カリンと言う名のお姫様 3
なんとか任務はこなしたものの、最後はどうにも締まらない話で終わってしまった。
取り押さえた麻薬の売人を、誠一が警務隊に引き渡す段取りをしている隙を突いて、良二らは警務隊の目をかすめて急いで本部に戻ってメアを介抱することに。麻薬を取り締まりに行って麻薬にあてられたなど、フィリアのメンツもあり、悪い評判は極力、御免被りたいところ。
帰隊後、容子が覚えたての回復魔法でマタタビ成分を弱めてみたが、脳天直撃作用の薬物ゆえ、すぐにスッキリとはいかないらしく、メアは本部ソファに横たわり氷嚢で頭を冷やしていた。
「どう? まだ気分悪い?」
容子がメアに尋ねた。
「あ~、大分よくなったよ……まいった~」
「もう仕事も終わったし、部屋で休んでりゃいいのに」
良二が言う。
「動くと吐きそうだったっすからね~。よっと!」
メアは氷嚢を降ろして座り直した。
「クロさんは?」
「現場に残ったよ。状況説明と、師団本部へ報告にも行かなきゃいけないし」
時間は午後8時。誠一もボチボチ帰ってきてもいい時間ではある。
「でも失態ですわよ、メア先輩? 麻薬を取り締まりに行って麻薬でやられちゃうなんて、みっともないです!」
シーナが今回の事を、辛らつな口調で責め始めた。反省会突入?
「知らなかったんだよ! マタタビなんて初めて見たんだし!」
「先輩たち猫族の方の弱点じゃないですか、知ってて当然です! 私たちの失態は特別遊撃隊の失態であり、主様の名に傷がつくんですよ!」
「わかってるよ! そんなこと!」
「そもそも先輩は詰めが甘いんじゃありませんか!?」
「ああ? 一番の新参が言ってくれるじゃないかよ!」
「まあまあ、落ち着けって!」
売り言葉に買い言葉になる予感。仕方なく、良二が割って入る。
「あまりカッカするなよメア、薬が抜けきったわけじゃないんだし。シーナもだ、ちょっと言い方がキツいぞ?」
フンッ! 2人がそっぽを向く。
シーナとメアは同じく誠一を慕う者同士、お互いを認め合ってはいる。
だが同時に、誠一に少しでも上位に認めてもらおうとするライバルでもある。
こういう時は後者の方が前に出てくるものではあるが、それは今回の様に全員が無事だったから出来ることだ。負傷者、あまつさえ死人が出たりしたら、そんなことは言ってはいられない。
その点では今の方が喜んでもいい状況とも言える。
とは言うものの。
「お前たちがいがみ合ってると、一番困るの黒さんだってわかってるだろ?」
「分かってるよ……」
「……存じてますわ」
「だったら黒さんが帰ってくるまでに仲直りしとけよ? 黒さんいつも言ってるだろ? 全員生き残るのが一番の勝利だって。今回もみんな無事だったんだから、わざわざ最後にケチつけること無いじゃないか」
良二の言ってる事をちゃんと聞いているのか、いないのか。メアもシーナもブスっとしたまま返事もしない。
良二はやれやれとばかりにため息をついて、隊長席を借りて座り込む。
しかしやがて、
「…………済まなかったな」
「……」
「お前の初陣なのに泥塗っちまった……悪かったよ」
と、メアが折れた。そしてシーナも、
「いえ……私も言い過ぎました。すみません」
譲った。
意外と早い和解に良二も胸をなでおろした。
それを待ってたように、美月と容子がお茶を入れ、皆に振る舞い始めた。
「まあ、全員無事が何より! 一服しながら黒さん待とうよ」
そう言いながら美月がシーナやメアにお茶を出した。
容子も良二にお茶を勧めながら、
「副隊長が板についてきたわね?」
と、良二の気苦労を労った。
良二はお茶をいただくと苦笑しながら、
