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神さま御降臨

 昨日今日、良二はフィリア邸内が何だか、いつもより慌ただしくなってる感じを受けていた。メイドさんたちの雰囲気が、なにか険しく感じるのだ。

 外征から帰って来て1週間、軍や魔導団からの遊撃隊への要請はしばらく無く、良二たちは外征での反省も踏まえ、訓練や座学に勤しんでいた。

 そんな感じで、遊撃隊の面々はいつも通りの課業をこなしているのだが、フィリア邸の人々は、今日の朝になってから動きが一段と多いというか早いというか。

 そんな、ちょっと気になる中で、今日の午後は書庫から本をいくつか拝借して、本部で美月や容子たちと色々と情報を教え合ったり、前回の外征の様な依頼を受けた時に役に立つ戦術等を検討していた。後日、誠一に評価してもらうのだ。

「もう3時だね、お茶入れようか?」

 容子がティータイムを提案。

「そうしよっか。カップは……3つでいいかな?」

 良二がカップを用意しながら聞いた。

「黒さん、昼から一番でフィリアさんのところへ行ってそのままだね」

「一応、隊長の分も淹れるわ。カップはとりあえず3つでいいんじゃない?」

 言われて良二はテーブルにカップを3つ並べる。

 容子はポットをセットし、湯を沸かし始めた。

「魔法が使えると言っても魔法具は無しって訳にいかないんだね」

 美月が今更のように言った。

「体内の魔力は無限じゃないからね。やがて補充されると言っても、枯渇すると体の動きが極端に鈍くなるらしいよ」

「しょっちゅう魔力使いっぱなしでもOK、とは行かないんだろうね」

 やがてお湯が沸き、容子が茶葉を入れた網をポット内に落とす。

「魔力切れってどんな感じになるんだろうな」

 茶葉が開き、立ち上るお茶の香りを楽しみながら良二が言う。

「黒さんが聞いたところによると、なんか低血糖を起こした時とよく似てるんだって」

 と美月。

「とか言われてもね~。低血糖とかなったことないし……隊長、糖尿病とかあるのかな?」

「まあメタボってほどじゃないけど、歳相応にはお腹出てるしね」

 容子と良二が笑い合う。

「聞いてみるとね、とにかく体が重くてだるいんだって」

 そう美月が言ったところで、そろそろいいかな~、と容子がお茶をカップに注ぎ始めた。

 菓子入れの箱を開けてクッキーも並べる。

「一度、魔力を使い続けて枯渇した場合の体の状況や、枯渇する前の黄信号辺りの感覚を覚えなくちゃって黒さん言ってたな」

「実戦でいきなり魔力切れました、動けませ~んはマズいよね」

「マジ生死に関わるもんね~」

「一度、みんなで試しておかないとね、1人でやるのは危険だし」

 その良二の言葉に2人がうんうんと頷いた辺りで、

 コンコン……

ノック音がして、

「失礼しまーす」

とシーナが挨拶しながら入ってきた。同時に部屋内を隈なく見まわし始める。その心は勿論、誠一であろう。

「ん? どうしたの? 黒さんなら、まだ戻ってないわよ?」

「そうですか~」

 ショボーンなシーナ。

 シーナはまだ見習い中であり、現在は午後1時から3時までの間だけ誠一に仕えることを許されている状況だ。15分の休憩後は、また先輩らの指導が待っている。

 誠一は昼からフィリアやメイス、ロゼと余人を交えず合議しているので、締め出されたシーナは普通のメイド業務に引っ張り出されているようだ。

「お茶飲んでく? 隊長の分、余ってるし」

「いいんですかぁ? いただきます!」

 良二はもう一つカップを用意した。そこに容子が残りのお茶を注ぐ。

「はい、どうぞ~」

「ありがとうございまーす、ススッ、あち!」

 お茶で舌を焼いたか? シーナがビクッとする。

