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対…決?

 予想外の展開に、今まで自分のスタイルを通してきた誠一も流石に気を砕かれていた。

 アデスに召喚されるなどと言う大異変が無ければ、結婚できたことが人生七不思議筆頭だった誠一としては一番苦手なジャンルでもある。

「あ、あの、実はワタクシ妻帯者でして……」

「ん? それが? 何か問題でもあるのか?」

 意に介さない、と言うのはまさにこのホーラの顔の事を言うのだろう。全く動じることなく、キョトン、の見本のような表情だ。

 それを見ていた美月が思わず眉をしかめた。

 メイスやシオンから聞いていたとは言え、アデスってマジでこう言う世界なんだ……と。

「お待ちくださいませ」

 また声が掛った。

 ホーラを含め全員が声の方を向くと、声の主は椅子から優雅に立ち上がった、夜王ラーであった。

「これまでずっと立ち合いとして傍観しておりましたが、私も興味が湧いてまいりました。今宵の件、私も名乗りを上げさせていただきますわ」

 今度は遊撃隊全員、真ん丸目玉の上に顎がカクンと垂れ下がる。

 立会人の魔王様まで名乗りって、なんでまた? 一体何がどうなった?

 だが、フィリアやメイドたちからは、おおおおーっと歓声にも似た声が上がった。

 彼女らにとって、最上級神と8魔王に同時に誘いを受けるなど、盆と正月が一度に来た慶びどころでは無いのだろう。

 しかし現状は、それほど……と言うか目出度い気分になぞなれない遊撃隊一同。だってホーラさまったら、色っぽい笑顔から一変、再び眉間に深い溝!

「貴様、何を今更しゃしゃり出てくる? 三界一の好色女が!」

 ホーラがラーを睨みながら吐き捨てるように言った。最初の印象通り、この二人には何らかの軋轢が?

「クロダさまのお気持ち、とても感動いたしましたわ。部下の皆様の純粋さもクロダさまの指揮官としての御指導の賜物。その部下の皆さんを守るための心の大立ち回りには感服せざるを得ません。最上級ドS神の精神攻撃にさぞ心労も溜まったことでしょう」

「今、サラっと何か言ったな、おい? ドSがなんだと?」

「その心労、心よりお癒し差し上げたく、今宵の伽のお相手として改めて名乗りを上げる次第ですわ」

 ――癒し? 伽? え? え?

「貴様の如き、フェロモンが服着て歩いてるだけの女に何が癒しだ? 笑止!」

 フェロモンが服着て……誰が上手い事を言えと……良二はそう思わざるを得なかった。

 良二から見ても、この夜王ラーさまは言葉から話し方から仕草、立ち居振る舞い、一から十まで全てがエロい、全ての動きが言葉が性的交渉を連想させる、そんな風にしか映って来ないのである。フェロモン云々……うん、的確だ。

「ふふふ、しっかりと癒して差し上げますわ。この胸に顔をうずめて頂き、至福の安らぎを……」

 そう言いながらラーは自分の胸をさり気なく、さり気な~く、ほんの少し持ち上げる。

 その胸の大きさ、形、向き、持ち上げ方、持ち上げる指の仕草に至るまで全てがギリギリ、これ以上なにか足しても、これ以上なにか引いても全てが台無しになると言っていいほどの完璧さ! 

 その完璧さをもって107の煩悩を一気にすり抜け、標的である男の性欲を瞬時にして鷲掴みして離さない、甘く、優しく、(いざ)なうような吐息絡みの声でラーが問いかける。

「クロダさま? 大きな胸の女性は……お嫌いですか?」

「大好きです」

 即答か━━━━━━い! >遊撃隊員

 誠一もラーの醸し出す未曽有のエロさに飲み込まれてしまったのか?

「そうでしょう、そうでしょう。そんな鬼の洗濯板のような胸では癒されるものも癒されませんわ」

 おほほほのほ~、誠一の撃沈を確信したラーは勝利宣言ともいえる妖しく不敵な笑みを浮かべた。

 確かにホーラのお胸は魔素異変後500年たっても、やはり見事な見事なペタンコ胸である。

「クロダ……貴公、我の想い、裏切る気か?」

 誠一にはホーラの周りからゴゴゴゴゴと言う音と共に怒りの暗黒オーラが湧きだしてるのが見える気がした。オーラで逆光になり、彼女の表情は影になるも、眼尻の吊り上った眼光だけは爛々と光って睨みつけているよう……

