インターミッション 美月と誠一2
「……ねえ黒さん、正直なとこ彼女のこと、どう思ってるの? これから、どう付き合う気なの?」
いきなり美月が切り出してきた。
「どう思うって……」
と、とぼけたところで、納得するわけもあるまいなぁ。
「ああ、かわいいよ、あいつは……メアも一緒さ。かわい過ぎて正直、戸惑ってるよ……」
「あの娘達の気持ちはわかってるんでしょ?」
「そりゃあ……まあ……」
「躊躇するのも分かるけどさ。ほっとくの……かわいそうだよ」
「でも地球人……日本人のお前や容子としちゃ、4人も手玉に取るハーレム野郎なんて、もろに女の敵だろ?」
「ここはアデス、郷に入らば郷に従えじゃない? 何より彼女たちが納得してる」
誠一は、今の美月の、シーナたちを後押しするような言葉に、ちょっと首を傾げた。以前の彼女らの反応を見ればやはり……
「どうしたんだよ? 最初は俺がスケベ根性出さないように、釘刺すみたいな事ばかり言ってたじゃないか?」
「そうなんだけどね。あの娘達、ホントに一途なんだよ。それ見てるとさ……」
応援したくなってきた?
「遠くから愛でる方がいい華もあるさ。手折るべきじゃない華もね」
誠一は持っていた図面の写しを置いて背もたれに凭れかけた。
「……俺たちは10か月後には、この世界にいないんだぞ?」
「ホーラさまやラーさまは受け入れてるじゃない」
受け入れていると言うか、捻じ込まれていると言うか……
「彼女たちは悠久の時を生きてる方々だ。俺との時間なんて、それこそ俺ら人間たちが瞬きする程度の時間でしかないよ。でもシーナたちは違うだろ?」
誠一は平静を心掛けながら淡々と答えた。だが、それが却って美月をムッとさせた。
「理屈でしょ、それ。黒さんは理屈が多すぎるよ!」
「なんだと? 俺は、あの娘らの……!」
強い口調で言われた誠一は、美月と同じくムッとして、少し言い返そうとした。
誠一は感情より道理を重んじるタイプだ。理を無視しては、結局は要らぬ波風を立てるだけだと。しかし……、
「……」
それを思い留めて飲み込み、
「ん……いや、その通りだな」
と認めつつ、次いで柔らかな苦笑を浮かべた。
「おまえみたいな若い子に突かれるとはな……」
「ごめん、生意気言って……」
首を振る誠一。理屈っぽい……実は嫁からも何度か言われていたことであった。
分かっていても、中々抜けきれないでいる自分も自覚していた。
誠一は道理を重視しすぎて、感情で話すと言うか、押し通すことが苦手な性分なのだ。家長として感情だけで物事を判断しないようにしていたのが、へばりついているのだろう。
だがしかし、お互い感情を持つ人同士、それだけではそぐわないところも当然あるワケで。
「いや、美月の言う通りさ。俺は理屈に頼り過ぎている。それに美月の言葉には説得力があるしさ。お前は沢田君と、ずっと会えていないのにちゃんと堪えてる。最初の夜、お前は泣いてたけど、不安や恐怖ばかりじゃない、沢田君と会えなくなるって事も多分にあったんだな」
「…………」
「いつでも会っていられるのに、お前の立場からすれば今の俺は贅沢極まりない。てか、いい歳して理屈捏ねて避けてるのは……イライラしそうな話だわな……」
「……気付いてたんだ……」
「気付いてないのは良くらいなもんだ」
くすっと笑う美月。
全くあの朴念仁は……
「最近、沢田君との連絡はあるのかい?」
美月はその誠一の問いに、しんみりした表情で、
「うん、最近は手紙のやり取りも許してもらえてるんだ。読んだらすぐ消えてしまう情報隠蔽魔法が掛った手紙だけどね……」
話した。
「……残して置きたいのにな……」
誠一の言葉に静かに頷く美月。
「……ねえ黒さん、あの娘達はあたしたちが、やがて日本に帰ることを知ってる。それでも黒さんを好きでいたいのよ。いずれ泣くことになる、傷つくことになるって分かってるのにね」
「傷つく事を怖がってたのは俺の方……か」
「あたしの言いたいのはそんなところ、かな? ごめんね、大先輩に勝手なこと、偉そうにして」
「いや、しっかり見抜かれた……ていうより教わったと言った方がいいかな」
最初の半月は気の小さな、それでいて危なっかしい娘だと思っていたが、中々どうして成長代ろは、当然と言えば当然だが自分よりはるかに多い。
老いては子に従え……モテ期の無い自分には、むしろ美月たちがお師匠か。
「あたしは倉庫行って装備品の手入れしてくるわ。黒さん、考えてあげてね」
美月の求めに誠一はゆっくりと頷いて答えた。
それを見た美月は、にっこり微笑んで倉庫に向かっていった。
誠一は今一度背もたれに身を預け座り直した。
笑いが込み上げてきた。なぜか、やたら笑えてきた。
何が可笑しい?
わかりきってる、自分自身が可笑しいのだ。
日本では、自分は当然の事ながら親として二人の息子を育てていた。
同時に息子たちから親として自分は育てられている、そうも思っていた。
こちらに来てからは他人ではあるが、年少の美月・容子・良二を守ることを、彼らを指導する事を念頭に置いていた。
が、何と言う事は無い。こちらでも自分はあいつらに育ててもらっている。
それが無性におかしく、無性に嬉しかった。だから、笑えてきたのだ。
嬉しいのだ。一人になった隊本部で誠一は暫し、そんな嬉しさに浸っていた。
その笑いが収まるとちょうど同じ頃、シーナが茶葉を貰って帰って来た。
「お待たせしました。すぐお淹れますので今しばらく……」
テーブルに付き、手際よく茶を入れ始めるシーナ。誠一はポットを持とうとするシーナの手を止めさせるように、その手首を握った。
「あ、主様?」
キョトンとするシーナ。そんなシーナの手首をグイっと引っ張って、誠一は彼女を自分の胸元に抱き寄せた。
「あ、あああ主様! い、いい一体、これは!」
思わぬ抱擁に眼がぐるぐる回り出すシーナ。顔も真っ赤だ。
「すまないなシーナ。ちょっとの間、ちょっとの間だけこうしていて、いいかな……?」
シーナの眼がさらに見開かれる。やがてその眼の中に喜びの感情が宿り、そして、
「は、はい! 喜んで!」
と、以前の様にしがみ付いてきた。シーナの純な暖かさがじっくりと伝わってくる。
誠一の鼻に当たるシーナのケモ耳が、気持ちいいほどにくすぐったかった。