「大丈夫?」

 美月が心配したように聞くが、

「え? ええ、実は私、猫舌で……」

「……あんた狐じゃない」

「そうなんですけどね~、熱いの弱くて」

良二と容子は何か微笑ましくてクスっと笑った。

「ねぇシーナ、前からちょっと聞いてみたかったんだけど……」

「はい、なんでしょう?」

 容子がシーナに尋ねる。

「あなた、隊長の事どう思っているの?」

 言うまでもなく、シーナは隙さえあらば誠一にベッタリしたがりである。

 故に、それについては良二もかねてから聞いてみたかったが……寄り道せず、割とストレートに聞くなぁとは思ったが、対するシーナの反応も、

「お慕いしてます!」

と、これまた即答&直球である。

「好きって事?」

「はい!」

 即答である。

「愛……してる?」

「はい!」

 三連発である。

 容子も聞いたはいいが、こうもあっさり即答だと却って反応に困ってしまってるようだ。

「まさか、結婚とか考えてるなんて……」

 美月が便乗して問いかけるが、

「勿論考えてます!」

と四発目の即答である。次は良二が行ってみる。

「でも、黒さんとは親子かそれ以上に歳離れてるし……」

「問題ありません!」

「奥さんいるんだよ?」

「構いません!」

「いや、ダメでしょう!」

「何故ですか?」

「奥さんが嫌がるだろう!」

「同じ男性を愛した者同士、認めて頂けるよう頑張ります!」

 さすがに言葉を失う3人……うん、何を言ってもアカンわ、この娘……

 そんな3人の気も知らず、ニコニコ顔で美味しそうにお茶を飲むシーナ。

 誠一の事を「好き!」と口にするだけでも幸せ感を満喫してそうな、そんな笑顔だ。

「まあ隊長も善人だとは思うけどねぇ」

 テクニア戦以降、容子は誠一のことを隊長呼びするのが板についてきたようである。

「これだけ慕われるってのは……まあ。良さんも見習わなくちゃね~」

「え? なんで俺?」

「だってぇ。あんな夜更けに女の子1人で帰すなんてさ~」

 う、そこに来たかー。

「あれはいけませんわ、リョウジさま。せめて辻馬車の手配とか……」

「無事だったからよかったものの、ここの治安は日本ほどじゃ無いんだから」

 あの翌日、良二は朝一番でユニバーサル通商へ赴き、ライラの無事の確認をしに行った。

 本人はすぐに外回りに出たそうで会えなかったが、普段通りだったと言われホッと胸を撫で下ろし、大きく安堵の息をついたことは記憶に新しい。てか、まだ一週間。

「……返す言葉もありません……反省してます……」

「「「以後、気を付けるように」」」

 三人に締めくくられたところで、

「失礼しまーす」

と侍従長補のラークがこちらに顔を出してきた。

「ああ、やっぱりここにいたのシーナ? 休憩時間終わりよ、さっさといらしゃい」

「あ、はい! ただいま!」

 ご馳走様でしたっと礼を言い、シーナは部屋を出ようとした。

「うおっと!」

「あ、主様!」

 そこで戻ってきた誠一と偶然バッタリ鉢合わせ。

「よ、これから仕事か? 頑張れよ!」

「お疲れ様ですクロダさま、失礼いたします。シーナ、ほら早く!」

「あ、先輩! せめて5分、いえ、1分だけでも!」

「ダメよ、いらっしゃい!」

「お慈悲を~」

 シーナの涙声はそのまま廊下の果てへ、だんだんと遠くなっていった……


 戻ってきた誠一はソファに座るとフゥーとため息をついた。

 ホント、誠一に限らずアデスに来てからため息をつくことの多い事多い事。

「ちょっと面倒なことになりそうだ」

 誠一は容子が淹れてくれた茶を啜り、一息入れてから切り出した。

「今日の夜になるんだが、この屋敷に時空を司る最上級神、ホーラさまがお見えになるそうなんだ」

