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対決!!

「我の見立ては間違っておるか? クロダよ」

 ほとんど息がかかるほどの距離まで近づいたホーラと誠一。

「概ね……その通りでございます」

 答える誠一。

「ふん、概ねと来たか……どうやら一癖二癖くらいはありそうな男のようだな、貴公は」

 ホーラは顔を引くと背筋を伸ばし腕組をした。

「ではクロダ。我らの思惑をここにいる者たちに示せ」

 ホーラの問いに誠一も背中を背もたれに預け、腹の前で手を組んだ姿勢で答え始める。

「それでは……出来る限り、単刀直入に申しましょう」

 本来は着座であっても目上相手との会話は不動の姿勢で応えるものだが、誠一のその仕草は、まるで自分の正当性を鼓舞するかにも見えた。

「ホーラさまや、おそれ多くもメーテオール猊下におかれましては、我らに対して抱かれる懸念、それは我らの世界、地球の知識を活用した技術・行動がアデスの歴史・時の流れに対して、ややもすれば破滅的な結果をもたらすのではないか? と言う事であると考えます」

 誠一の解説に周りの空気が一層張りつく。

 良二やメイスは既に聞いていたことではあるが……

「私の光剣、木島中尉の水剣は個人の素養によるところが多く、おそらくは我ら当代だけのロストスキルとなるでしょう。しかし今回、例えば洞窟内を一掃した粉塵爆発は知識だけあればそれを模倣するのは容易です。魔法力は関係ありませんからね」

 そこまで聞くとホーラは視線を誠一の後ろに移した。

 4人の左端の猫耳メイドに、である。

「メア・キャーロル……だったな? 貴様はその時の片棒を担いだ唯一のアデス人だ。フンジン爆発とやらを見て、何と思った?」

 ホーラがメアに振る。

「え! あ、あのう……」

 メアとしては自分に振られるというのは予想外だった。

 指名された時には、自分はあくまで一緒に随行しただけだから、と考えていたからだ。言ってしまえば「おまけ」である自分は文字通り添え物だろうと。

 しかしそこはそれ、彼女も王族に仕えている一流と目される侍女の一角である。

 普段の厳しい修行や指導は伊達ではなく、高貴な相手でも相応しい対応ができるように心がけている。

 メアはすぐに姿勢を正し答え始めた。

「び、びっくり……いえ、大変驚きました! ば、爆発もすごく……爆裂魔法は過去、見たことはございましたが、あ、あんな洞窟ごと破壊するなど、魔法では見たことはなく……」

「それで?」

「も、木炭を仕入れろと命ぜられ……その、その時は木炭をあのような使い方をする・出来ると言う事は思いもよらないことでした。あれほどの結果を目にするまでは……」

「しかし今は……わかってるな?」

「は、はい!」

「貴様だけで出来るか?」

 メア、しばし考える。そして震えながらも答える。

「れ、練習や実験をする時間は必要かと思われますが……あ、あと、着火法とか……じ、時間はかかりましょうが、で、出来ない事では無いかと思われ、ます……」

 彼女のたどたどしくも要点は逃さないと心がける返答を聞きながらうんうんと頷くホーラ。その顔はそこそこ満足気であった。

 誠一を庇うために嘘の証言をする可能性も否定できなかったが、ホーラはメアが偽りなく正直に答えたことを確信したからだ。

 再度、誠一に目線を戻す。

「クロダ、続けよ」

 誠一はホーラの意に応える様に軽く会釈すると、自身もホーラに目線を合わせた。

「今現在の人間界6か国のパワーバランスは、とても好調に推移していると聞きます。魔素の消費と魔法学の進歩浸透、発展の速度が、6か国とも大した格差が無いのが大きいと思われます。ですが、ここで例えばエスエリアだけが魔法に頼らぬ、しかし魔法戦力に劣らぬ強力な軍事力が独自に起こされたら他国の反応は……」

「各国はその差ゆえ疑心暗鬼に陥り、思惑を同じにする国と手を組むなどして……その結果、均衡が崩れて軍事的対立が先鋭化すると言う……そんな未来が予想できるわけですね?」

 ラーが口をはさんだ。一瞬ホーラは不機嫌な顔をしたが何も言わなかった。

 更に誠一が続ける。

「その先は各国の軍事面、経済面の思惑も複雑に絡み合い、その後の展開を正確に予想するのは非常に困難ではありますが……今現在、政治や経済が深く結びついている現状から鑑みて最悪、天界や魔界を捲き込んでのアデス三界の抗争、崩壊もあるいは有り得るか、とも……」

