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インターミッション 美月と誠一

 着替えをしてからと思ったが、やはり少しでも早くと思い、良二は厨房に向かった。

 厨房に出向くと、そろそろ朝食の後片付けが終わろうとしているところで、料理人たちが最後の清掃にかかっている頃合いだった。

「料理長! ジュディ料理長!」

 謝りに来たわけなので、本来ならこちらから出向くのがスジではあるが、良二は料理長を呼び出させてもらった。衛生面の問題もあり、部外者の良二はみだりに厨房内に立ち入るべきではないと判断。

「やあ、リョウさん。今、お帰りかい?」

 呼ばれたジュディ料理長は、タオルで手を拭きながら出てきてくれた。

 ジュディ料理長はハーフエルフで歳は40後半、エルフの血のせいで30前半に見える。

 身長は良二より若干高く、女性の割にがっしりした体格だ。

「すみません、料理長。俺の不手際でせっかくの料理を……」

 良二は頭を下げた。

「ん? わざわざ詫び入れに来てくれたのかい? ハハ、律儀だねぇ。まあ、次から気を付けてくれればいいよ。ああ、そうだリョウさん、朝飯はもう、食べたのかい?」

 最近、良二らは苗字ではなく、名前で読んでもらうようにした。

 フィリア邸の使用人たちは名前で呼び合っており、自分らもそれに倣いたいと遊撃隊みんなの意見が一致したからだ。ただ誠一だけは、何故か相変わらずクロさんである。

「いえ、実はまだ……」

 それどころではなかったので今の良二は思いっきり、すきっ腹である。

「だと思った! 余り物でなんだけど、サンドイッチ作っておいたから、よければ食べとくれ」

 そういうとジュディは、台に置いてあったサンドイッチの入った籠を良二に渡した。

「あ、ありがとうございます。実はお腹ペコペコだったんですよ、ありがたく頂きます!」

「ああ、召し上がれ! おっとそれと……」

 ジュディは一本の発泡ワインを一緒に渡した。祝い事に飲む事が多い酒だ。

「え? これ……」

 ジュディはワインを渡しながら、実に、実~に下世話な笑顔を浮かべながら言いよった。

「卒 業 お  め  で  と  う  ~」

 フッと周りを見ると、厨房の料理人すべてが似たような笑顔を浮かべながら、おめでとう~、と来たもんだ。

「違━━━━━━う!」

 うん、違うんです。哀しいけどホントに違うんです……




 隊舎応接室。

 誠一はこの隊舎を作ったドワーフの工房長アレジン・ロッタを招き、とある相談をしていた。加えて、美月も同席している。

「呼び出しの連絡が来た時は、何ぞ不具合でもあったかと思ったがのう」

 ドワーフのイメージ通り、小柄ながら筋肉の塊のような体と、大して手入れして無さそうな髭面のアレジンは、誠一から見せられた図面を見ながら呟いた。

「王宮との取引も多いロッタ工房の仕事に、そんな杞憂はありませんでしたよ?」

 誠一の、如何にもな社交辞令にアレジンは鼻で一笑した。

「まあ、あんな無茶な設変ねじ込まれたからな。何か言われてもおかしくないでなと多少は構えとったが」

 例のラー、ホーラが要望した部屋の設計変更、改造の件である。

「その節はご無理を聞いていただき、感謝しております」

「お貴族様は結構平気でムチャ言いよるでのう。しかしこの図面は……」

 アレジンは誠一が示した図面を持ち上げて今日の本題に入った。

「実にわかりやすいのう、正面に側面、上面と基準をちゃんと決めて書かれておる。これに比べると軍がよこしてくる図面は落書きじゃ」

 誠一の図面は正投影図で描かれている、ごく一般の三面図であった。CADは勿論、ドラフターも無い状況で描き上げた、本人としては不本意な出来ではあったのだが。

「いかがですかな? 単純な金属ではないので私も勝手がわからないものでして」

「そちらのお嬢さんがお使いになるのかな? しかし妙な形の錫杖じゃな。これでは持ち方も構え方も常識からかなり外れることになる」

 誠一が提案した錫杖の形、それは言ってしまえばブルパップライフルのそれとほぼ同じ形状だった。

 テクニア討伐戦の折、美月の連続火球攻撃が、まるで機関銃さながらだったことから、ならば形次第で照準のしやすさや構えやすさ、負担の軽減、機動力の向上などが実現できるか? と考えたのだ。

「魔力を高効率で伝えると言われるアダマンタイトを主管と握把(あくは)に、その他は軽量な素材でと思っているのですが……」

「そうじゃのう、いっそ握把や床尾は魔界の古代樹を使ってはどうかの? 魔力伝導効率はアダマンタイトに引けは取らんし何より軽くて硬い。ちと、値は張るがの?」

「お任せしましょう。では、それを基本にこの3種類を図面通りに。それとこちらの……」

「こりゃ遠眼鏡か? 一番長い錫杖に取り付けるんか? 妙な組合せじゃのう」

「美月は何かお願いしたいことはあるかな?」

 誠一が美月に振ってみる。

「まあ、出来るだけ軽く……かな?」

「わかった、仕上げ前に連絡するでの、体と合わせるで調整に来てくれ」

「ご無理言いますが、お願いします」

「なんの、こういう変わった仕事はそれはそれで気合が入るでな。じゃ、そういうことで、これで失礼しようかの」

 アレジンは図面をまとめて担ぎあげると、そそくさと帰っていった。



「やる気出してくれたみたいで結構だ……」

 アレジンを見送った誠一は座りながら呟いた。

「お茶、入れ直しましょうか?」

 シーナがアレジンの使ったカップを片付けながら聞いた。

「ああ、頼むよ」

 誠一も、すぐ所望した。

「美月、ホントにあれでよかったか? デザインとか希望があれば言ってよかったんだぞ?」

「詳しい事は黒さんにお任せだよ。でも、あたし本当にあんなの使いこなせるのかな? 結局あれって鉄砲でしょ?」

「テクニアでのお前の闘い方を見てピンと来たんだ。お前には射撃に対して天性のカンの様なものを持ってそうだとね」

「またホーラさまに怒られなきゃいいけどね~」

「大丈夫さ、火球魔法とその運用だからな。お前の火属性センスあってこその代物だし、俺の光剣や良の水剣と同じものだよ。ホーラさまが怒るような近代銃モドキは端から無理だ。火薬はともかく、雷管が作れねぇ」

 ――ま、ちょっとしたアイデアはあるけどなぁ~

「黒さぁん、また何か悪いこと考えてる顔してるよ~」

 顔に出てしまったらしい、美月に見抜かれてしまった誠一。テクニアの時と言い、まだまだ精進が足りないな。

「主様?」

「ん?」

「すみません、主様。茶葉を切らしたみたいで……厨房で頂いて参ります」

「お、そうか、よろしく」

 言い終わると同時に、シーナは厨房に向かった。

「……彼女、以前みたいに、しょっちゅう抱きつきまくりは無くなったね」

「メイスさんの教育のおかげだな」

 誠一は眼尻を下げ、安心の笑顔を見せた。

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