「ホーラ……さま? 確か召喚に立ち会ったオクロさまの上司と言うか上官と言うか……」

 と良二が反応する。

 ずいぶん身分の高い人……いや神さまだと聞いてはいるが正直、良二や容子らにはピンと来ない。神さまなんて初詣でくらいしか馴染が無いから全然実感がわかない。

 が、今日の家中の人が慌ただしく動いていたのはそのためなのかもしれない、とは良二にも考えつく。

「で、隊長。そのホーラさまは何しに来られるの?」

「目的は、まだ正式には伝えられてはいないそうだが、俺たち四人とメアの同席を要求しているそうだ」

「メア? 何でメアなの?」

「多分だが、俺はこの訪問は、この間の遠征に関しての事じゃ無いかと考えてる」

「遠征の件で? でもホーラさまは時空の最上級神だし、オクロさまの上司なんだから召喚に関係した事で来られるんじゃ無いの? なんで、こないだの遠征のことで来るの?」

 容子が頭上に疑問符を浮かべながら聞く。些か畑違い感が強く感じられるとは誰しも思うだろう。

「あれから召喚目的とか全然情報入ってこないし」

「うん、それはもっともな疑問だろうが、ホーラさまは時空、つまり過去から未来への時の流れを司っておられるわけでな。その流れに支障があると判断されたとすれば……」

 ここで良二もピンときた。

 テクニアの宿で誠一と話していたことを思い出す。

「黒さん、もしかしてこの間の、あの話……」

「多分な」

「何よ?」

「何なの?」

 良二と誠一はテクニアの宿で2人で話していたことを美月らにも話した。

「殿下ら王族も含め、人間界の者は、通常はオクロさまクラスの上級神にすらめったに会えないってのはメイスさんも言ってたよな? それよりも上の最上級神ともなれば一生に一度お目にかかるかどうかとも。そんな高位の神さまがやってくるんだ。俺たちのやったことは俺たちが思っている以上に、アデスに影響を与えるかもしれないと」

「とても偉そうな人だとはわかるけど、どうもピンと来ないなあ」

「美月に同意だ。俺だって、高位の神さまと言われたところで、やっぱり実感はない。だが殿下やメイスさんらの緊張感はもうハンパ無いんだ。何せ国王陛下や王太子殿下も、こちらに出向いて挨拶したいと申し入れた位だそうだからな」

「え~! ってことは王様より偉いの? 普通、王様のところへお邪魔しまーすって挨拶に出向くんじゃ?」

「美月ぃ、こっち来た時メイスさんに説明してもらったじゃない。天界が一番偉いって」

「え、あ~、そうだっけ?」

 テヘペロ。

「て、ことは、国王陛下も来られるのかな?」

「その必要はない、と一蹴されたそうだよ。当然申請は取り下げだ」

「国家元首を一言でぇ!? な、なんか段々怖くなって来たわ隊長~」

 うんうんと頷き、俺も怖ぇよと誠一。

 そりゃまあ敬愛するフィリア殿下の更に上の国王に、来んでもええとか言ってのけちゃう存在なワケで……良二も背筋が寒くなってくる。

「神さまに関しちゃあ、さっきの話し合いで伝承だか神話だかって前置きで、チラっと聞いたんだが……」

 誠一がひときわ神妙な顔になって話し出す。

「魔素異変よりずっと前、数千年、一万年かあるいはそれ以上前、人は文明を築き始め、その技術に酔いしれ、自然を荒らしまくる様な乱開発をしたりとか、何をやらかしたのか神をも恐れぬ行為に走り出した、って言い伝えがあるらしくてな。それを知った大神帝さまが胸を痛め、やめるように促したが傲慢になった人々はそれを無視。大神帝さまはそれを悲しみ、涙を流された。それを聞いて怒った最上級神の1柱が地に降り立ち、神の罰を与え、その場にいた人々を街ごと一瞬で焼き尽くしたと。以前、見せられた世界地図には各大陸に大きな砂漠があったが、そのうちの一つか二つが、その時の神の怒りで焼かれた跡だと、そんな言い伝えだ」