 しかし、おかげでラーの色香から現実に引き戻してもらえたようだ。

「い、いえ私が言いたいのは女性のお胸はすべからく尊いと言う事で……! た、例えばホーラさまの様なお胸の方との密着感、一体感たるや正に至高と……」

 と、恐らくは本人も何を言っているかわからないセリフを誠一は思いつくまま、しどろもどろながらに並べたわけだが、しかして彼女を取巻く暗黒オーラは霧散し、かわりに後光の様な明るさがホーラの笑顔を照らし出した。

「そうだろ! そうだろ! そうであろう! いや、よく分かっておるではないか! では決まりだなっ」

 ご機嫌満点ホーラさま。

 だが、ラーも引かん。

「いえ、そうまで言われましてはこちらも引き下がるわけにはまいりません。雌雄を決する必要がございますね」

「そのようだな!」

 と言う流れで、誠一を巡って対峙するに至った両者。2人の間には睨み合いの火花だかプラズマスパークだかが飛び交いまくっている気さえする。

「りょ、良さん! な、何で、何でこんなことになってのよぉ~!」

 容子がまた腕にしがみ付いてきた。不安丸出しで良二に縋る。

「いや、俺にも何がなんだか……さっきまでの命がけの心理戦は何だったんだよ!」

 まあ、混乱するのも致し方ない。世界の暗雲だの、死は結果だの、あの手に汗握る心理戦より、色恋沙汰の方が激しいとかもう……

「ちょっと、シーナ、メア! いいの!? 黒さんがあんな風にとられちゃって!」

 美月は、目の前で彼女らの愛しい人が強引に寝取られそうなこの現状を訴えた。が、当の二人と来たら……

「ああ、このあと主様にお情けをいただいた暁には……」ホケ~

「あたしたち最上級神様や8魔王さまと●姉妹に……」ホケ~

ダメだこいつらー! と美月。しかし彼女はふと思い出した。

「あ、あのすいません!」

「なにか!?」

「なんですの?」

「ああ、あの……こ、こう言っては何ですが、うちの隊長はああ見えて熟女趣味でしてぇ」

 更に、以前の誠一との会話を思い出した容子も美月に反応し参戦する。

「そ、そうなんです! そ、その、隊長のストライクゾーンは実は40歳以上なんです! ですから残念ながらお二方はエリア外……」

「我は17000歳だが?」

「私は18700歳ですわ?」

「「失礼しました━━━━!」」

 敢え無く玉砕、二人の眼から涙がちょちょぎれる。両者とも見た目は精々30~35歳程度の外見だったので、美月らは神族、魔族の寿命をすっかり失念していた。

 んで(後に教えられたが)12200歳のアイラオがあきれ声で言う。

「お姉ちゃんもホーラお姉さんも~、人んちで、はるまげどんしちゃダメじゃ~ん……」

 いや、ハルマゲドンとかラグナロクとか冗談になってないですけど!

 色恋沙汰の争いを核の炎でとか、マジで勘弁してほしいんですけど!

 良二の脳内はもう、考えることをやめたくなるくらい混乱していた。

「もちろんですよ、アイラオ。私どもも、そこまで常識知らずではありませんわ」

 え、あの、どの口が……

「フッ、やはり『世界の意思』に委ねるほか無さそうだな……」

「望むところですわ……」

 そう言うと2人は半身に構え、ゆっくりと腕を振り上げ耳の位置より若干上のあたりで拳を握った。

 世界の意思……一体どんな決戦法なのか? 良二たちは固唾をのんだ。

「オクロさん? 合図を」

「は、はひ!」

 ラーが、おそらくは開始の合図役であろう、スターターをオクロに依頼した。オクロは二人の前に立ち、口上を述べ始めた。

「こ、この決戦は、せ、世界の、意思による神聖・公平・正当な決戦です! この結果に、には、な、何人たりとも異議を申し立てることは、ゆ、許されません! お二方とも、よ、よろしいですね!」

「承知!」

「承りましたわ……」

 と双方が了承。その直後に大広間には、水を打ったような静寂が訪れる……そして良二たちの緊張はいよいよ頂点へ。

 やがてオクロが目を閉じて眼前で両手を構える。

 そしてカウントダウン。

「両者構えて! 3,2,1、」

 0のタイミングでオクロが柏手を打つ――パァン!


 最初はロック! ロック! シーザ! ペパー!


 あ…………?

