カリンと言う名のお姫様 7
売り言葉に買い言葉、正に一触即発のライラとロリである。
見るからに火花バチバチな二人に当てられて、なんだか良二だけが逆にどんどん冷静になっていってる気がする。言いがかりつけられてるの、ホントは俺なんですけどぉ!
「とにかく落ちつけよ二人とも! 君も、いいかげん、俺を嘘つき呼ばわりするのはやめてくれ!」
良二は再度小娘を諫めた。
「そう、そこまで訳ありなのね? 原因はこの女かしら?」
へ? 何の事? 思わず良二の目が点に。ライラが何ですと?
「個人の好みに口を挟む趣味は無いのだけれど、それも限度問題。あなたも誇りある我がアマテラ国の臣民なら最低限の相手は選びなさい! こんな色香で男を誘って喜んでる様な程度の低い女はためにならないわ!」
ブキッ! 良二はライラの方向から何かとんでもない音が聞こえた気がした。
彼女をちらりと見ると、ライラの眉間にはこれ以上無理だろってくらいのシワが寄り、引きつった口元から歯が剥き出し始めている。
良二はキレたライラの顔を見るのは初めてであった。
どちらかと言うと彼女はいつも笑顔だったから。
しかし、初めて見るライラの怒った顔は確かにおっかないが……なぜか頼もしいと言うか、それすらもどこか愛おしいと思ってしまう自分がいた。つくづく自分はライラに首ったけなんだなぁと改めて思い知らされる……
って、だから、それどころじゃねえっての!
「誰が何で何を誘ってるってぇ~?」
ライラさんビキビキである。
「言わなきゃわからないのかしら? 必要もないのに胸元強調して、谷間見せびらかせているくせに、それで誘ってないとでもぉ?」
あ、余計なこと言わんでください。それ、とっても魅力的なんですから! 眼福なんですから!
「そぉねぇ~、あんたのその胸じゃあ、よっぽど無理しても谷間なんて一生お目にかかれないわよねぇ~」
ビキッ! 今度はジャリツインテの方から音が聞こえたような……
チラ見すると彼女は確かに乏しいお胸ではある。しかしホーラさまに比べれば……
「あたしには未来ってもんがあるのよ。終わったオバさんの、垂れるの待ってるだけの胸とはそこが違うのよ!」
ああ言えばこう言う……ライラさん、血管ビリビリ……
「まったく、近頃のガキは目上に対する口の利き方ってもんがなってないわねぇ~」
「無駄に歳喰ってるだけの愚か者に使う敬語なんて習ってないわよ!」
言葉を刃にしての激しい悪意の応酬。遂にライラは両手の指をボキボキ鳴らし始めた。
「小賢しい悪ガキのしつけするのも、目上の義務ってもんかしらね~」
いかん! さすがの良二も暴力までは見過ごせない、間に割って入る!
「ちょっとライラ! アツくなるなよ!」
「女同士の情けで顔やお腹はかんべんしてあげるわ。ケツ引っ叩いて皮膚の2~3枚もめくれる頃には性根も入れ替わるでしょうよ……」
なに平然と恐ろしいこと言ってくれてんの! 体罰とかしつけとかってレベルじゃねーよ! 普通に拷問だろーよ!
「落ちつけって! 相手は子供なんだから!」
「なによリョウくん! この娘の味方する気!」
「違うって! 俺は何時でもライラだよ!」
どさくさに紛れて言ってみましたby良二
「だったら邪魔しないで! このまま引き下がれるわけないでしょ! せっかくいい雰囲気だったのに全てぶち壊し……こんなのってないよ!」
「待てってば大人げない!」
良二はライラの腕をつかんでグイっと降ろさせた。彼女に暴力を振るわせたくないという思いだったのだが、ライラはキッと良二をにらむ。
「……やっぱりリョウくんも若い娘がいいの?」
え? いきなり何言って……
「そうよね! あたしなんてもうオバサンだもんね!」
「ちょ、何でそうなるのさ!」
「もういい! 知らない! あたし帰る!」
「お、おい! ライラ!」
ライラは良二の手を振り払うと足早に駆けだした。
「待てよ、ライラ!」
良二はすぐ追いかけようとした。だが、
「ちょっと! 私を放っていく気!?」
小娘が良二を呼び止める。
良二は一瞬ツインテロリを見るも、やはりライラを追いかけなくちゃと彼女の去って行った方を向いた。
だが、ライラの姿はすでに雑踏の中に消えてしまっていた。
「はぁ……」
良二は力なく椅子に座り込み、がっくりとうなだれた。
クソ、何でこうなるんだよ……
ついさっきまでの、ライラとの甘い一時がまるで幻に思えてくる。
あの時……ライラはイヤそうな素振りは見せてなかったと思う。
あのまま誘えばライラは応じてくれたんじゃないか?
彼女も「いい雰囲気だったのに」と言ってくれた。
こんな事さえなければ今頃……
童貞を卒業できなかった事がどうこうじゃない。相手は誰でも良かったわけじゃない。
俺はライラに……ライラに受け入れてもらいたかった……
体が重くなった。頭の中を高速で回っていた血が引き潮のように引いていく気分だ。黒さんが言ってた低血糖ってこんな感じかな?
全くなんだってこんなことに。
ドッカリ!
さっきまでライラが座っていた椅子にこんなことの原因が腰を下ろした。
続いてこんなことの原因はライラが食べるはずだったローストビーフサンドを食べ始めた。
「……なに勝手に食ってんだよ」
良二はイラつきながらもメンドくさそうに言った。
「お腹空いたの。それに勿体ないでしょ」
勝手にしやがれ……
「なにをこの世の終わりみたいな顔してるのよ」
ホント、人の気も知らないでとは、この事である。
「ほっとけよ」
にべもなく言う良二。
「大体あなたがウソ言い続けるからこうなったんでしょ」
度重なる、娘っ子の嘘つき呼ばわり。さすがに良二もムシっと来た。
「だ・か・ら! 俺は嘘なんか言ってない! 王国の魔導特別遊撃隊所属のエスエリア王国臣民だ!」
ドン! 良二は魔導団紋章入りの柄をテーブルに突き立て、こんなことの原因に見せた。
彼女はローストビーフサンドをもしゃもしゃ食べながらその紋章をじっと見つめた。やがて咀嚼され、小さく手頃になったサンドをごっくんと飲み込む。
そして、
「私の名はカリン。カリン・カート・アマテラ」
と名乗った。