 誰かがゴクッと唾を飲み込む音がした。

「その傲慢な人類を焼いた炎を伝記には『神は地上に太陽を作り、その光で人々を焼き尽くした』とか書かれていたそうな」

「地上に太陽?」

「それだけすごい光って言うか、熱い炎って言うか?」

 美月と容子はもの凄い巨大な火で焼かれたと、漠然と感じているようだ。しかし、良二と誠一は……

「ね、ねえ黒さん……もしかしてそれって……まさかね……」

 良二は何かを直感したらしい。

「魔法、神さまの場合は神通力と言うらしいが……何度も言われてるが、魔法の基本はイメージだ。もし、その神さまが、例えば4つの水素の原子核が融合して、1つのヘリウムの原子核になるとか、そう言うイメージが出来る方なら……」

 良二の顔色がどんどん蒼褪める。容子も水素だのヘリウムだの太陽だの、よく分からず何となく聞いていたが、そのうち線が繋がったらしく……。

「それって……核爆発……」

「へ?」

 美月はよく分からず首を傾げたが、ちょいと時間を置いてから連想できたようで、頬に一筋、冷や汗が垂れ始めた。

「マ、マジ?」

「あくまで想像だ。所詮は言い伝えだしな。俺だって多少の理屈はわかるが核融合のイメージなんか出来っこねえし」

 良二はメイスから聞いた魔素異変の話の中で、最上級神や魔界8大魔王の本気攻撃は他の二界に影響必至と言うくだりを思い出した。あながち嘘とも……

「まあ神さまが歩く核弾頭かどうかはわからんが、とにかく怒らせるとおっそろしい連中だってことは、確かなんだろうなぁ」

「俺たちはどうすりゃいいのかな。神さまとの応対の仕方なんて全然……」

「俺だってわかんねぇよ」

 半ばヤケっぽい誠一。頭を掻きながら続ける。

「とにかく矢面には俺が立つから。ホーラさまの質問は俺が受けて、補足が必要ならお前らに回すが何も飾らず、本心のまま話せばいい。話せないならそれもいい、責任は俺が取る」

「でも無礼な言い方とか、しちゃったら……」

「それも俺に任せろ、嘘も虚栄もいらん。相手は神さまだ、俺たちで考えられるような姑息な手管などお見通しだ、くらいに思っておけ」

 消沈して力なく頷く3人。

「今日の課業はこれで終わりにする。5時半までに入浴を済ませ、6時に夕食。軽いものを中心に用意してくれるそうだ。で、訪問は8時だからその15分前には大広間で待機する。以上だ」

 誠一はそう言い終わると、残っているすっかり冷めてしまった茶を一気に飲み干した。

「なんか……すごく怖くなってきちゃったな」

 美月が、か細そうな声で漏らすように。勿論その思いは良二も容子も、おそらくは誠一も共有しているモノであろう。呼吸するのにも違和感……引っ掛りを感じるくらいの不安。

 もう一押しせにゃならんか……誠一は即興で理屈をこねてみた。

「怖いってのはな、相手の事が分からないって事から来る感情でもある。これをしたらああなる、こうしたらこうなる……てのが分からないから不気味に感じるんだ。だから今日はそれを知るために、神さまって実際何者なのか? その辺りを教えてもらう気でいりゃいいのさ。取って食われるわけじゃねえ」

 聞いた良二は、一理あるな……と思いつつ、軽くフン! と気合いを入れ、

「そうだよね。俺たちもアデスに召喚された直後は何も分からずオロオロするだけだったけど、こちらの事を知るようになって不安はだんだん減ってきたもんな」

と容子や美月にも、そして自分にも言い聞かすように言った。

「そうよね、知る、ってか慣れりゃいいのよね」

「アデスの生活にもすっかり慣れたしね。神さま相手でもきっと!」

 3人とも少しは奮起してきたようだ。このタイミングで誠一が更に発破をかける。

「よし、その意気だ。風呂は4時から入れるようにするそうだからすぐ準備しな。地球ではまず出来ない神さまとの対面だ、楽しむつもりで行こうぜ」

 誠一に言われ、皆、はい! と元気に返事した。気合は十分に入った様だ。

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