ふ~ん。で、俺をアマテラ臣民の顔立ち・体躯と見たわけか?」
「それ以外ありえないと思ったわ。まんまアマテラ民族だもの! ね、あなた本当にアマテラ臣民じゃ無いの? 移住したとか、それか親の代で移民とか亡命とか、それとも混血、いえ、もう純血そのもののはずよね!」
う~ん、まだ納得してないのか? まあ確かに、さっきの仮説が正しければ良二や誠一・容子らは外観上はアマテラ民族まんまかもしれん。
「親は数年前に死んでるし、それ以前も移民だの亡命だのは聞いてないね。気が付いたら俺はエスエリア臣民だった」
「そ、そう……」
間違っちゃいないよ、間違っちゃ! 嘘も言っていないよ嘘も!
「で、なんで俺に声をかけたの?」
「そ、それは……ちょっと問題が起こって」
「問題?」
「それでこちらに来てるアマテラ臣民なら、言う事聞いてくれると思って、これでも王族だし」
「ふんふん。で、その問題とは?」
「そ、その……今回、外交使節として王太子である兄上が、エスエリアに公式訪問していて」
「ふんふん、それで?」
「エスエリアは私も初めてだから是非ご一緒したいと無理言って……」
「ふん、それで?」
「兄上と一緒に城下町の視察に来ていたんだけど……町並みとかお店とか、夢中になっちゃって」
――なるほど、ショックで虚ろそうだけど、言葉は詰まっても矛盾なく話してるし、王族ってのも嘘じゃなさそう……かな?
「……それで?」
「そ、その……気が付いたら一人になっちゃって……」
「……それで?」
「すぐ、戻ろうとしたのよ、来た道を! でもほら! さっきも言ってたでしょ! ホントこの町、都市計画がなっていないのよ! 手当たり次第に拡張した、もう先の事なんか何も考えて無いって言うか! 行き当たりばったりって言うか!」
「……で?」
「戻ったつもりが全然別の場所で! そこから戻ったつもりがまた全く違った道に出ちゃって!」
「……で?」
「……どこにいるか、分からなくなっちゃって」
「……で?」
「迷子に……なり、まし……た……」
「………………………………」
「………………………………」
「……最初からそう言いなよ」
「ごめんなさい………………」
ハァ、もうやれやれだよ。こんなバカな理由でライラと初めてのケンカしちゃったのかよ、マジバカバカしい!
……まあ良二ならずとも、そう思うわなぁ。
「邪魔、しちゃったね?」
「そうだよ!」
「彼女、恋人だったの?」
「こ、恋……!」
何故だろう? 良二は恋人かと聞かれてちょっと、どぎまぎしてしまった。
相変わらず、その手の事にはまだ慣れないというか……いやいや、今日は機会を逸したとはいえ、キスもしてるんだし、恋人と言ってもいいじゃん! そうだよ、ライラは俺の恋人だよ!
「そ、そうだよ!」
慣れない言葉を吐いたせいか、良二は喉がヒリつきジュースを手に取った。
「ケンカ、させちゃったね?」
「誰かさんのおかげでな」
「いい雰囲気だったのにね?」
「全くだ!」
良二は残りのジュースをイッキした。
「筆下ろし、し損なった?」
ブ━━━━━━!
そしてジュースを噴き出した。
「プッ! アハハハハ!」
それを見てカリンが大口あけて笑い出す。
「もしかして答え合わせしちゃったぁ? マジでそうだったのぉ? ごめーん、アハハハハハ!」
もう、アデスの女はどいつもこいつも! しかも王族? 第一王女?
ファックだぜ!
「そんな言葉づかいで王族ってホントかよ? マセガキにもほどがあるわ!」
良二がそう言うと、笑っていたカリンはいきなりムッとした表情になって、
「マセガキとは何よ、これでも私は19歳よ!」
と、反論した。
「へ?」
良二は己が目を疑った。外観からせいぜい13~14歳くらいかと……
「どうせ13歳か14歳くらいだと思ってたんでしょう?」
あ、はい、そっちは当たりです。アマテラ臣民は間違いだけど、それは当たりです……




