頑張ってね
「また会おうって……おじさんちへの夜這いでしょ~。全く、お姉ちゃんじゃあるまいしぃ」
ガンッ!
「いったあぁ~い!」
アイラオちゃん、たんこぶまた一つ。
どうやらラーも何とか立ち直ったようだ。
「ふう、今生18700年も生きてきましたが、今日の様な印象深い日も、そうそうあるものではありませんね。まさか彼女の、あのような顔を見られることになるとは……フフ」
「色々お手数をおかけしたようで……」
誠一がラーに頭を下げた。
「いいえぇ、こちらこそ、それ以上に興味深い思いをさせていただきましたわ。それに……」
ラーの眼が妖しく光る。
「お願いしたいこともあります」
その妖しい眼を見て、アイラオは思わず「いっ!」と驚く。
「私、本夕刻にクロダさまのお部屋に忍ばせていただきたく思いますので、ぜひ、ご了承くださいまし」
はい?
「あちゃ~。スイッチ入った~」
アイラオが頭を抱え、諦め顔で呟いた。
「あ、あの!」
容子が声をかける。
「ラ、ラーさま! 昨日ホーラさまと張り合ったのは、大魔王さまのご命令だったからじゃ!?」
容子の疑問にラーはクスッと笑うことで答えた。
「確かに最初はそうでしたわ。でもホーラさまの今日のお姿を見て気が変わりました。あの心の硬い彼女をあそこまで柔らかな人格にしてしまうその手管……興味を持たない方が不自然と言うものですわ」
「どうせ夕べもマジだったろうけどねぇ~」
ガンッ!
「いったぁ~い!」
アイラオに、げんこつ再降臨。
「おなじところをぉ~!」
アイラオちゃん、たんこぶ更に倍。
すっかり本調を取り戻したらしいラーは、フェロモン全開の、甘えの混じった艶っぽい声で誠一を誘なった。
そう、昨夜、胸を強調してのアレと同様のテクで……
「彼女だけに限るとか、そんなつれない事はおっしゃらないで下さいましな、クロダさま? 今宵私に、あなたのお部屋へお邪魔する、お・情・け・を……」
「はい、喜んで」
即答か━━━━━━い! >遊撃隊
「フフ、光栄ですわぁ。メイスさん? 例のモノ、よろしくお願い致しますわね?」
「は、はい! お任せください!」
「ウフ……ああ、こうしてはいられませんわ、さっさと仕事を片付けて魔界に戻り美肌温泉で身を清めなければ。皆さま、大変お騒がせ致しました。これにて失礼させていただきますわ、御免下さいまし」
ホーラたちと違い、白い輝きの様な光などは纏わず、ラーはそのまま消え入るように去っていった。
「ちょ! その前に陛下に報告しなきゃ! ああ、まってよぉ! あ、じゃあ皆さん、失礼しま~す。ご馳走様でした~。あ、お兄ちゃん?」
「え!?」
と、アイラオにいきなり声を向けられ、良二は虚を突かれた。そして……
「頑張ってね?」
と彼女にニッコリ微笑みかけられた。
え? 頑張るって、何を?……ご指名されたの黒さんだし……
それが何か、聞き直すべきかと良二が頭を傾げているうちに、アイラオはラーと同じくスーっと消え去っていった。
静寂が訪れた。
ホーラとオクロが去り、今、ラーとアイラオが去った。
部屋の中と同様、全員の胸の内にも静寂が訪れた。
「フゥー……」
誠一は疲れ切ったように椅子に座り込んだ。
フィリアも座り込む。
美月も、容子も、
そして良二も。
「終わり……ましたね……」
良二がボソッと言った。
「……終わりました……わ……」
フィリアもボソッと。
「終わった……」
と美月。
「終わりだね……」
容子。
「ああ、終わりだ……」
最後に誠一。
良二たちは、項垂れた首を誰ともなく持ち上げ、お互いの眼を見つめ合う。
「フフ……」
水を打ったように静かだった食堂内に、小さな笑い声が漏れた。
「フフフ……」
最初に笑い出したのは誰だかわからない
「フフ、フフフ」
だが、まるで伝染するかのように皆が笑い出した。
「フフハ、ハハハハ」
良二ら遊撃隊やフィリアだけでなく、メイスや、ロゼ、シーナやシオン、メアも笑いだす。
「ハハハハ、アーハハ!」
「アーハハハハハハハハ!」
良二たちは笑った。ひとしきり笑った。
何故笑い出したのかわからない。
何がおかしいのかもわからない。
だが彼らは笑いたかった。
だから笑った。
神さまにわかってもらえたから?
魔王さまに認められたから?
みんなが助かったから?