 全員がシーンとなる。

「あたしたちのせいで……アデスがそんな危険な目に……」

 容子が力なくつぶやいた。

「そうと決まったわけじゃない、これはあくまで最悪のシナリオだ」

 誠一が念を押した。

「そこまでしかとわかっているのは僥倖だ。だがさて……」

 ホーラが腕を組み替えながら続行。

「それでなお、その力を行使し続けると決断している貴公の思惑を説明する番だな?」

「それは……いたって単純です。我ら4人が生き延びるためです」

 誠一はしれっと言ってのけた。

 それを見つめるホーラは卓に腰掛けているので自然と誠一を見降ろすような視線を送ることになる。

 良二には彼女の目線がより一層強められた感じを受けた。

「我らを敵に回しても、か?」

「それが最適の解ならば」

「それで死んだとしてもか?」

 死……良二や美月らの手に汗がにじむ。

「それは……結果、です」

 そう答えた誠一は顎を引き、若干上目目線でホーラを見据えた。

「…………他には?」

「さればもう一つ……それは本日、時空の最上級神様にご降臨頂いた事が理由となります」

「……話が見えんな? なぜ我が来たことが力の行使の理由になる?」

「ホーラさま始め、時空の神々に我々を監視、いや見守っていただけるからですよ」

 ホーラの左眉が少し吊り上がった。

「貴公……」

「我々は生き延びるために力を行使しようとする。神々はそれが流れに影を落とすようなら戒めて下さる。今日、この場のように」

「ならば今すぐ貴公ら4人を始末した方が容易(たやす)いな?」

と、ホーラが誠一に睨みを利かせながら言うと、

「神さまの言葉じゃ無いねぇぃ~」

アイラオが皮肉たっぷりに突っ込んだ。クスっと吹くラー。が、ホーラは無視。

「……ホーラさま方が、時の流れに異常を感じられたのはテクニア討伐からではありませんでしたか? 本来、我らが召喚されたこと自体が事故として扱われなければならない筈なのに、時の流れが乱れなかったのはホーラさまはもちろん、オクロさまからも何も伝えられなかったことからも推察できます」

「うむ、それに関しては貴公の推察通りだと言っておこう」

「恐れ入ります。さて、当初我々はその存在を市井から隠され、いわゆる軟禁状態であり、それが一年続くことも覚悟しておりました。が、詳細は分かりませんが我らはエスエリアの治安や平和に貢献することを条件として大幅に制限を解除されることになり、その後すぐさま人身売買組織を壊滅させるなど、アデス世界に対し派手に介入しましたがホーラさま方は動かれなかった。それは時の流れが乱れなかった証左なワケでして……そこで私はあの時使った地球科学を融合した魔法は個人スキルの範疇であり、アデスの人に伝授できないモノであったからか? とも考えてみました。つまり時の流れを妨げない程度の行動でしかなかったからだと」

「なるほど……今回の事態の分析としては面白いな」

「以上の理由から、この先ホーラさまはじめ、時空の神々が我らを見守っていただける限り、我々はいかんなく自分の能力を発揮し、アデスのために働くことが出来るのではないか、いや、それが必要なのではないかと考えました。一年、正確には10か月と半月余り後、故郷へ帰る日までを無事生き延びるために……それにはまず召喚魔法陣を含むエスエリア王国、ひいてはアデスの平穏が維持されること、そのために我らがそれに全力で貢献すること、神々がそれを注視し、我々を時の流れの中に収め続けて頂くことが必要条件なのだと考えた次第です」

 誠一の答弁が終わり、また静寂が訪れる。

 ラーやアイラオは何か言いたそうだが立場上抑えているようだ。

 フィリアや侍女たちは何を考えればいいか、何を言えばいいのかすらもわからない様子。人間界や、アデス三界に関してならばともかく、地球の科学技術・知識等が絡んでは憶測だけで意見できる空気ではない。

 誠一の言葉は時・空間・次元を飛び越えた者ならではの視点、そこから来る重みがあった。その経験の無い彼女らの思いが纏まりきらないのは宜なるかな。

 時の流れに乱れが出るほどの素養を持つ良二ら異世界人。

 その張本人の頭目がアデス安寧と言う大義をもって同じくそれを目指す神々の使命感と自尊心を半ばくすぐる物言いはある意味、姑息と言うことも出来よう。

 そんな思いも感じるホーラと誠一のキャッチボール。

 だが、今ボールはどちら側に?

 フィリアやラーたちが口を開くのを憚っているのはその判断の不安定さ故だった。

 ――ここ、か!