 ロック()シーザ()ペパー()……

 世界の意思とは……要するにジャンケンであった。言い方こそ少々変わってはいるが、ただの……ただのジャンケンであった……………… てか、こっちにもあるのかよ……

 緊張の高低差がひどすぎる、立っているだけの事がこれほどしんどい事とは……頭がフラついてくる……誠一の言っていた低血糖状態とは、こんな感じなのだろうか? 良二はモノを考える力がどんどん薄らいでいくようだった……ライラじゃないが、ホント自室で頭から布団被りたい心境であった。

 対して件の二人は……

「シ~ザ~(チョキ)」>ホーラ

「ペ、ペパ……(パー)」>ラー

 ホーラの勝ちである。その結果にフィリアやメイドたちは拍手を送っていた。アデスにおいては、それほど聖なる方法なのか? 日本並みに気楽にやったら怒られちゃうのか? 良二ら地球人組はこんな時、どんな顔をすればいいのかわからなかった……

 チョキをそのままVサインのごとく勝ち誇るホーラ、得意満面である。

 翻ってラーを見ると、

「わ、私は、世界に……み、見捨てられた……」

と、この上なく落ち込んでいた。膝をつき、手を突き、床に沈んでしまうラー様……

 ――そ、そこまで神聖なの? ジャンケンでしょ、ジャンケン!

「さて、行くかクロダ、部屋まで案内しろ」

「いや、あ、あの、もう一つ! もう一つ、お話しておかねばならないことが!」

「なんだ、早く言え」

「実は私、情けない話ですがこの年齢ゆえ、妻との営みでも薬に頼ってるありさまでして……申し訳ありませんが、ご期待に沿えるとはどうも……」

 誠一いきなりのカミングアウト!

 まあ実際に誠一は加齢のせいか途中で折れることが多く、バイ〇グラを処方してもらっていたりするのは、いつぞやもチョロッと漏らしていたが。

 この薬は元々心臓病の薬として開発されたが、むしろあちらの効果の方が上だったというのは有名な話。

 それまではトドだのすっぽんだの、マムシのエキスやらガラナチョコやら眉唾ものしかなかったが、これは革命的と言える効果抜群の高性能薬品であった。

 バイ〇グラは地球でも出回り始めてまだ二十数年、流石にアデスでは……

「こちらをお使いください」

 はい? と誠一が声のした方へ眼を向けるとそこにはメイスが。

 ――へ?

 メイスは手にした薬包を、眼の高さまで持ち上げていた。

「こちらは元々心臓病用の薬だったそうですが、あちらを奮起させる効果の方が高いと言う事で有名でして……」

 ちょーい! 何でそこだけ地球並みに進歩してるんだよ! おかしいでしょうが!

「おお、気が利くではないか! さすが王族の侍女長だ」

「あああ待ってください、待ってください!」

「今度は何だ!」

「じ、実はあの薬は空腹時に服用するんですよ。食後に飲んでは効果が無いんです! 私、会談前に結構食べていまして!」

「そうなのか?」

 メイスを見るホーラ。

「残念ながら……」

 む~っと不機嫌そうなホーラ。可愛らしいほど唇が(とん)がる。

「いや~地球ならその点を改善したレビ〇ラとかバ〇フとか、食事に左右されないタイプも有ったのですが……いや残念無ね……」

「それもございますわ」

 なぜ━━━━━━!

「その辺りを改善するため、高齢貴族の方々が研究所に大変な額の寄付があったとのことで……こちらであれば、奮起はわずかに劣るものの、食事の影響は受けません」

「何でメイスさんがそんなモノ!」

「こんなこともあろうかと……」

 ちくしょー、たった今からあんたのあだ名はサナダだ! 誠一の眼はそんなことを言っているようだった……

「うむ、感謝するぞ! 確かメイス? だったな。褒めて遣わすぞ!」

「はは! 今後ともフィリア殿下共々よしなに……」

「よっしゃ、よっしゃ!」

 ――ED薬で贈収賄すなー!