緊張感から解放されたから?
自分たちの思いが通じたから?
それとも?
全部だ全部! 言葉で並べたことから、言葉にできないものまで全部!
とにかく笑いたい!
「黒さん、お疲れさんでした!」
「隊長お疲れ様ー!」
「お疲れ黒さん!」
良二らが誠一を労う。
「お前らもな! 生きた心地しなかったなァ! 殿下、ご心労おかけしました」
「クロダさまも! お疲れ様でした!」
みんな、大笑いの涙を拭きながら労いあった。
「一時はどうなるかと思いましたよ。昨夜のクロダさまったらホーラさま激昂させて、しれっとしてるんですもの~!」
フィリアが誠一に言う。
「ホント、ハラハラしたよぉ! 黒さん!」
「黒さぁ~ん……もしかして、あれもハッタリぃ~?」
美月に呼応して良二が意地悪く聞く。
「ん~4割……くらい?」
全員ドッと爆笑。こう弾みがつくと、大したことを言わなくても笑えてくる。いわゆる、箸が転がっても、と言うヤツだ。
「でもさぁ、ホーラさまってホント、おっかない方かと思ったけど、あんなお顔見せるなんてねぇ~」
と容子がホッとした様に感慨深く。更に美月が続く。
「ホント心配したんだよ~。オクロさまたちが、ホーラさまに見初められた男は奴隷みたいにされてやがて廃人になる、なんて言われてさぁ」
「え? マジ?」
「マジマジ! それなのにクロさんたち現れたら、ホーラさまの方がむしろ恋の奴隷って感じでびっくりしたっす!」
喋りがメイドモードに戻れそうもないメアも加わった。
「あれにはびっくりしましたわ。我が目を疑うとはこのことですよ!」
「それどころかラーさままでその気にさせてしまわれて!」
ロゼにメイスも参加。さらにサラが直球を投げる。
「ホーラさまにいったい何を?」
誠一にみんなの視線が集まる。
特に良二には今後の参考にしたいところだ。
「……」
「「「「さあ!」」」
「……」
「「「さあさあさあ!」」」
「…………知りたい?」
「「「「「「はい!」」」」」」
「…………今度、二人っきりの時にね?……」
はい、また爆笑。マジで箸が転んでもスプーンが曲がっても爆笑状態。完璧ナチュラルハイ。
「つまり、門外不出の秘伝というわけですね!」
などとロゼはわかった様なわからない様な納得の仕方をしているようだ。
メンドくさいのでそのままでいいやと思う誠一。
「はあ~、取り敢えず会談がなんとか終わってホッとしてますわ、まだ朝だけど今日はもうおしごと、お休みしたい気分です」
フィリアが自分の肩をもみながら言った。
「全く同感ですね殿下。おい、お前ら! 今日は休務にするぞ!」
続いて誠一が休務宣言。
「え!? お休み?」
「休務よ休務! お休みじゃないけど仕事は無し!」
美月の問いに容子が答え、
「その代わり外出とかも無しだけどね!」
良二が補足した。
「あ~それでいいや~! のんびりしようっと」
「でも隊長は夜に仕事あるよね~」
容子がニヤついて言う。
「黒さぁ~ん? 黒さんてば、射程距離云々言いながら、何を即答してんのかなぁ~?」
美月も楽し気にイジリ始めた。
「あ、うん。いや~、ラーさまのフェロモンに理性が瞬殺されちまってなぁ~。本能が言う事聞かねぇつーか……はっはっは~」
などと適当に誤魔化そうとする誠一に、
「奥さんにバラしちゃお!」
美月の追撃が炸裂。
「美月! おま! 鬼か! お、良、変わろうぜ! いい機会だ、筆下ろししてもらえや!」
「ええ! いきなり振らないでよ!」
「ライラさん、怒るんじゃな~い?」
「つ、謹んで辞退します!」
どっ!
うん、またまた大笑い。おまけに、
「主様ぁ! ラーさまの次はぜひ私にもお情けを!」
どさくさに紛れてシーナも迫ってきよる。そこにメア。
「ああ? 先輩差し置いて何言ってやがる? 順番は守れ!」
いや、お前もさり気なく、ねだってんじゃねーよ、と。
「いや~黒さんモテモテだねえ、既に4人! ラノベじゃないけど、ハーレム・エンド一直線じゃん?」
良二がやっかみ半分でからかう。
「バカヤロ、4つの尻に敷かれるって事だぞ?」
誠一がめんどくさそうに答える。
だが、誠一以上に重い尻に敷かれる未来が自分自身に待ってることを、この時、良二はまだ知るよしも無かった。
「お兄ちゃん、頑張ってね?」