「からかうなよ。黒さんの物真似でしかないんだからさ」
照れくさそうに返した。
全員が落ち着いて、お茶を楽しみ始めた頃、
「お~、ただいま~。みんなご苦労!」
誠一が帰って来た。
「おかえりなさい!」
と、良二らも迎える。
「よ、シーナ。初陣勝利、よくやったな」
誠一は左腕でシーナを抱き寄せ、頭をなでるようにポンポンした。シーナ思わずにっこり。
次にメアの隣に座る。
「メア、気分はどうだ?」
「うん、もう大丈夫。……ごめんクロさん、迷惑かけて……」
誠一はうんうんと頷き、
「無事でいられれば、それでいいさ」
とシーナと同じように抱き寄せる。
「みんなご苦労だったね。ちょっとアクシデントはあったが作戦は概ね成功だ。特に実行犯6人全員を生かしたまま捕らえたことには感謝されたよ。連中、これから情報吐くまでたっぷり取り調べられるそうだ」
「何か人権意識低そうね~」
容子が苦笑いで言う。
「あんまりかかわりたくねぇな」
誠一も美月から茶を受け取りながら同じく苦笑いで答えた。
さっきまでそこそこ険悪な雰囲気だったので、好転した今の状況に良二は微笑ましく思った。やっぱり、仕事の終りは笑顔がいい。
「しかしあれだなあ……」
誠一がメアの頭をなでながら言った。
「マタタビの効果が猫だけじゃなく、獣人に進化したメア達にまで効いてしまうとはな。意外な様な納得の様な?」
誠一の言葉にメアは若干気落ちして答える。
「あたしも話には聞いてたけど、見たことも無かったから」
「獣人の人たちは元々の特性は受け継いでるみたいだしね。メアの俊敏さ、シーナの索敵能力……」
「そう言えば、チキュウには私たちの様な獣人はいないとか?」
「まあ、あたしたちも猿の獣人とも言えなくはないけどね~」
美月がおどけて答えた。猿の獣人とは言い得て妙ではある。
「そういや、メア達の舌ってどうなってるのかな?」
「舌?」
「ほら、猫の舌ってザラザラしてるし……」
良二が聞いてみた。
「アデスの動物の猫はザラザラじゃ無いの?」
容子も相乗り。
「いえ、野性の猫などザラザラしてますね」
「さっきからなんだよ~、あたしの舌がザラザラみたいにぃ」
ブー垂れるメア。
「じゃあ、違うって事かな?」
誠一がメアに聞いた。聞かれてメアは、
「……」
ジーっと、無言で誠一を見た。
「?」
誠一は、もしかして無神経なことを聞いたか? と一瞬戸惑ったが、メアはスッと両手で誠一の頬をはさむと、
「むふぉ!」
いきなり誠一の唇に自分の唇を重ねた。つまり強引にキスを仕掛けられたワケで誠一、思わず変な声。
「な!」
「はっ?」
まったく予想の範疇とか、方向とか、毛色とかを超えた光景に、良二もシーナも美月も虚を突かれたところではなく、容子に至ってはお約束通り、飲んでた茶を噴き出した。
メアの仕掛けたキスは軽めのライトキスではなく、舌を絡ませてのいわゆるディープキスだ。傍から見ても口内がモゴモゴ蠢いているのが良二らにもはっきり分かるほどであった。
周りにいる者を全く二の句が継げなくさせてしまうこのタイミング、なんと言うか、不動金縛りのキス?
ひとしきり唇を重ねていたメアは、やがて誠一を解放した。
そして、にこ~っと笑って、
「どうだった~? ザラザラしてた~?」
と、屈託もなく言いよりました。んで、シーナ激昂。
「な、何してんですか、先輩ぃー!」
「え? だから、あたしの舌がザラザラしてるか確かめてもらったんじゃん」
「そ、そんなの口で言えばいいじゃないですかー!」
「だから口で確かめたんだって」
ニヤリ……ハグでは遅れを取ったがキスでは先手を取れて大満足。メアちゃん、勝利のニヤケ顔。