 ホーラはメイスから薬を受け取ると、メイスに売られたも同然の誠一の襟首を引っ掴み、そのまま引き摺って意気揚々と大広間を後にした。

 良二たちが呆然として誠一を見送りながら、ようやく我に返った頃とラーが立ち直り始めたのは、ほぼ同時くらいであったろうか。

「ああ、世界から見捨てられるとは、かくもつらく苦しいものなのですね……」

 いや、ただのジャンケンでしょ。

「大変疲れてしまいましたわ、フィリアさん? 申し訳ありませんけど、身体を横にして休めるお部屋など、ございますかしら?」

「あ、はい、もちろんご用意させていただいてますわ」

「なに? お姉ちゃん、今夜泊まっていくの?」

「ええ、疲れたのもありますが……明日、クロダさまをお救いせねばならなくなりましたし……」

 ギョッとなる良二たち。

「ど、どういう事でしょうか? 隊長の身に何か!?」

 思わず叫んでしまう。

「おそらく、先ほどの姿が、皆さま方が見る彼の、隊長としての最後の姿でしょう……」

「え? そ、それって?」

「教えてください、いったい隊長はどうなってしまうんですか!?」

 美月たちもラーに詰め寄る。

「オクロさん、彼女の遍歴を皆さんに……責任は私が」

「は、はい! ああ、あのう……」

 良二や容子たちもオクロに注目。ごくんと生唾を飲む。

「ホーラさまはあのように固い性格で通ってまして、同様に身持ちも固く、男女間の浮いた噂はホントに数えるほどしか……」

「最後は250年前に一人、その前は確か……」

「400年くらい前だったと思います」

「へぇ~、独り寝の方が少ないお姉ちゃんとは正反対だね」

 ガンッ!

「いったぁ~~い!」

 ラーの拳骨降臨、アイラオの頭にそれはそれは見事なたんこぶ……

「それでホーラさまは数こそ少ないのですが、一度ご寵愛なされるとそれはもう徹底的に相手を愛されまして……その分、自分だけを愛するように教育と言うか指導と言うか……」

「あれは教育ではありません、言ってしまえば……調教です」

「「「げっ!」」」

「そう言えば、先程ラーさまはホーラさまをドSと……」

 さっきまでのラーとホーラの鞘当てを思い出し、良二の口から洩れた。

「ホホ、私としたことが恥ずかしい言葉を口にしてしまいましたわ、水にでもお流しくださいませ」

 と言いつつ、ラーはポッと頬を赤らめた。

 いや、歩くフェロモンに今更恥じらわれても>良二

 オクロが続ける。

「ですからホーラさまの閨に誘われた者は翌朝には……いずれの相手も、その……首に鎖を掛けられ四つん這いで歩かされていたという……」

「「「えええ━━━━!」」」

「正に、愛の奴隷……いえ家畜、ペット……ああ、すみません、私がお止めしなければならなかったのに、すみません、すみません……」

「わ、私、もしかしてとんでもなく余計なことをしてしまったのでしょうか!」

 そこまで聞き、自分のしたことにメイスも驚愕する。両手で口を押えてオロオロに。

「あああ、殿下に良かれと思うあまり……それに神さまのご寵愛を受ける事は至上の喜びだとばかり……」

「メイスさんのバカ━━━━!! どうしてそんな薬持ってたのよー!」

 美月が泣き叫ぶ。

「そ、それは……女神さまがご降臨の際、殿方をご所望されたら必要になるかと! 女性側が高位だと殿方は緊張で奮起なされないとはよく聞く話で!」

「どうしよう良さん! あたし、隊長のそんな姿見たくない!」

「俺だって見たくないよ! ラーさま、どうにかなりませんか!?」

 良二たちが懇願する。

「そのこともあり、こちらからも名乗りを上げたのですが、世界の意思に拒まれては。オクロさんが仰った通りその結果に異議を申し立てることは出来ませんし」

 や、そんな大層なもんじゃ無いだろ、所詮ジャンケンだろ。

「本来は私は来るつもりはなかったのですが、天界からホーラさまが見えると聞いて大魔王陛下が8大魔王の一角たる私とアイラオを遣わしたのです。異世界の方に何かあってはならないと……ああ、大魔王陛下になんとお詫びすれば……」

「それじゃ、もうどうしようもないのですか!?」

 シーナやメアも流石に危機感に襲われているようだ。もう●姉妹がどうとか言ってはいられない。

「今は祈るしかありません、明日までにクロダさまの心が折れていなければ、私が心身を尽くし、アイラオの全力のケアが有れば立ち直って頂くことは出来るかと思いますが……折れてしまえば……」

 あんまりだ……良二たちは思った。誠一は天界の最高幹部の一人、時空の最上級神と互角に渡り合い、そして見事に自由を勝ち取ったのに、こんな場外乱闘のごとき顛末で廃人にされてしまうなど……

 誰もが言葉を発することもできない大広間でただ一人、 懸命に「すみません、すみません!」と涙声で謝るオクロの声だけが響いていた。

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