 そして、

 その中で、

「あ、あの、」

 良二が口を開いた。

「おそれながら言わせてください!」

 慣れないせいか、不自然になった良二の口上に誠一の口元がほんのちょっとニヤけた。

「おれ……いや私は、ホーラさまと隊長のお話しを全部理解できてるわけじゃありません! でも私は戦いに参加して成果を出した事と言うか……その、嬉しかったです! 組織を壊滅させて、さらわれた女性を解放して、彼女たちに喜ばれて、嬉しかったです。嬉しかったんです!」

 緊張のせいでうまく呂律が回らないものの、良二は言いたい事、言える事を一気に喋った。

 どっちつかずで漂っていたボール。

 それを良二は、あえて掴んだ格好だ。

 そして、

「わ、私も……」

次にボールが容子へと続く。

「私も嬉しかったんです。今度のテクニアの町の人たちにすごく喜ばれました! 日頃お世話になってるフィリア殿下、他の皆さんから喜んでもらえた事、嬉しかったです!」

「あたしも! 町の人たち、みんなが喜んでくれて笑顔で送ってくれて、とても嬉しかったです! あたしたちの働きで、アデスの皆さんが喜んでくれるなら、もっと働きたいです!」

と美月。あたしも言わなきゃ! そんな思いがひしひしと出ていた。

「そうです! これからも、俺たち、いえ、私たちはアデスにいる間、アデスの人たちの役に立ちたいです! 喜んでもらいたいです! 私たちがここにいられるために! 地球に帰るために! だから……見ていてください! 私たちの事!」

 最後に良二が締めた。

 ふりかえった誠一の目は「上出来だ」と言っているような、良二はそう感じた。

 そんな誠一の目を見て、良二は高鳴る鼓動が良い調子で収まる感じになっていくのがわかった。ちょっとした満足感が良二の頭を巡っていた。

 しかし、よく口に出せたものだ。ちょっと前ならおそらくは思い切り縮こまって、一言の呻き声すら出せずに震えていただろう。緊張感が静まる中で良二はそんな自分自身に驚いていた。漂っていたボールを掴み、ホーラに投げ渡したのだ。

 人身売買組織戦でも、テクニア討伐戦でもいろいろ問題はあったが、助けた少女たちや町民たちに喜ばれた時の感激が後押ししてくれたのかもしれない。良二は今までに経験したことの無い、心地よい充実感を感じていた。


「ふん……」

 ホーラは目を伏せ首を傾けた。

「ふ、ふふふ……」

 肩が震えだす。

「ふふふ、ははは」

 そして

「あ━━はっはっはっはっは! は━━━はっはっはっ、ははははははは!」

 大笑いを始めた。

 最上級神の大口開けての大笑い、これは何と解釈したものか……良二はもちろん、フィリアたちは混乱していたが、

「貴公ら一体何を考えてるんだ? なにか? 我に貴公らのベビーシッターでもやってくれとか、そう抜かすか! はーはははは!」

などとホーラが言い出すと更にキョトン? であった

「長年、時空を司って色々な願いを聞かされたり許しを乞われたりはされたが、子守を頼まれたのは今宵が初めてだ! これが笑わずにいられるか!」

 ホーラは膝を叩いて笑い続けた。一年分まとめて笑っているかのような勢いだ。

 が、やがて笑いをピタッと押さえ、ホーラは再び誠一に顔を近づけると誠一の顎を指先でクイッと持ち上げた。

「いいだろう、その願い叶えてやる。貴公らの一挙一動、我らが見つめよう。アデスの生きとし生けるもののために働くならば称賛もしてやろう。だがもし、アデスに災いとなる行為があらば即座に神罰を与えてやる。例えそれで死んだとしても、それは単なる結果……だったな?」

「伏してお願い申し上げます……」

 誠一はホーラに深く頭を垂れた。それ故ホーラの指は顎を外れ、誠一の額に当たることになり、まるでこの首をお預けする、そんな姿勢になった。

 そんな誠一を見つめるホーラは今宵初めて見せる柔らかい笑顔を浮かべていた。


 会談の良き終息が見え、フィリアやメイドたちは全員一斉にホッと胸を撫で下ろした。そして良二たちも。

「面白い奴だな貴公、実に面白い。クロダか……気に入ったぞ!」

 先程迄とは全く違い、ホーラは実に上機嫌そうな口調でそう言った。

「恐れ入ります……」

 そう言った誠一の言葉にも安堵の気持ちが感じ取れた。

 と、誰もが大団円に向かって場が流れる、と思っていたのだが……

「うむ、ところでフィリア王女よ。クロダの部屋は個室か?」

 この、ホーラの突然の問いに周りが、へ? となる。誠一の部屋がなんですと?

「は、はい。仮設の隊本部になっておりますが、就寝はお一人で……」

「そうか、ならば構わんな。クロダ! 今宵は我に付き合うがよい」

 は?

 ホーラのいきなりのお誘いに遊撃隊全員の眼が真ん丸になってもうた。ピンポン玉に油性マジックでちょこんと点を描いた、そんな目ん玉だ。

「なんて顔してる? 我は貴公を気に入ったと言ったではないか。まさか、断る理由はあるまいな?」

 ホーラさま、先程迄の厳格な態度と違ってえらく色気目線である。

 これは間違っても酒やばくちの席に誘っているわけではなさそうだ。

 すると残るは……

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